日本一トンがった鋳造メーカー・キャステムに垣間見る、素晴らしき日本の新・ものづくり最終回。東京・日本橋にあるコンセプトショップ「metamate(メタマテ)」の金属雑貨コンシェルジュ・長瀬友行さんが語る金属がもたらすロマンとは?
他社が断るレベルの仕事をやり続ける
mono:ズバリ、今、利益を出し続けてられている秘訣は何ですか?
長瀬:広島のキャステム本社で工場見学をした方はみんなビックリされますが、キャステムのロストワックス製法はいまだに全部人の手による作業なんですよ。それでいて、利益を出せている理由は、20年以上前から他社が断り続けるレベルの「難モノ」をずっとやり続けてきたから。例えば100個作って40個しか良品が取れないモノなんて当然、最初は赤字です。でも1回作ってみたらその肌感がわかるじゃないですか。で、次に同じモノを作ったら50個取れるようになるとか。最初は赤字でも作り続けて技術が上がることによって、それがノウハウとなり利益が取れるようになります。そういう案件を社内に蓄積して行ったら、他社が断る案件はキャステムでしかできないと、評判が広がるじゃないですか。だから鋳造でキャステムに断られたらもう他では作れない。実際、そういうところまで技術も進歩していますし、小ロットにも対応しています。逆にロットの大きいものは中国、台湾などのメーカーに任せた方がコストも安いし、今では技術的にも優れています。彼らにしてみれば難しいモノを作るのができないのではなく、儲からないからやらない、というだけですから。
mono:小ロットでやり続けてきたことが今、イイ感じに!?
長瀬:正直、会社的に凄くしんどい時期もありましたよ。ひたすらそれを続けてきたからこそ今のキャステムがあります。どれだけ景気が悪くなっても絶えず仕事が来たのはこれまでのチャレンジがあるから。3Dプリンタにしても、みなさん、3Dプリンタで出来上がったモノをそのまま納めるっていう固定概念からなかなか抜け出せていないよう印象を受けます。3Dプリンタは寸法精度がまだまだ安定しないので、製造業の部品としては正直、むずかしいですが、ちょっと手を加えれば製造業の強みが存分に発揮できるんですよ。実際、10個なら型掘って作るよりも3Dプリンタで作って、寸法ガタガタな部分を削った方が早い。これを思いついて、実際にやるかどうかなんですよね。そこの部分がメチャクチャ大きい。
作れないモノってほぼない、コストと作る理由だけの問題
mono:クラウドファンディングは利用しますか?
長瀬:もちろん研究はしてはいますが、キャステムの場合、モノを生み出してから売るまでが早いので、クラウドファンディングしている時間がもどかしいというのもあります。資金がない場合には有効だと思いますが。キャステムでは失敗したらそれまで、成功したらハッピー的な考え方で、どんどん作ってどんどん売ってしまいます。なので、プレスリリースも出しまくっていますよ。月契約しているので、月1本はプレスリリースを打たないとダメというのもあって、実際、人によってはしょうもないものに映るモノまで出していますからね(笑)。ただ、今後は話題性も含めてクラウドファンディングを活用して「メタマテ」発で何か新しいモノを作ってみようというプランはあります。他の製造業者とコラボして、クラウドファンディングのサポートも含めて「メタマテ」がその出入り口として、仲間内でモノを作って売る。実際にそういうことを今、企画していまして。
mono:「メタマテ」独自の展開ですか?
長瀬:もちろん、キャステムとは別で。キャステムを噛ませると、待ちきれずにすぐに売ってしまいますからね。それがキャステムのいいところでもありますが。このお店を通じて、いろんな職人や製造業者の方と知り合うことができましたが、みなさんに聞くと、技術はあっても何を作っていいかわからないという方も少なくないんですよね。いくら技術やモノが良くても売れるビジョンのないモノはやはり売れません。作り手がちゃんと届けたいと思っていないから。そういうことをお店を持っている立場の人間として伝えています。つい先日もある会社さんと意気投合しまして、まだ詳細は言えないのですが、コレを金属で作ったらロマンがあるよね、しかも人がギリギリ持てるくらいのヘビーな重量で……という話で大いに盛り上がりました。基本的に世の中で作れないモノってほぼありません。コストとか作る理由の部分だけですから。
mono:お話をうかがっていると、就活生にも人気が出そうですね
長瀬:おかげさまで毎年200人以上の応募があります。製造業は少し前だと3Kとか言われた業界でした。鋳造なんてその最たるもので、夏場は現場環境が50度を越えることもあるし、誰も中には入りたくはないですよ。それを今の社風、環境にまで高めてこられたというのはありますね。それを作るのにお金はかかっていません。費やしているのは経営者の情熱。それも1年2年ではなく、紙飛行機を飛ばし続けつつ、自由な社風を求めて20年30年かけて作り上げてきた戸田拓夫(キャステム代表)だからできたことでもあります。経営者がどこを向いて経営しているか。これは製造業に限りませんが、どんどん先細っているところだけを見ていたら、未来はありませんよね。老舗のお菓子屋さんのロングセラー商品も、実は時代によって少しずつ味を変えています。味を変えるのはプライドではない。ものづくりは時代に合わせて変えていく。その意味では鋳造にこだわり続けるのもニーズがなくなればナンセンスとも言えます。ただ、「メタマテ」での活動を通じていろんな人と話をして再確認できたのは、金属にはロマンがあるということ。今後も日本のものづくりの技術をしっかりと伝えながら、楽しく凄いモノを作り続けていきたいですね。
「meta mate」
金属雑貨コンシェルジュ
長瀬友行さん
1980年岡山県生まれ。2011年キャステム入社。経理、新事業部アイアンファクトリー、広報を経て現職。「ネタ系商品もたくさんやっていますが、日本の技術力の魅力を伝えていきたいですね」。
meta mate誠品生活日本橋店
東京都中央区日本橋室町3-2-1 COREDO 室町テラス2F
TEL/03-6910-3530 営/10:00〜21:00※時短営業中(11:00〜19:00)定休日/元旦のみ https://www.metamate.jp
キャステム https://www.castem.co.jp