#42 ジョンストンズ
イングランドに吸収されるまでの近世スコットランドの歴史は、決して明るいものではなかったが、どういうわけかこの地ではその後、優秀な企業家や発明家、科学者が数多く育っている。産業革命に端を発した18世紀後半~19世紀における経済成長と社会的発展は著しく特にアメリカ大陸との交易が盛んになったことで製造業が大きく発展したのである。また同時に、スコットランドは清廉な水を生み出す土地でもあった。スペイサイドのスコッチ・ウィスキーなどはその代表的存在であるが、水質が製品作りに大きく影響する産業がもうひとつあった。それが綿花や羊毛を加工する繊維産業である。
『ジョンストンズ』はそんな時代背景の中で創業された老舗。スコットランド北東に位置するエルガンという水のきれいな場所で200年以上にわたって最高級の製品を作り続けている。パリのクチュールファッションに代表される世界の高級メゾンやトップデザイナーたちが、こぞって自らのコレクションに加えるほどのクオリティを誇っており、一度は着てみたいカシミア製品の代表的存在である。
ジョンストンズの中でもとびきりのクオリティを持つのがカシミア製品。ローマ帝国においてエリート政治家のみが着用を許された歴史ある素材で、カシミアゴート一頭から収穫される下毛はわずかに125グラムという超貴重な素材である。
極上の定義を知る
1797年、スコットランドの北東部にあるエルガンで創業した『ジョンストンズ』は、200年を超える歴史があり、そのすべてをジョンストン家とハリソン家のファミリーが経営に携わる、ファミリー企業である。1801年頃からウールを中心とした手織りビジネスを展開し、1840年代初期には同社の代表的なデザインである「エステートツイード」の創作に取りかかっている。ご存知のようにスコットランドのタータン柄は、氏族を特定する織り柄クランタータンがよく知られているが、対するエステートツイードはその特定の地域に居住する領主に帰属するものが多く、それぞれの土地に生息する野生動物等の外敵から自らの身を守るためのカモフラージュカラーという目的のもとデザインされてきた。当時は厳しい天候に耐えられる重い生地でのみ作られていたが、時代を経て軽い生地のものも生産されるようになり、現在では高級カシミア素材の製品にこのエステードツイードを起源としたものが多く選ばれている。1970年代後半にニットウエアー生産の生産基盤に着手し、その後1980年代初めにわずか8名の従業員のもと自社工場をスタートさせた。
ジョンストンズで特筆すべきはトラディショナルな製造工程。創業間もない頃から活躍するカーディング機や、アザミの実を使ったアザミ起毛の工程など、21世紀のいまも産業革命当時の技術が残っていることに驚きを禁じえない。もちろん、工程によっては近代的な機械の導入もなされているわけで、そうした伝統と近代化の融合こそが、英国文化そのものを体現したものだということに思い至るのである。同社ではカシミアの他にビキューナ、メリノウール、ラムズウール、キャメルヘアーなどの高級素材を扱う。その厳選された選別を行うのは同社の審美眼、原毛から染めるTop Dye(トップダイ)を中心とした染色のレシピにも独自の職人性がある。200年以上も守り通してきた歴史の重みも一緒に着るブランドである。
ジョンストンズのトレードマークとでもいうべきエステードツイードはスコットランドの山々や高原の背景に調和し、狩猟用として身を守るカモフラージュとしての役割も果たす。その配色の妙はまさに伝統の図柄といえるだろう。
ジョンストンズ社にアーカイブされる歴史的写真の数々。この時代の製造工程が、現代においても最高の製造方法として守られていることを知ると、嬉しくなってしまう。最高の素材が世界中から集められた長い歴史を持つ英国製品の凄さをうかがい知ることができる。
タートルネック
カシミアのあたたかさが存分に
味わえるタートルネックのセーター。
ラウンドネック
ベーシックなラウンドネックは
フィット感の高い美しいシルエット。
Vネック
Vネックニットはこの冬一枚は欲しい
定番アイテム。中にシャツを着てもいい。
カシミアストール/190×70
軽さと暖かさを持ったカシミアならでは
の一枚。大きめのサイズで多用途に。
初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』 2013年1月6合併号