コーヒー好きにはお馴染のブランド「メリタ」から新製品が出たというので、試してみることにした。手元に届いたのはちょっと変わったかたちをしたコーヒードリッパー。手に取って眺めてみると、磁器ならではの青磁色と滑らかな流線形がいい雰囲気を醸し出している。見た目なんかより美味しいコーヒーが淹れられるかどうかでしょ、と言われてしまいそうだが、心惹かれる姿かたちも立派な購入動機であってもよいと思うのだ。
昭和40年代生まれの筆者は歴代ポルシェの中でも不人気極まりない928に憧れ、キヤノンEOSの登場でカメラデザインの革新を目の当たりにした世代だ。デザインが良ければ機能は二の次という製品はそもそも論外であるが、外見が気に入らないモノは手に取る価値もない、というモノ選びの基準に激しくうなずくご同輩も多いのではなかろうか。
さて、この美しいドリッパーは見掛け倒しのイケメンか、それとも実力を伴ったナイスガイなのだろうか。
まずは抽出口だ。メリタのアイデンティティともいえる「ひとつ穴」は、湯量と抽出時間をコントロールしてくれるので、誰でも安定した味のコーヒーを淹れることができるのだが、反して味や濃さを調節するのは難しい。
そこでプレミアムフィルターでは、ドリップの自由度を高めるためにリブ(溝)の深さや角度を抽出速度を調整しやすいように設計。加えて、抽出状態を目で見て確認できるよう下部に2つの穴を配した。これにより、コーヒーの濃淡を調節できるようになり、腕に覚えのあるハンドドリップ上級者ならより自分好みの味を追求できるようになった。
ただ、このような精密な造型を陶磁器で再現するのは難しい。そこで今回メリタがパートナーとして選んだのは波佐見焼だ。ひとつの工場ですべての工程を行うことが多い一般的な焼き物と異なり、波佐見焼は分業制を用いている。各工程をハイレベルな技術を持つ職人が担当することで精巧な焼き物を作り出すことができる。そんな波佐見焼の独自性がプレミアムフィルターに精密さを求めたメリタのお眼鏡にかなったのだ。
波佐見焼は400年超の歴史を持つ日本有数の陶器産地で生産されているが、その製品は長いあいだ近隣の有田焼の名称の中に包括されていたため、埋もれた陶磁器ブランドだった。しかし近年、様々な改革と挑戦を行い洗練された製品を世に供出して若い層から支持を得ている、古くて新しいブランドだ。100年以上前にドイツでペーパードリップの基礎を築いたメリタも、その歴史に甘んじることなく美味しいコーヒーの味を追求し続けている。そんな両ブランドの伝統と革新のストーリーに想いを馳せるだけでも、モノ好きの所有欲が疼くというというものだ。
前置きが長くなったが、プレミアムフィルターでコーヒーを淹れてみる。我が家でいつも飲んでいる豆を、いつも通りに少し粗めに挽く。蒸らしの後、穴から抽出状態を確認しながら、細くゆっくりと湯を注ぐ。部屋の中に大好きな芳香が充満してくる。淹れたてをひと口。筆者はただのコーヒー好きなおじさんなので、マニアのように真の味わいやら風味などは正直よくわからないが、いつもの豆で淹れたコーヒーは、普段より濃厚で味の輪郭がしっかり感じられ、間違いなく美味しかった。
我が家にやってきた優しげな雰囲気を漂わせた青年は、仕事をきっちりこなす実力を兼ね備えたナイスガイでもあった。もし娘が家に連れてきたら「よい人を選んだね」といってあげたいような非の打ちどころのないイケメンであった。
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Text/Photo:Roots & Slopes