街を歩けば、足元はスニーカーで染まるのが当たり前の時代。たまには雰囲気のあるイイ感じの革靴を履いてちょっと周りと差をつけたい気分だが、一度スニーカーの気楽さに慣れてしまったこの足は、もう窮屈な思いはしたくないと融通がきかなくなっている。履き心地や着脱の容易さなど求めるものはそれぞれだが、総じて”履きやすさ”が重要なポイント。むかし、けして履き心地がいいとはいいがたいゴアゴアのエンジニアブーツをガンガン履き込んで足に馴染ませていた頃が懐かしい。これもまた時代を表すニューノーマルなライフスタイルというものなのか。
そんないいとこ取りの靴はなかなかないと思っていたが、幸運にも見つけてしまった。ミネトンカの「モカシン」だ。古くからネイティブアメリカンが履いていた一枚革でつくられたスリッポンシューズを起源にもつモカシン。1980年代後半から’90年代にかけて大ブームとなり、当時青春真っただ中にあった小生もトレンドに乗っかって気軽に毎日履き込んでいた。ニューノーマルなライフスタイルの今、そのちょうどいいラフさが再び注目を集めている。ミネトンカはモカシンの筆頭ブランドだが、例えるなら熱狂的なアイドルファンが、自分の推しメンを世に知られたくないと思うのと同じように、”自分だけのモノ”。そういう感覚を芽生えさせる一足といったところだろうか。
足を通すと、ふわっとした柔らかい感覚。小学生の頃、給食のお盆を落とした小生に、そっとティッシュを差し出してくれた初恋のあの子のような包み込んでくれる優しさを思い出し、ちょっと顔がにやけた。一度虜になったら、もう手放したくない。自分だけの運命的な出逢いだと信じ、一歩一歩をかみしめる。しかし、”いいモノ”は多くの人を幸せにする。そう、初恋のあの子のように。それでも、いくつになっても少年少女の心を持つ大人たちは”自分だけの”と夢を見るものだ。ミネトンカのモカシンには、そんな所有欲をくすぐられるロマンがあふれている気がする。
でも、なぜ今までこんなにも素晴らしい靴と出会ってこなかったのか……?
「ミネトンカのモカシンはとくに女性に人気で、実は日本で展開している多くのアイテムがウィメンズなんですよね」とは、日本でミネトンカの販売を手がけるコンバースジャパンの藤原昌和さん。たしかに、カタチ、デザイン、カラーと多種多彩なウィメンズに比べて、メンズラインは伝統の「クラシック モック」に街ばきに最適な「キャンプ モック」、それと「トゥーボタン ブーツ」の3アイテムにそれぞれカラーバリエーションと実に潔いラインアップだ。
1946年にアメリカのミネソタ州で創業したミネトンカ。社名は近くにあるミネトンカ湖に由来している。地域の路面のギフトショップのためのお土産や雑貨アイテムをつくることからスタート。ネイティブアメリカンのモカシンスタイルにインスピレーションを受けた手づくりのモカシンは、そのメインアイテムの一つとして人気を集めていた。その後、神秘的な鳥・雷鳥をモチーフにした’55年発売の「サンダーバードモカシン」や、’60年代に独自のアメリカ文化を創ったヒッピーたちに愛された「クラシック フリンジ ブーツ」。’86年デビューの「ドライビングモカシン」はクルマの運転時はもちろん、当時流行のデニムなどラフな着こなしに合わせるのにもピッタリのシューズとして人気を集めるなど、その時代のカルチャーとともに代表的なモデルを続々と登場させていった。
そんなミネトンカの世界的な爆発的なヒットは2000年代半ば、世界中の音楽フェスでハリウッド女優やトップモデルが足を通したことがきっかけ。そこから今日まで世界中の女性たちに愛されるブランドとなった。ほんの数種類からスタートしたミネトンカのモカシンだが、現在では100以上のスタイルを展開するまでに成長。その一方で、現在のミネトンカ社に多大な影響をもたらしたネイティブアメリカンへの支援、慈善活動も継続的に行っている。実に掘りがいのあるブランドなのだ。 #2へ続く
クラシック モック
価格1万6500円
ミネトンカを代表するメンズラインのクラシックモデル。ソフトなスウェード調の素材を使用したフラットシューズで、クッション性に優れたやさしい履き心地が特長。シンプルなデザインで長く愛用できる。チョコレート、ブラック、トープの3色。