2021年の今年、実に多くの国の海軍が来日しました。そのほとんどがヨーロッパからはるばるやってきた艦艇でした。
大きな衝撃を与えたのが、イギリス海軍空母打撃群の来日でしょう。空母「クイーンエリザベス」を中心とした空母打撃群を構成し、初めてアジア太平洋地域へと遠征してきました。その打撃群には、イギリス海軍だけでなく、オランダ海軍のフリゲイト「エファーツェン」も含まれており、改めてNATOの繋がりを目の当たりにしました。
このイギリス海軍に先立ち、フランス海軍も強襲揚陸艦「トネール」とフリゲイト「シュルクーフ」でやってきました。
また、来日頻度は高い方ですが、カナダ海軍やオーストラリア海軍もやってきました。日本への親善訪問だけでなく、展開してきたフランス海軍やイギリス海軍との訓練も重要な目的でありました。
こうして、南シナ海やフィリピン海沖、さらに日本周辺海域で、実に多くの多国間訓練が行われました。
あからさまに公言こそしていませんが、立て続けに、ヨーロッパ海軍がアジア太平洋地域へと展開してきた理由は、南シナ海の実効支配を強め、同海域に近づく艦艇はすべて排除する動きを見せる中国を牽制する事を成し遂げるため、米軍は「航行の自由」作戦として、同盟各国と海軍艦艇を南シナ海で遊弋させています。
そして、2021年最後を飾ったのがドイツ海軍でした。
11月5日、フリゲイト「バイエルン」が、東京都江東区にある東京国際クルーズターミナルへと入港しました。このフリゲイトは、「ブランデンブルク」級の3番艦にあたります。満載排水量4,900t、全長138.9m、全幅16.7m、喫水6.8mと、標準的なフリゲイトです。
ホストシップとして、「バイエルン」を出迎えたのは、護衛艦「さみだれ」です。この護衛艦は、「むらさめ」型の6番艦にあたります。就役したのは、2000年3月21日となります。なお「バイエルン」が就役したのは、1996年6月15日であり、両者ともにほぼ同じ年。また任務も対空・対艦・対潜とマルチにこなせる汎用艦であり、まさにうってつけの相棒となったわけです。
ドイツ海軍の来日は、2002年6月28日に、フリゲイト「メクレンブルク・フォアポンメルン」と「ラインラント・プファルツ」が晴海ふ頭に入港してから、約20年ぶりとなります。
当時の航海の目的は、士官候補生を対象とした遠洋練習航海でした。アジア太平洋地域をまわるコースの中で、日本に寄港した理由がユニークです。この年の5月31日から6月30日にかけ、日韓共催「サッカーW杯」が行われたのを皆さん覚えてますでしょうか。この日韓W杯の応援という意味も込め、日本だけでなく韓国にも寄港したのです。そして日本の寄港中の6月30日に、決勝戦を迎えるというタイミングを狙いました。
さすがサッカー強豪国のドイツ。なんと決勝戦までコマを進めます。相手はブラジルです。きっとドイツ海軍将兵もかなり力のこもった応援となった事でしょう。…ですが、残念ながら、ブラジルに敗れ、準優勝となりました。
今回の「バイエルン」入港の目的は、そういった“ユルイ”ものではなく、「インド太平洋地域の平和と安定」を目指し、関係諸国と連携を強化する事にある、との強烈なメッセージを伝える為でした。
しかし、ドイツは、ヨーロッパの中では、親中の政策をとる国。あからさまに敵対行動となるような英仏米とは一線を引きました。「台湾海峡を通過しない」、「中国にも親善訪問をする」といった懐柔策を中国に示しました。しなしながら、結果的に、中国側に寄港を拒否される事態となりました。
日本入港前となる11月4~5日、護衛艦「さみだれ」と訓練を行いました。そして11月10日、東京港から海自横須賀基地へと移動しました。そして13日に出港しました。
まずは、国連安保理決議により禁止されている北朝鮮船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動を監視する任務に就きました。そして、アジア太平洋地域を去る直前となる11月21日から30日にかけ、日米豪加独共同訓練が行われました。枠組みは、毎年実施している海上自衛隊演習、通称“海演”の一環です。ドイツ海軍が同演習に参加するのは今回が初めてとなります。
最後の最後で、中国にドカンと一撃を食らわせて、ドイツ海軍は帰路に付きました。