世界的にエコカー=EVの風潮でそれに意を唱えると非国民とか言われてしまいそうである。EVは魅力的だけれど航続距離や充電時間の問題がある。特に最近PHEVも増えているので週末のスーパーや高速のSAなどは混雑している。筆者、一度だけ順番待ち(2台)をしているクルマを見て、「あぁ、自分の使い方には絶対合わない」と思ったのだ。と筆者のぼやきはガミラス星にでも置いておいて、MIRAIである。
MIRAIは燃料電池車。水素を燃料とする。その水素と酸素を化学反応すると筆者は根っからの文系ゆえ詳しい話を割愛し、アータラコータラーで電気が生まれる。そこで作られた電気でモーターを動かしてクルマを走らせる。動力はモーター、燃料は水素ということはクルマから排出される二酸化炭素はゼロ。強いて言えば化学反応した時の水(H2O)を出すだけの究極のエコカーなのだ。初代は2014年に世界初の量産燃料電池車としてデビューした。現行モデルは2代目。初代のプリウスベースから打って変わり、クラウンやレクサスLSのプラットフォームを採用した。
全長は4975mm、全幅1885mm、全高1470mmと先代より一回り大きい。それにしても何となく宇宙戦艦ヤマトっぽく見えるのは筆者が歳だから?
ベースがかわったので駆動方式も前輪駆動から後輪駆動になったし、乗車定員も4人kら5人へ変わった。難しいとされる水素タンクはリアシートと下とセンタートンネル下に計3つ設置。
この影響で後席中央に座る(いわゆる5人乗車の一番気を使う場所)と体育座りで膝を抱えるような姿勢になってしまう。まあ、普段MIRAIで5人乗ることは少ないと思うけれど。もちろんクルマが大きくなったのでショーファーユースにも使用可能でG、Zいずれのグレードにも、話も長くなる傾向の「長」の付くジサマやバサマが乗っても窮屈な思いをしないよう、助手席のヘッドレストが倒れるパッケージグレードも用意されている。
さて。2020年末に発売されて何かと話題になるクルマだが、実際はどうなの? と聞かれたらモノがやりましょう! で乗り出したのはZという上級グレード。車両価格は790万円。試乗車はボディカラーや20インチのアルミホイール、
ドラレコなどのオプション装着車で826万9380円のプライス。エントリーグレードは710万円から購入可能。国や自治体などの違いはあるけれど約140万円の補助金もあるのでユーザーが負担する実質的な価格は600万円前後だろうか。
そろそろ動かさなくては原稿にならないので、ドアを開けて運転席へ。
このドアのフィーリングがいい! ドアノブの重さといいやはり素性は高級車なのだ。Zグレードになると本革シートになり、
4席すべてにシートヒーター、シートベンチレーションが装備されるし、前席はパワーシートと至れり尽くせり。その豪華さは後席も同様で、そのコントロールパネルはセンターアムレストに。
もちろん3ゾーン独立のエアコンはZなら標準装備。ファミリーカーとしてもいいかもしれない。筆者の後席の唯一の不満はホイールアーチの出っ張りとデカいタイヤの影響で乗り降りに気を使うことくらいだった。
走り出せばモーター駆動ゆえ静かだ。聞こえるのはタイヤノイズくらい。モーターのトルク特性で踏み込めばどの速度域でも力強く加速するけれど、下品な加速にならないのも魅力だと思う。高速でもその印象は変わらず、オトナのクルージングだ。
4人乗車で全シートヒーターもエアコンもオン、100km/h巡航時の燃費計は98km/kgあたり。この単位も独特だ。水素1kgでどのくらい走るかを示しているのだが、なんせ馴染みのない未知のモノゆえ、km数値が大きければ燃費がいいのだろう、くらいしか分からない。80km/hに落としてACCをオンにしても大きく変化はなかった。
MIRAIの燃料タンクの容積は141L。水素量にして約5.6kg。ん? 141Lって141kgじゃないの? 小学校で1L=1kgって習ったゾと思ったがそれは水の話だ。筆者の無知を披露してしまった。水素は重さが体積1リットルあたり約0.09g。でタンク容量が141Lだから約5.6kgなのだ。ちなみにガソリンは1リッターあたり約750g(軽油で820g)。
場所も話も変わってちょっとした峠道。ボディサイズは感じるけれど50:50の重量バランスが効いている。コレはもしかするとハンドリングを楽しむドライバーズカーとしてもアリな選択肢だと思う。それでいて乗り心地はすこぶる良い。
走り出して300kmを超えている。残りの燃料を気にしなくてはならない。筆者はガソリンエンジン車なら燃料計半分で気にすることは少ないのだが、水素ステーションの問題もある。むしろそれが一番の問題かもしれない。2021年6月現在、青森、秋田、岩手、山形、石川、島根、鳥取、愛媛、高知、宮崎、長崎、沖縄を除いた国内147か所に水素ステーションがある(編集部調べ)。また水素ステーションはガソリンスタンドと違って24時間営業がなかったり(店によっては9-15時のオヤクショ営業もある)、週に2日の特定営業日だったりと制約が多い。出先で燃料が残っていても途中で、あるいは帰ってからでは水素を補充出来ない場合が多い。むしろ今のままでは出来ないといってしまっても過言ではない。タマゴが先かニワトリが先かではないけれど、水素ステーションが普及しないとクルマも普及しないジレンマ。
あらかじめ下調べしておいた水素ステーションで水素を補充。
この時点で327km走行して、燃料計は3分の1の残量。メーター表示の残りの走行可能距離は126km。充填を開始すると何となくホラ貝のような音がした。充填時間は下記の通り。
早い! EVの充電よりもずっとガソリン車並みだ! 入った水素の量は3.68kg。
お値段1100円/kg。消費税込みで4452円。ここで補充した後、帰京して返却時までに178km走行してもう一度給水素。その時は2.11kgの補充量。芝の水素ステーションでも1100円/kgだった。乱暴に計算すると500kmの走行で約7000円の燃料代。このクラスのクルマだとガソリンエンジンならばハイオク仕様のはずだから、ハイオク170円計算だと約41L。12km/Lの換算になる。
今回の試乗で切に感じたのは水素ステーションの少なさと営業時間の制約だ。年末年始も休みのところが多い。コレだけの技術が民間人でも買えなくはない金額で販売されるのだからもう少しインフラの充実を望みたい。
MIRAIは宇宙戦艦ヤマトかもしれない。緑ある「未来」を求めて遥か彼方のイスカンダル(未来)に旅立つのだ。そのためには幾多のハードル(インフラ)がある。
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