2022年の食のキーワードになるとmonoマガジンが考える、冷凍食の進化と可能性を探るシリーズ『冷凍飯』。連載第2回はホテル業界でシェフが調理したフレンチメニューを冷凍保存食としてテイクアウト&デリバリー展開している東武ホテルレバント東京「シェフズキッチン」の取り組みを全3話でご紹介します。
ローソンをはじめコンビニ各社が冷凍食品に注力する一方で、意外なところでも冷凍モノに対する本気の取り組みが始動していた。ホテル業界である。東京・錦糸町にある東武ホテルレバント東京が一昨年6月から展開している「シェフズキッチン」は同ホテル最上階にある日本料理と炭火窯焼フレンチのお店「スカイツリービュー®︎レストラン簾」のシェフが手づくりしたできたての料理を真空パックで冷凍保存。美味しさそのままに自宅で解凍して手軽に本場のフレンチの味を愉しめるテイクアウト&デリバリーメニューだ。
昨年11月には新メニューとして「オマールエビとアワビのブイヤベース」(価格3900円)と「フォアグラとウナギのスモーク テリーヌ仕立て」(価格2200円)が追加され、現在10メニューを提供している。同月に行われたプレス向けの試食会でもグルメライターたちの舌を唸らせていたが、メニューのいずれももはや冷凍モノかどうかなど、どうでも良くなってしまうくらいの圧巻の味わいだ。
メニューの調理を担当しているのは同店のシェフを務める柴谷邦彦さん。かつて東京・吾妻橋にあったレストラン・トライアールの名物シェフと呼ばれた人物で、知る人ぞ知る界隈の有名人だ。渡仏経験を含めてフレンチ一筋で、フォン(フランス料理に使われるソースのベースに使われる出汁の一種)からの手づくりにこだわり、フランス仕込みのシャルキュトリーを提供し続けている。
「シェフズキッチン」で冷凍モノを手がけるようになったのは、やはり2020年春にはじまったニューノーマルなライフスタイルへの移行がきっかけ。緊急事態宣言などもあり、店を思うように営業することがままならず、スタッフの雇用保障なども課題になるなか、何か新しいことをしなければと柴谷さんがホテル側に冷凍メニューのテイクアウト&デリバリーを提案した。
「基本的にそれまでホテルのレストランでは冷凍でのモノづくりはあまりやって来ませんでした。それはできるだけ冷凍せずにいい状態で提供するというのをモットーにしているから。ただ、そうはいっても、料理人として先につくり置きして冷凍しても味が変わらないメニューというものは昔から持っているわけです。長期休みに入る前に大量につくって冷凍保存しておくとか。例えばリエットなど、肉がほぐれるまで煮込むものは冷凍しても味は変わりません。スモークサーモンなどは既製品でもありますが、鮮度のよい素材にスモークをかけてうまく冷燻すれば、冷凍・解凍しても美味しさは出せるのです」(柴谷さん)
今回メニューに新たに追加された「ブイヤベース」と「テリーヌ」に関しては、柴谷さんはそれまで冷凍モノとしては手をつけてこなかったカテゴリだというが、意外な方法で冷凍化を実現した。
「甲殻類は一度火を通して冷凍すると、解凍したときにパサパサになるんです。あと、テリーヌも一度冷凍してその後に解凍するとソースが変質することがあり、細胞が変わってねっとりした食感にならないので、冷凍のフォアグラもダメだと思っていたんですよね。ただ、今回試作していくなかで、本当にいい素材は冷凍しても力があることに気づいたのです」(柴谷さん)。中編に続く。
東武ホテルレバント東京
東京都墨田区錦糸1-2-2
TEL:03-5611-5511
https://www.tobuhotel.co.jp/levant/