シェフが調理したフレンチメニューを冷凍保存食としてテイクアウト&デリバリー展開している東武ホテルレバント東京「シェフズキッチン」。実現の背景にはひとりのキーマンがいる。メニュー調理を担当するシェフ・柴谷邦彦さんを見出した人物だ。
【冷凍飯】鬼門だった甲殻類とフォアグラも冷凍OK!東武ホテルレバント東京・シェフズキッチン中編
その男、奇人につき。
これは6年ほど前に刊行された東武ホテルグループの仙台国際ホテルのPR誌に掲載された彼を評するキャッチコピーだが、当時、徹底した現場主義を貫き、歯に衣着せぬストレートな物言いでスタッフたちに課題を与え続ける変わり者CEO。現在は東武ホテルグループを統括する東武ホテルマネジメントの副社長を務める野口育男さんだ。
彼は口癖のようにいう。
「新しいモノを世に出すまでの過程には必ず背景がある。大企業であればあるほど、新しい発想を製品化するのはむずかしい。長い間挑戦を繰り返して到達する世界だと思います」
続けていう。
「お客さまに感動を与えるのが私たち、ホテルの仕事ですからね」と。
野口さんはかつて東京・吾妻橋にあった知る人ぞ知るフレンチの名店「トライアール」の常連客で、そこで料理長をしていた柴谷さんと知り合った。
「トライアールは小さなお店だったけど、ときどきオペラ歌手を呼んできては、美味しいお酒と美味しい料理で完結させる総合芸術という演出をやっていて、とにかく刺激をもらったんですよね。同じようなことをホテルでできたらなと、仙台国際ホテルに出向したときに美味しい料理を中心に数々の演出をプラスして仙台を盛り上げたんです」。
それが東武ホテルグループ内で今も語り継がれるディナーイベント「至福の晩餐会」だ。現在では東京にあるグループホテルでも「魅惑の晩餐会」として進化継承されている。
「仙台時代は本物志向の世界でやってきました。やはりお金をかけないといいモノは提供できないですよ。あとは情熱。少し語弊があるかもしれませんが、最近の世の中が働き方改革で効率重視になっている中で、やはり効率だけでは生まれないモノもあると思うんですよね」
そんな野口さんが仙台での実績をもとに東京に戻って改革を進めようとしたときに、トライアアールの閉店後、その店の軒先を使ってパンと惣菜のお店をやっていた柴谷さんに声をかけた。東武ホテルレバント東京のシェフをやらないか、と。
「当時、柴谷さんはトライアールの軒先を借りて1人でフォアグラとか野菜の蒸し煮コリアンダー風味とか、一流レストランそのままのメニュを本所吾妻橋で売っていたわけです。あれは世界一のデリカショップだったんじゃないかな。柴谷さんは料理のことにマジメすぎてマーケティングのこととかをあまり考えない人だから(笑)。彼はいまだにフォンから手づくりしているし、シェフって有名になるとブランド化に力を入れる人も少なくないのだけれど、柴谷さんは常にトコトン真摯に料理と向き合っているんですよ。そんな柴谷さんに頼めばいいモノが提供できないわけがないと思ったわけです」
ニューノーマルなライフスタイルへの移行がはじまった2020年春に、すでに同ホテル最上階にある「スカイツリービュー®︎レストラン簾」料理長の職にあった柴谷さんが「シェフズ キッチン」での冷凍メニューをホテル側に提案すると、野口さんはすぐに反応した。ぜひ、進めてほしいと。
「当時は自由な外出もままならない時期でもありましたから、テイクアウトの発想はなかったですね。ホテルまで取りに来ていただくのではなく、宅急便でお客さまのご自宅までお届けしなければと。その点で冷凍は理に叶っていたわけです。日本全国はもちろん、世界にも発送することができますしね。仕事柄もあって、日頃から街場を食べ歩きしていますが、正直なところ美味しい冷凍食ってあまりないんですよ。それは推測するに原価を気にしていい素材を使っていないからだと思うんですよね」
その点で今回、柴谷さんが素材、味にこだわり尽くしている「シェフズキッチン」の冷凍メニューは新しい食の楽しみを広げる可能性を秘めている。
「すでに冷凍しているので、ギフトにも使えますしね。オードブル気分で取り出せばいつでもシェフの味が堪能できる。食の新しいスタイルの提案ができると思うんですよね。もちろん、ホテルに来ていただいてレストランで美味しいお料理を味わっていただきたいですが、こういう時勢でもありますし、ご自宅で普段着やパジャマでラフにシェフの味を楽しむのもいいじゃないですか。繰り返しになりますが、お客さまに感動をご提供するのが私どもホテルの仕事ですからね」
東武ホテルレバント東京
東京都墨田区錦糸1-2-2
TEL:03-5611-5511
https://www.tobuhotel.co.jp/levant/