★今回おすすめのお酒
ワインで作る「アメリカンレモネード」
2層になっていて見た目にもキレイな、赤ワインをベースにしたカクテル。レモネードの爽やかさが、暑くなってくる季節にぴったりです。
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■ワインの歴史
連載のVol.2では、世界最古のお酒としてハチミツのお酒「ミード」をご紹介しました。
今回は、ミードと同じく人の手を介さずに自然に発酵するお酒として「ワイン」の歴史についてご紹介しようと思います。
あまり難しくなり過ぎないように、誕生から現在までのおおまかな歴史の流れ、知っておくとワインを理解しやすくなる史実、他のお酒との関わりなど、お酒全体を理解することにつながっていくような事をお伝えしたいと考えています。
■①人類とワインとの出会い
ブドウがワインになるために必要な「酵母」は数億年前から、原料となるブドウの原種は、300万年前から地球上に存在していたともいわれています。
つまり、ワインはミードと同じく自然に(偶然に)誕生したと想像することができます。つまり、人類はワインを造ったのではなく「発見」した、というのが正しいと思います。
“偶然”発見して、飲んでみたら美味しかった、いい気分になった、ということでしょう。
実は、ワインだけでなくお酒の歴史にはこの“偶然”という奇跡のタイミングが様々な場面で登場し、お酒を進化させてきました。
人類がワインを造っていた痕跡として、現在発見されている最古のものは、ジョージアで発見されています。紀元前6000年頃のジョージアの遺跡では、ワインの容器として使われていた土器の破片や破片に残っていた酒石酸、ブドウの種子の化石等が発見されています。
ワインが登場する最も古い文献は「ギルガメッシュ叙事詩」です。紀元前5000年頃の出来事を書き綴ったこの文献には、大洪水に備えて方舟を造った船大工たちにワインを振舞った様子が描かれています。
紀元前4000年頃のエジプトの壁画には、ワイン作りの圧搾機や壺、醸造の様子が描かれていたり、紀元前1700年代に制定された「ハンムラビ法典」では、ワインの取引に関するルールが定められていた、ということからもワインが日常的に飲まれていたことが分かります。ちなみにハンムラビ法典にはビールに関する法律も規定されています
■②ジュリアス・シーザーと共にヨーロッパに広がったワイン
ジョージア→古代エジプト→古代ギリシャ→イタリア半島へと伝播していったワインは、紀元前100年頃から、ローマ帝国の繁栄によって、イングランド・ヨーロッパ各地へと広まっていきます。ここで忘れてはいけない人物が、「ジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル)」です。皆様もよくご存知のこの人物は、ワインの歴史を語る時にも欠かせない人物です。
シーザーとローマ戦士たちは、ヨーロッパ各地での戦いの際には、食糧確保のため農作物の種を蒔いていったといわれています。その結果、ブドウ栽培やワイン造りも新しい土地で広まっていくこととなりました。
シーザーとワインの関わりを考える時に分かりやすいのが、紀元前58年から51年にかけての「ガリア(今のフランス)征服」です。その時にシーザーがたどった道のりを辿ると、現在、ワインの有名産地になっている場所が続々と登場します。シーザーは、マルセイユから真北に向かって河を遡り、コート・デュ・ローヌ、ボージョレー、ブルゴーニュ、アルザス、シャンパーニュと征服していったのです。
シーザーによってワイン造りが伝えられ、ワインに適したブドウ栽培ができる土地だったこともあり、今ではワイン王国と呼ばれるようになっているのです。
■ ③イエス・キリストの血として
ワインを語る時、キリスト教は切っても切れない関係です。キリスト教の広まりと共にワインも世界中に広まっていくからです。
4世紀になると、キリスト教が公認され、その後ローマ帝国の国教とされたことなどがきっかけとなり、ローマ・カトリック教会の宣教師たちの活動はさらに活発となっていきました。修造院では儀式でも使うワイン造りが盛んに行われるようになりました。
実は、ワインだけでなく様々なお酒の歴史を語る時に、「キリスト教」「教会」「修道士・修道院」というキーワードは度々登場します。今後紹介する予定のビールの歴史やウイスキーの歴史にも、キリスト教が深く関わっています。
その中でもワインは、特にキリスト教との関わりが強いといえるでしょう。
その理由は、キリスト教の聖書に、イエス・キリストがパンを「私の体である」といい、ワインを「私の血である」といったと記されているからです。レオナルド・ダビンチの絵でも有名な「最後の晩餐」でもイエスと弟子たちとの晩餐の風景の中にワインが描かれていることはあまりにも有名です。
そのため、教会での儀式の際にはワインが使われ、キリスト教の広がりと共にワインの需要が高まっていったのです。
■ ④ワインの進化
私はセミナーなどでお酒の話をするとき、まず「お酒の3つの分類」から説明して、ワインの話をする時には、「ワインは4種類(※)」、「ワインを蒸溜、熟成するとブランデーになります」という説明から始めます。
お酒を理解する時に、分類や他のお酒との関係から知ると、理解しやすくなるからです。
(※)ワインの4種類:スティルワイン(非発泡性ワイン)、スパークリングワイン(発泡性ワイン)、フォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)、フレーバードワイン(アロマタイズド香味付けワイン)
ワインの歴史を見る時にも、ブドウを発酵しただけのワインから変化・進化して、現在のワインの分類が出来上がった流れも知っておくと、より分かりやすいかと思います。
13世紀には蒸溜技術が進化することで、ワインを蒸溜した「ブランデー」(語源は「焼いたワイン」)が誕生しました。そのままだと腐ってしまうワインを蒸溜することで保存、長距離の運搬ができる新たなお酒に進化したのでした。
15世紀半ばから始まった大航海時代には、ヨーロッパから多くの移民がアメリカ大陸や南アフリカ、オーストラリアなどへ渡り、今までワイン造りをしていなかった土地でもワイン造りが行われるようになりました。
そして、大航海時代には、長い航海では腐敗してしまうワインに、ブランデーなどを付加した「フォーティファイド(酒精強化)ワイン」が誕生しました。アルコール度数を高くすることで発酵を止め、ワインよりも長期間保存することができる新しいお酒が誕生したのです。
現在ではシェリー、ポート、マディラ、マルサラが「世界四大フォーティファイドワイン」と呼ばれています。これらのお酒の樽は、今ではウイスキー熟成用の樽として使われるようになっています。その事にも、また面白い歴史がありますのでまた別の機会に。。。
さらに技術の進化と共に、17世紀頃には瓶詰めしコルクで栓をしたワインが発明されました。同じ頃には、これまた偶然の奇跡が起こり、修道士だったドン・ペリニヨン氏によって発泡性ワイン・シャンパンこと「シャンパーニュ」が誕生しました。
さらにワインの地位を進化させた史実として、1855年パリ万国博覧会の際、ナポレオン3世が制定したフランス・ボルドーワインの「格付け」が挙げられるでしょう。
ワインを世界に紹介するためにボルドーワインをランク付けして紹介した事、これはワインの価値をさらに高めるブランディング戦略だったといえるでしょう。
いち早く世界を見据えた戦略をとったことによって、フランスは現在にいたるまでワイン王国呼ばれる地位を築いています。
■ ⑤世界中で造られるようになったワイン
現在では、古くからワイン造りを行っているフランス、イタリア、スペイン、ドイツなどだけでなく、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチン、南アフリカ、カナダ、日本など「ニューワールド」と呼ばれる地域でもワインが盛んに造られ、注目が集まっています。
日本でも、2015年にチリ産のワインの輸入量がフランスのワインの輸入量を抜いて日本国内市場トップになりその後も1位を維持しています。
世界地図を見た時に、ブドウ栽培とワイン醸造に適した地域は北半球(北緯30~50°)と、南半球(南緯20~40°)にあり、「ワインベルト」と呼ばれています。年間平均気温が約10~20℃で、日照時間や年間降雨量もブドウ栽培に適している地域です。
ブドウ栽培やワイン造りでは土地(テロワール)が重要だとよくいわれます。その土地ごとにブドウの品質にも特徴があり、ワインにも特徴が表れるからです。研究や技術の進歩とともに、様々な土地でブドウが栽培され、多種多様なワインが造られるようになりました。
そして、運搬や保存技術も発達したことから、私たちは世界中のワインを楽しむことができるようになりました。
日本国内では1972年の第一次ワインブームに始まり、今まで7度のワインブームがあったといわれています。定期的なブームが起こりながら、ワインは日本の食卓にも根付いてきていると思います。日本でのワインの歴史についてのお話はまた別の機会にしたいと思います。