陸上自衛隊では、現在、10式戦車、90式戦車、74式戦車の3種類の戦車を有し、日本各地の戦車部隊に配備されています。
自衛隊の主たる装備品は、制式化された年(西暦)の下二けたの部分を冠します。そうなると、74式戦車は、なんと1974年からの配備となるのです。
さすがに寄る年波には勝てません…。74式戦車は、次々と引退しています。
陸上自衛隊では、創設以来最大規模とも言われる大改革を断行中です。その中で、古い戦車はただ引退するだけではないのです。戦車部隊そのものが消えようとしています。
今後の計画として、北海道の防衛警備を担当する北部方面隊、そして九州・沖縄の防衛警備を担当する西部方面隊にのみ、戦車部隊を残し、本州から戦車どころか戦車部隊そのものを一掃する計画です。
その理由は、各師団・旅団の即応力・機動力及び防衛力の向上です。この方針に則り、いくつかの師団・旅団を機動化、地域配備型へと改編します。そして機動師団・旅団には即応機動連隊、地域配備師団には偵察戦闘大隊を編成していきます。これら部隊の主力となるのが、16式機動戦闘車です。本州エリアには、16式機動戦闘車があれば戦車はいらない、という判断を下したのです。
では本州にある戦車部隊とはどのような配置なのか見て見ましょう。
東北方面隊・第9師団の第9戦車大隊(岩手駐屯地・岩手県)、中部方面隊・第3師団の第3戦車大隊(今津駐屯地・滋賀県)、第10師団の第10戦車大隊(今津駐屯地・滋賀県)、第13旅団の第13戦車中隊(日本原駐屯地・岡山県)となっています。これら部隊がすべて消えてしまうのです…。
今回注目したいのは第3師団の第3戦車大隊です。同師団は、近畿2府4県の防衛警備を担当しています。大阪や神戸、京都など主要都市を守るということから政経中枢師団と言われていました。しかし、2022年度末(2023年3月)より地域配備師団へと改編されることになりました。これに伴い、第3戦車大隊と第3偵察隊を合体させた第3偵察戦闘大隊が新編されます。そして74式戦車に替えて、16式機動戦闘車が同隊の中の戦闘中隊へと配備されます。
1つの部隊が消えるのは実に寂しいものがあります。なによりもこれにて74式戦車がまた大量に引退することになるわけですから…。
そこで、第3師団として、2022年度は、第3戦車大隊及び74式戦車のラストイヤーとして、いろいろと花道を用意していく考えのようです。
まず、5月15日。千僧駐屯地(兵庫県伊丹市)にて「第3師団創立61周年ならびに千僧駐屯地創設71周年記念行事」が開催されました。ここで、通常とは異なる、「冬季迷彩」と「多用途迷彩」の2パターンのカラーリングの戦車がそれぞれ1両ずつ用意されました。
「冬季迷彩」は、第3師団の担任地区北部の積雪寒冷地に適応するためのもので、恒常的なものではなく、雪が降った時に行う一時的な迷彩塗装です。そして「多用途迷彩」は、地形の色(茶)、建物・道路等や沿岸部等の色(黒・グレー)などを配色しました。とくに「多用途迷彩」は大注目で、来場者の多くが写真を撮り、別れを惜しんでいました。
そして、第3師団祭が終了すると、第3戦車大隊は、実弾射撃訓練を重ねていきます。それは7月12日に開催される「中部方面隊戦車射撃競技会」に向けた錬成のためです。
途中、降雨もありましたが、競技会は予定通り実施されました。第3戦車大隊、第10戦車大隊、第13戦車中隊から5個小隊、80名が参加。小隊とは4両の戦車で構成されます。よって20両の74式戦車が参加しました。そしてエキシビション的に第14旅団の第15即応機動連隊の16式機動戦闘車が参加しました。間もなく、この競技会は16式機動戦闘車だらけとなる日が来ます。優勝を手にしたのは、第3戦車大隊の第1小隊でした。最後の最後に陸自戦車史に見事その名を刻みました。
8月7日、滋賀県高島市にある饗庭野分屯基地が創立50周年、今津駐屯地が創立70周年を迎えたことを記念し、「自衛隊フェスタ50・70in滋賀高島」が開催されました。こちらには、特別塗装の74式戦車が参加し、花を添えました。
私たちは、あと何回、第3戦車大隊の74式戦車を見ることができるのでしょうか…。時間にして残り約半年。そう考えると寂しいですね。