ツナギなどの特注アイテムもドレスライクかつ抜群の機能性で仕立てる類い稀なる洋服作りの“なんでも屋”。東京・銀座一丁目の隠れ家的オーダーメイドサロン、TheDressingLab.の店主、林倫広さんは、かつてビスポークスーツの仕立て職人を本気で目指していた時期もあった。結果的にその道は断念してしまったが、だからこそBespokeへ強いこだわりが人一倍ある。そんな林さんだからこそ価値を伝えられるアイテムの一つが、絶大な信頼を寄せる靴職人、白濵結城氏が手がけるYuki Shirahama Bottierの”Bespoke Shoes”だ。
底付けには一般的なグッドイヤーウェルテッド製法と異なり、ハンドソーンウェルテッド製法という職人の手縫い技術が用いられ、靴が足に馴染むまでに時間のかかる一般的な革靴とは異なり、すでに足に馴染んでいるかの様な柔らかな履き心地が特長だ。履き心地がソフトなのに堅牢で経年による沈み込みやヘタリも少なく、手入れとソール交換さえ定期的に行えば、ジャストフィットの状態で一生履き続けることができると言っても過言で無い。
ビスポークシューズというと、満足のいく靴が完成するのは3足目の注文くらいから、などど言われるが、Yuki Shirahama Bottierの靴はなんと1足目から満足のいく仕上がりが約束されている。それは、卓越したフィッティング技術と白濵氏独自の採寸方法による。そのキモになるのが、「これがスグレモノなんです!」と林さんが手に取る透明樹脂製の仮縫い用シューズ。素足で履くと、足のどの部分がどれくらいの強さで当たっているのかを正確に把握できるため、精緻なフィッティングが可能というわけだ。
林さんがオーダーしたシューズを見せてもらった。「パティーヌというフランスの革の染色技術が使われていて、一見ただのダークブラウンですが、光に当たると絶妙な色の濃淡が味わえるんです」と、履き心地だけでなく、質感や表情にも繊細さが追求されている。職人の白濵氏がパートナーの職人と京都の工房にてたった二人で仕立てるため、完成には早くても約1年を要するが、履きはじめからジャストフィットのまま、経年変化による革の表情も楽しめるという、味わい深い一生モノの革靴となる。
ちなみに、”Bespoke Shoes”のお値段は40万円代スタートと、靴としては非常に高価だが、そもそも既製靴とは完全に別感覚のモノと考えるべきだ。一度ビスポークの靴を体験すると、価値観が変わりむしろ安く感じるとのこと。同店ではBespokeラインではジャケットが18万7000円~、パンツが9万9000円~で、MTMでもジャケットが約9万円~、パンツが4万円~となる。実際のところ、なかなかすぐに手が出ないという人も多いと思われるが、オーダーメイドによる”装い”の世界を体感するのに林さんがオススメしているのが、2万円代で頼めるオーダーメイドシャツだ。
「シャツは今でこそ一枚で着てOKですが、本来は下着でした。「人前でジャケットを脱いでシャツ一枚になるのは失礼」「シャツの下に下着のTシャツを着ない」というのは、本来のシャツ=下着だからという考えから来ています。スーツは長く着られるけれど、シャツは消耗品だから安価な既製品で良いと考えられがちですが、肌に一番近いものほど、良い素材と仕立てのものをお召し頂きたいです。良いシャツは見た目も着心地も全然違うので、ぜひ騙されたと思って体験頂きたいです。」
林さんの先輩などはオーダーメイドシャツを15年も愛用していて、その着心地の良さから、擦り切れてしまったシャツも捨てずにパジャマに使っているらしい。良いものは結果としてサスティナブルにも通じるのである。
新しい服を作るオーダーメイドだけではなく、手持ちのワードローブを活かすアレンジや修理のもお手の物だ。「ちょっと恥ずかしいですが……」と林さんが店の奥から私物のアレンジ服を出してきてくれた。植物のカワイらしい刺繍が入ったシャツに、ワイドパンツには裾が萎むように入ったタックと、バックポケットにはさり気ないステッチが。どちらも、大手メーカーによる既製品だが、林さんがお店の休憩時間に思いつきで刺繍を入れたりしてアレンジを施したらしい。自分らしい“味付け”の楽しみは実はオーダーメイドには限らないというわけだ。
「このシャツとパンツの2点は完全に私の趣味ですが、どこででも手に入る服にちょっと手仕事を加えるだけで、自分だけの服になるところがとても面白いと思います。当店では職人による洋服のお直しやアレンジも承っていて、ヤブレなどほかではなかなか取り扱ってくれないような状態のモノの修理も大歓迎です!」と、まさに洋服の駆け込み寺だ。
あらゆる角度から“装い”の楽しさを伝えたいという林さんだが、「弊店に来られるお客さまにお話を伺っていると、皆さまものすごく素敵な着こなしで装いを楽しみながらも、意外なことに「別に洋服好きに見えなくて良い」「オシャレと思われたいわけじゃない」という方が多いです。でもそういう方に限ってご自身の世界観が確立されていて、内面がとても豊かな方が多いですね。確かに服は見られてなんぼのモノでもありますが、かと言って決して人に見せるためだけのものではない。自分の“好き”と周囲に与える印象の調和を図りながら、あくまで自分のための装いを楽しむ。一見矛盾してそうなこの姿勢こそが、自分も周りも心地良い、幸せの好循環を生むのではないかと思います」。
ふと、夏目漱石の言葉を思い出す。
「幸いにして私自身を本位にした趣味なり批判なりが、偶然にも諸君の気に合って、その気に合った人だけに読まれ、気に合った人だけから少なくとも物質的の報酬、(あるいは感謝でも宜しい)を得つつ今日まで押してきたのである」—夏目漱石「道楽と職業」より—
一定の礼儀を保ちつつ、自分を本位に励むことが、結果的に周囲に快を与えることがある。彼は自らの文学を“道楽的職業”と呼んだが、どこかこの言葉に通ずる部分のあるThe Dressing Lab.。“装い”というキーワードから自分らしい在り方を見つめ直してみてはいかがか? そこには”服”ならぬ”福”が待っているかも!?
●ビスポークライン(フルオーダー)
スーツ | 28万6000円〜 |
ジャケット | 18万7000円〜 |
パンツ | 9万9000〜 |
コート | 23万1000円〜 |
●パターンオーダー
スーツ | 約13万円〜 |
ジャケット | 約9万円〜 |
パンツ | 約4万円〜 |
シャツ | 約2万5300円〜 |
TheDressingLab.(ザ・ドレッシング・ラボ)
東京都中央区銀座1-27-8 セントラルビル501号室
営業時間:13:00~19:00
定休日: 日曜日・月曜日
※事前要予約。下見・相談のみも可
https://thedressinglab.tokyo/