現在も続くロシアによるウクライナ侵攻—。
その戦局を大きく変えた兵器がありました。それがFGM-148ジャベリンです。メディアでもこの“ジャベリン”の名は大きく取り上げられたこともあり、お茶の間にもすっかり定着した兵器です。
これはアメリカで開発された携行式の多目的ミサイルの一種です。1998年から米陸軍へと配備されました。携行式とあるように、このミサイルは、全長1.1m、重量約22.3㎏(内ミサイル重量8.4㎏)というサイズと重さであるため、歩兵が持ち歩くことが出来ます。そして肩に担いで射撃します。
日本のみならず、世界中で注目された理由は、米軍がこのジャベリンをウクライナへと供与したことで、ロシア軍の戦車や装甲車を次々と破壊し、それが、大規模な反転攻勢に打ってでるきっかけとなったと言われているからです。
1発約2千万円の「ジャベリン」で1両約数億円を超える戦車が撃破できるのであれば、費用対効果が非常に高く、各国軍においても、この点がかなり高い評価を得ました。それは日本も同様で、財務省は防衛省に対し、「ジャベリンがあれば戦車はいらないのでは?」との趣旨の質問を出して話題となったほどです。
しかしながら、生身の人間が戦車と相対するわけですから危険が伴います。ジャベリンの射程は約2500mと、戦車の射程内でもあります。そこで、この「ジャベリン」は、“撃ちっぱなし”が可能です。英語では、「ファイア&フォーゲット」と呼びます。これが、この兵器の最大の特長です。これは、画期的なことでした。これまでの個人携行式ミサイルは、射手が命中するまで誘導する必要がありました。そのため、相手がこちらの攻撃に気が付いて反撃してきた場合、逃げ遅れてしまう点が指摘されていました。
この“撃ちっぱなし”を可能としたのがミサイルに目と頭脳を持たせたことです。ミサイルの弾頭部分に赤外線カメラがあり、1度こちらに目標を覚えさせると、射手が引き金を引いた瞬間から、ミサイル本体が、自動でその目標を追い詰めることが可能となっています。これにより、射手は、命中を見届けることなく、逃げることが可能となり、相手が反撃する前に離脱できます。
さらに、ミサイルの軌道を選ぶことが出来ます。ひとつが、そのまままっすぐ直線で飛翔していき、命中させる「ダイレクトアタックモード」です。もうひとつが、一旦上空150mまで上昇し、真下へと落下する「トップアタックモード」です。
戦車や装甲車は、車体の上面が弱点です。というのも、乗員が乗り込むためにハッチ等があり、装甲はどうしても薄くなります。そこで、「トップアタックモード」を使うことで、弱点を確実に狙うことができるようになったのです。
なお、日本には同じような兵器として「01式軽対戦車誘導弾」があります。もともと、「ジャベリン」を参考にして開発したこともあり、両者は、見た目も使用方法もほぼ同じです。
そんな日米携行式ミサイルが共演したある演習がこの夏に行われました。
それが、8月14日から9月9日の間に実際されました日米共同訓練「オリエントシールド22」です。この演習は、毎年、陸上自衛隊と米陸軍の間で行われているものです。しかし、開催回ごとに訓練エリアが異なり、今回は、九州沖縄エリアが舞台となりました。
今回は、日本側が西部方面隊の第4師団、西方特科隊、第2高射特科団、西方システム通信群等、米側が在日米陸軍の第1マルチドメインタスクフォース、第1-24歩兵大隊、第17砲兵旅団、第38防空砲兵旅団、といった部隊が顔を合わせ、日米合わせて約2100名の将兵が訓練を繰り広げました。
そして大矢野原演習場にて、ジャベリンと01式軽対戦車誘導弾が射撃を行いました。ジャベリンの国内での射撃は今回が初めてとなります。
目標との距離は約2㎞。米兵がジャベリンを構え、目標をしっかりと捉えます。かかった時間は数分。にわかに交わされる号令に緊迫感が出てくると、いよいよ発射の時です。轟音をあげて、ミサイルは撃ち出されていきました。数秒後、標的が煙に包まれると、少し遅れてズズンという重低音が射撃陣地へと届きました。見事命中です。2発射撃をし、最後の1発は「トップアタックモード」を披露しました。
01式軽対戦車誘導弾は、約400m離れた標的を狙います。射手は、訓練用の射座で発射機をかまえ、こちらもしっかりとロックオン。すると、ドン、という大きな音とともに、発射筒の中からミサイルが飛び出し見事命中。トータル2発を射撃しました。
この日は、引き続き、陸自は110㎜個人携帯対戦車弾、米軍はAT-4(対戦車無反動砲)と、無誘導のロケット弾の射撃訓練も行われました。
このタイミングで、米軍がジャベリンを日本側に公開したのには何か理由があるのでしょうか? もしかしたら、防衛省にジャベリンを売りたいのかもしれませんね。