★今回おすすめのお酒
カスク違いのウイスキー飲み比べ
「グレンゴイン カルティーリョ」と「グレンゴイン バルバイナ」は、同じ蒸溜所で造られたシングルモルトスコッチウイスキー。
両方ともシェリーカスクの“フル熟成”ですが、樽材の種類が違うのでふたつを飲み比べて愉しんでみるのはいかがでしょう。
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■ウイスキーを熟成する樽の種類
ウイスキーとは、木の樽で熟成したお酒です。
そして、ウイスキー製造の工程の中で最も時間が長くかかるのも「熟成」です。木の樽の中で最低3年間、長いものはでは50年以上もの時間を過ごして出来上がるのがウイスキーです。
私は、熟成について説明をする時には、よくこんな話をします。
「ウイスキーの熟成は、人間が子どもから大人に成長するのに似ています。人の性格、個性は何で決まるのか、というと育つ環境の影響は大きいのです。ウイスキーも同じなのです」
ウイスキーの味や香りといった「性格」に、いちばん影響を及ぼすのも、成長する過程=「熟成」の時間なのだと考えています。つまり、長い時間を過ごす“木の樽”や“貯蔵場所”気温や湿度などの環境はとても重要なのです。
ウイスキーの熟成に使用される樽は「カスク」や「バレル」と呼ばれます。どんな種類があるのでしょうか。
樽の呼び名に使われる言葉には大きく分けて4種類あります。
ラベルには熟成した樽の説明としてこれらの言葉が混在して書かれていることが多いので、どんな樽の事なのかを理解することでウイスキーの性格を読み解くヒントになるでしょう。
○樽の材質
「アメリカンオーク樽」「ヨーロピアンオーク樽」「ミズナラ樽(ジャパニーズオーク)」など樽を作っている木の種類による呼び名
○使われていたお酒
「バーボン樽」「シェリー樽」「ラム樽」「ワイン樽」など、ウイスキー熟成に使われる前に入れられていたお酒の種類による呼び名
○使われた回数など
「バージンオーク」→新樽。他のお酒の熟成に使用されていない樽
「ファーストフィル」「セカンドフィル」→1回/2回、他のお酒の熟成に使用された樽
「リフィル」複数回お酒の熟成に使用
「EX-○○」→他のお酒の熟成に使用された後、解体され再度成形された樽
「STR-○○」→他のお酒の熟成に使用された後STR(S=シェーブ、T=トースト、R=リチャー)が施された樽
○樽の大きさ
「クォーターカスク」「パンチョン」「ファーキン」など樽の容量による呼び名
■「○○カスク」には3種類あります
最近、ウイスキーの商品名に「○○カスク」「○○カスクフィニッシュ」という言葉が使われていることが多いように感じます。
その理由は色々想像できますが、世界的なウイスキーブームでウイスキーの需要が増えると同時にウイスキー蒸溜所や商品も増えたため、他社との差別化のためにもウイスキーのバリエーションを増やす必要が出てきたのだと私は考えています。
様々なウイスキーを造ろうとした時に注目されるのが「樽」なのです。ウイスキーの香味に影響の大きい「樽」の種類や使い方を変えることで多種多様なウイスキーを造り、さらに期間限定・数量限定などの条件も付加することで特別感を増して消費者の需要を喚起していると考えています。
ウイスキー熟成の際の樽の使い方には大きく分けて3つの方法があります。
樽の使い方の違いによって、使われた樽が及ぼす影響が異なってきます。同じように見える商品でも樽の使い方が違うとウイスキーの香味も異なってくるので、理解しておくとウイスキーをより愉しむことができるでしょう。
それぞれの特徴については後ほど紹介します。
ラベル表記では、①は「○○カスクフィニッシュ」と表記されている事が多いですが、②と③については「ブレンド」「フル熟成」といった表記はないので読み解く必要があります。
熟成=Maturedという表記と一緒に記載されている事が多いので、ラベルをじっくり読んでみましょう。
※余談ですが……
同じ「カスク」がついた言葉として「カスクストレングス」や「シングルカスク」という説明が表記されていることがあります。これは熟成とは関係ない言葉ですので、分けて考えましょう。
・カスクストレングス=樽から出されたままのアルコール度数で瓶詰めされた商品
・シングルカスク=ひとつの樽の原酒のみから瓶詰めされた商品
■①カスクフィニッシュ
【A樽で熟成したウイスキー】を、【B樽で後熟(追熟)】したウイスキー
初めにAの樽で熟成したウイスキーを、別のBの樽に詰め替えて、追加熟成したウイスキーです。
複数の種類の樽で熟成させることによって、原酒にはフィニッシュに使われた樽の風味が少し加わり、香りや風味が複雑になるといわれています。
フィニッシュには「シェリー樽」「ワイン樽」使われることが多いですが、最近ではビール樽やテキーラ樽などを使ったウイスキーも造られています。
フィニッシュにどんな樽を使うか、どの位の期間追加熟成するのか、によってその影響は異なってきますので見極めが重要です。
フィニッシュの期間についての規定はありませんが、通常6カ月、月間~2年間くらいといわれています。
ウッドフィニッシュという表記の場合もあります。
★番外編
最近では、『原酒の一部を【B樽で後熟(追熟)】したウイスキー』も登場しています。
この場合、ラベルには「SELECTIVELY FINISHED」といった表記がされています。(写真参照)
全てがフィニッシュされていないので、フィニッシュで使われた樽の影響は少ないですが、異なる樽を一部使用することで料理にスパイスを加えるように、ウイスキーの風味を引き締めたり、複雑にする効果もあるのだと思います。
■②ブレンド
【A樽で熟成したウイスキー】+【B樽で熟成したウイスキー】
それぞれ異なる樽で熟成した原酒をブレンドして瓶詰めされたウイスキーです。
ラベルには「○○カスクand○○カスク」などと表記されている場合が多いです。
何種類をブレンドするか、それぞれの原酒の割合などによってウイスキーの特長が作り上げられます。
最近では、「バーボン樽熟成原酒70%+シェリー樽熟成原酒30%」のように、情報を明確に提示する商品も登場してきていますが、明示していない商品も多くあります。
※ブレンドの場合、ラベルには「ブレンド」という表記はありませんが、ここでは熟成する樽の使い方の分類のとして、複数の種類の樽で熟成した原酒を混ぜ合わせているので「ブレンド」としています。
ブレンデッドモルトウイスキー(複数の蒸溜所の原酒をブレンドしたウイスキー)、ブレンデッドウイスキー(モルト原酒とグレーン原酒をブレンドしたウイスキー)とは違いますので間違えないように。念のため。
また、ブレンデッドモルトウイスキーにも複数の異なる樽で熟成した原酒をブレンドしたウイスキーもあります。
■③フル熟成
【A樽のみで熟成したウイスキー】1種類の樽のみで熟成されたウイスキーです。
①カスクフィニッシュや、②ブレンドに比べて、樽の特性がもっとも強く感じられるウイスキーになります。
ウイスキーのフル熟成には、バーボン樽やシェリー樽が使われる場合が多いですが、さらにこだわった樽を使用することで魅力を追加しているウイスキーも多くあります。
ただのバーボン樽ではなく『○○蒸溜所のバーボン樽』と明示したり、シェリー樽についても『スペインの○○シェリーの樽』とすることで希少性やブランドイメージアップをしています。
■まとめ
ウイスキーのカスクについてのお話はいかがでしたか?ウイスキーを愉しむ時、選ぶ時の知識として参考になれば幸いです。
例えば「シェリーカスク」と書いてあるウイスキーがあったとします。それが、最後に少しの時間だけシェリー樽に入っていた「カスクフィニッシュ」なのか、バーボン樽熟成ウイスキーとシェリー樽熟成ウイスキーとの「ブレンド」なのか、シェリー樽だけで熟成された「フル熟成」なのかによって、シェリー樽の影響の強さが異なることは想像できますよね。
しかし「シェリーカスク」という表記だけでは、何のシェリーか? 何回使った樽なのか? は不明です。そんな時は、ご自身の官能を総動員して想像してみるもの愉しいのではないでしょうか?
ウイスキーのラベルはかっこいいデザインとしての価値だけではなく、実はたくさんの情報が詰まっています。ラベルの小さい文字も読み解いていくと、よりウイスキーの愉しみ方が深まることでしょう。