サメと忍者が戦う前代未聞のアクション映画『妖獣奇譚 忍者VSシャーク』。発表時からTwitterで「サメ映画」がトレンド入りするなど、各方面で話題を集める期待の異色作が遂に公開! 坂本浩一監督に本作の見どころをお聞きした!
文/今井あつし
<あらすじ>
時は江戸時代。人里離れた沖津村の浜に村人の惨殺死体が上がる。邪教集団・紅魔衆の首領・螭鮫士郎(みずち・さめしろう、演:中村優一)の仕業で、不老不死の力を得ようと妖術で鮫を操り、村人たちから強制的に真珠を巻き上げていたのだ。村長は、村はずれの寺に住み着く用心棒・潮崎小太郎(演:平野宏周)に助けを求める。一方、沙代(演:長野じゅりあ)はある不幸な出来事から村人たちから疎んじられていた。信助(演:西銘駿)は必死に沙代を庇うが、非力ゆえにどうすることもできずにいて……。
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●「サメと忍者を戦わせたい」という注文から始まった
――坂本監督が本作のメガホンを取ることになった経緯から教えてください。
プロデューサーの千葉善紀さんから、「海外への配信や配給を視野に入れた、忍者映画のご相談があります」と声をかけていただいたのがキッカケですね。自分が昨年監督した映画『文豪ストレイドッグス BEAST』(’22)で、異能力で変身する白虎をCGで表現したのですが、千葉さんはその作品を観ていてくださり、「忍者とサメが戦う映画が観たいんです」と、いきなりとんでもないお題を出されたんです(笑)。『文豪ストレイドッグス』でVFXを担当したインドネシアのCGチームに確認したところ、「サメも作れる」との返答をいただいたので、この映画の企画が正式にスタートしました。
――特撮作品にゆかりのある俳優さんたちがキャスティングされているのも、本作の特長です。
本作は海や山といった自然の中でのアクションが多く、タフなシチュエーションを乗り切るためにも、体力に自信のあるキャストが適任でした。また芝居やアクションでCGのサメと絡むので、目線の振り方にしても、特撮作品に出演経験のあるキャストの方が慣れている、という部分も大きいですね。
●ウルトラマンと仮面ライダーの共演!?
――『ウルトラマンZ』(’20)の主演だった平野宏周さんが、本作の主人公で忍者の小太郎 を演じられていますが、それまでのイメージと異なりワイルドな役柄で驚きました。
平野くんは、『ウルトラマンZ』で演じた主人公を筆頭に、今までは、可愛い後輩というイメージの役が多かった気がします。でも彼は、元々アメフトをやっていて体格がガッチリしているので、もっと男らしい役も見てみたかったんです。 悪漢として登場する小太郎は、また違った平野くんの魅力を引き出すことが出来たと思います。特撮作品の主人公って、敵にやられそうになってからヒーローに変身するというパターンが多いのですが、本作では変身せずに敵を倒すので、平野くんも楽しんで演じていましたね。
――ダブル主演の西銘駿さん演じる信助は、あくまで非力な人間として描かれていて、超人的な忍者である小太郎と見事なコントラスになっていました。
西銘くんが演じた信助は非力な若者ですが、好きな女性を守るためなら命を張って何 度でも立ち上がる、一途なキャラクターです。『仮面ライダーゴースト』(’15)でご一緒した時の、人懐っこい可愛さの中に、しっかりと芯を持った西銘くんの印象がピッタリでしたね。
●ヒロインを巡る三角関係がドラマの軸
――小太郎と信助は当初は反目し合いながらも、徐々にバディ関係を築いていきます。2人の関係性をどのように描こうと思われたのでしょうか?
小太郎と信助は、アウトローと真面目な青年という両極端なキャラクターです。性格が正反対な2人が相棒となり活躍するのが、バディ映画の鉄則だと思うんです。長野じゅりあちゃん演じるヒロインの沙代との三角関係も含めて、面白さが出れば良いなと思いました。実際に平野くんと西銘くんは、「この2人の関係性をもっと見ていたいな」と思わせるぐらい、現場で仲良くなりましたね。完成披露上映会の舞台挨拶で西銘くんが言ってましたが、2人は『ウルトラマン』と『仮面ライダー』でクラスは違うけれど、 特撮という同じ学校の出身というのがピッタリな表現だと思います(笑)。
●情念すらも美しい。本作を彩る華麗なヒロインたち
――メインヒロインの沙代は過酷な過去を背負いながら、内に強さを秘めた女性として描かれます。演じる長野じゅりあさんはどのような印象でしょうか?
じゅりあちゃんとは共通する友人も多く、以前からご一緒したかったんです。幼い頃から空手をやっていて、世界大会での優勝経験もあります。現在は女子プロレスラーとしても活躍していて、さらに看護師の資格を取得している。経歴を見ても彼女の精神力の強さがわかると思います。「どんなことがあっても生き残る」という沙代の情念を、彼女なら的確に表現してくれると直感しました。クライマックスでは、沙代が空手を使ったアクションを披露しますが、そのシーンは元々存在しませんでした。じゅりあちゃんのキャスティングが決まった後で追加したんです。
――宮原華音さん演じる菊魔は小太郎の命を狙うくノ一という設定で、小太郎が過去と向き合うことになるなど、物語に大きなうねりをもたらします。
華音は目力があるので、構えた時の一瞬の表情で説得力ある『強さ』を表現できます。彼女も子供の頃からじゅりあちゃんと同じ流派の空手をやっていて、2人は以前から大会などで知り合いだったんです。ただ、じゅりあちゃんは型の選手で、華音はフルコンタクトの選手だったので、2人が実際戦ったことはなかったんだそうです。今作でも菊魔と沙代が戦うシーンはなかったので、また別のシチュエーションで2人の対決を撮りたいですね。
●時代劇で意識したのは山田風太郎の『魔界転生』
――黒幕である螭鮫士郎役は中村優一さんで、年老いた妖術師に姿を乗っ取られるという特殊な役柄ですが。
優一くんは『仮面ライダー響鬼』(’05)や『仮面ライダー電王』(’07)に出演していましたが、自分はライダーシリーズでご一緒したことがありませんでした。アニメ『ポプテピピック』第2期(’22)のオープニング映像を実写で撮った時が初めてだったんです。鮫士郎は妖術を使って若返る設定なので、優一くんの端正な顔立ちや、お芝居の振り幅が、鮫士郎をさらに魅力的なキャラにしてくれると思い、オファーしました。
――中村さんの中性的な雰囲気もあって、螭鮫士郎は『魔界転生』の天草四郎のような妖艶な存在感がありました。
自分は’70年生まれなので、テレビや映画で時代劇アクションを見る機会が多かったんです。特に山田風太郎の忍法帖シリーズや、『魔界転生』が大好きなんです。奇抜で残酷さと妖艶な雰囲気が混在している世界観に惹かれていたので、今作には山田風太郎テイストのオマージュが入っています。特に刎ねられた鮫士郎の生首が妖術を唱えるところですね(笑)。
●容赦ないスプラッターとアクション!
――本作は「突き抜けた作品」を手掛けるエクストリーム作品ということもあって、血飛沫や人体破壊などのゴア描写が目白押しです。
最近はどんな作品でも「流血シーンは控えてください」と言われますが、今作では逆にプロデューサーから「どんどん血を出してください」とリクエストがありました(笑)。自分も元々スプラッター映画が好きなので、リミッターを解除して、血飛沫の描写に力を入れました。特殊エフェクトのスタッフもノリノリで参加してくれましたね(笑)。
――忍者ならではのアクロバティックな動きに、ゴア描写がプラスされたソードアクショ ンも本作の見どころですね。
平野くんは今まで殺陣の経験がなく、撮影に入る前にジムでスタントチームと一緒に練習しました。最初はぎこちなさもありましたが、本番ではみんなもビックリするぐらい迫力ある殺陣を披露してくれました。撮影後、平野くん自身は「上手く出来ていないんじゃないか」 と不安になっていたみたいですが、映像を見せたら、「俺、カッコ良いっすね!」と、自信が出たようです(笑)。彼の運動能力の高さが発揮されましたね。今作の忍者装束を手掛けたのは石川県在住の造形師の梶康伸さんで、一見すると重厚な質感ですが、激しい動きを考慮して軽量化して作っていただきました。この作品がご縁となって、現在放送中の『仮面ライダーギ―ツ』(’22)の自分の担当回で、仮面ライダータイクーンに変身する桜井景和が着た忍者装束も、梶さんにお願いしました。
●暴風の中で奇跡的に行われた海中撮影
――バトルフィールドの ひとつが海ということもあって、波間に漂っている沙代にサメが襲い掛かる場面などは臨場感溢れる映像となっています。
今作の最大のチャレンジは、海中での撮影でした。防水機能付きの GoPro(小型のアクション用カメラの代表的存在)を使用し、波間に漂っているような臨場感のある画を狙いました。千葉県の海岸で撮影したのですが、ちょうど海中での撮影日の天気予報は台風級の暴風雨でした。実際に沖の方は暗雲が立ちこめていましたが、幸運なことに、自分たちが撮影する辺りは、奇跡的に影響が少なく、ライフセイバーの方々も撮影可能だと判断してくれました。不吉なことが起こりそうな、怪しい暗雲という背景が偶然にも撮れたんです(笑)。ちょうど昼休憩でキャストたちが待機所に戻った後に、暴風雨が来て、スタッフ一同機材が飛ばされないように必死に守りました。休憩後にキャストが戻ってくる頃には、暴風雨は通過して、晴れ間も出てきました(笑)。
●前代未聞&奇想天外なクライマックスは必見だ!
――ラストで小太郎とサメが海中で戦う場面は、数々の特撮映画も手掛けた坂本監督 ならではの迫力でした。
サメのCGモデル制作は拘りましたね。顎を大きくしたり、背ビレを尖らせたりとディテールを調整しつつ、今までのサメ映画やドキュメンタリー映像を参考にして、アニメーションを付けています。特に参考にしたのが 2016 年公開の『ロスト・バケーション』という映画です。左脚を負傷して岩礁の上に避難した主人公をサメがじわじわと追い詰めていく内容で、「『ジョーズ』以来のA級サメ映画」の宣伝文句に違わず、リアリティたっぷりにサメが描かれていて非常に勉強になりました。企画会議でプロデューサーの千葉さんから「上空に飛び上がったサメを忍者が斬るカットが見たいんです」とリクエストがあったので、更にそのイメージを上回るためにアイデアを捻り、現状のような前代未聞のラストバトルになりました。
――サメが地上に上がってしまうという予想の斜め上を行く最終決戦ですね! 坂本監督はサメ映画というジャンルに対して、どのような印象でしょうか?
『ジョーズ』(’75)公開時、自分はまだ子供だったので、すごくショッキングでした。その 後、様々なサメ映画が作られて、特に昨今のサメ映画ブームはぶっとんだ作品も多く、「なんだこりゃ!?」と思いながらも楽しんで観ていました。けれど、いざ自分がサメ映画を撮ることになって、作り手としての目線で改めて観ると、実はちゃんと撮っているんだなと思い、サメ映画に対してリスぺクトが生まれましたね。
――最後に、これから本作を鑑賞する皆様に対してメッセージをお願いします。
本作は特撮ファンやアクション映画ファン、それからサメ映画ファンに向けて作りました。ツッコミどころ満載な作品なので、皆さんもジェットコースターに乗ったつもりで、頭を空っぽにして楽しんでほしいです。
坂本浩一(さかもと・こういち)
映画監督。東京都出身。16歳でスタントマンデビュー。1989年に渡米。長年『パワーレンジャー』シリーズに携わる。『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(09)を監督。その後、ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズなどの数々の作品を手掛ける。
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。
【公開情報】
映画『妖獣奇譚 忍者VSシャーク』は、
ヒューマントラストシネマ渋谷、
池袋シネマ・ロサ、
新宿シネマカリテほか、
4月14日全国公開!
小太郎、信介、沙代。三人の運命と三角関係の行方は?
3月28日の完成披露上映会は、キャストと監督が爆笑エピソードで大盛り上がり! 息もピッタリなワンチームでの話題作『妖獣奇譚 忍者VSシャーク』は、ヒットして続編へ突っ走るか!?