★今回おすすめのお酒
どぶろく
「瀧水(たきみず)」は、日本酒のソムリエといわれる「唎酒(ききざけ)師」の生みの親、右田氏が山口県防府市のどぶろく特区で造っているどぶろくです。
ワイングラスで、香りを楽しみながら飲むのがおすすめです。
※詳しい情報はこちら
■どぶろくとは?
みなさんは「どぶろく」についてどんなお酒だと思っていますか。
濁っている酒? 日本酒の起源?造るのが禁止されている酒? 密造酒? などのイメージがあるかもしれません。
まずはじめに【どぶろくとは何か?】について考えてみましょう。どぶろく(濁酒と表記する場合もあります)とは、基本的に米と米麹と水を原料として発酵させた醸造酒です。
“基本的に”とつけた理由は、実は「どぶろく」には明確な定義がないからです。
どぶろくの原料は基本的には清酒と同じ米と米麹ですが、清酒と違って【濾す工程】はありません。そのため濁りや甘みが残っていて独特の美味しさがあります。
そんなどぶろくは、日本の酒税法において「清酒」ではなく「その他醸造酒」という分類に属します(※清酒は濾して製造することが定められています)。
酒税法の「その他醸造酒」には、どぶろくの他に蜂蜜酒や第三のビール(新ジャンル)の一部なども含まれていて、原料や製造方法などは規定されていません。
つまり、現在の日本にはどぶろくの原料や造り方などを規定している(=定義づけしている)法律はないという事なのです。
※ちなみにどぶろくに似たお酒「にごり酒」は、濾しているため酒税法では「清酒」に属します。
どぶろくと法律に関してもうひとつ説明すると「どぶろくは法律で造るのが禁止されている」とよくいわれます。
確かにその通りなのですが、日本ではどぶろくに限らずその他のお酒についても自家醸造は禁止されていますので、どぶろくだけを規制する法律ではありません。
つまり現在の日本では「どぶろく」について法律では明確に定義されていないのです。
どぶろくは『米と米麹と水を原料として発酵させた醸造酒』というのは、現代の一般的な理解だということを知っておきましょう。実際に米以外の原料を使ったどぶろくも販売されています。
どぶろくは、長い間農家をはじめとする一般大衆の間で日常的に飲まれていたお酒であるため、資料も少なく歴史についてもはっきりしない事が多いのが現実です。
そこで今回は、現在一般的に「どぶろく」と呼ばれるお酒について【「清酒」との関係】や【自家醸造酒としてのどぶろく】という視点でご紹介していこうと思います。
■どぶろくと清酒の歴史
どぶろくの歴史は、日本におけるお酒の歴史とどぶろくから派生して生まれたともいえる「清酒」の歴史と密接に関わっています。
※詳しくは「日本酒の歴史」をご覧ください。
まず、日本においてお酒が登場したのは縄文時代、米を原料としたお酒という意味では稲作の伝わった弥生時代といわれています。
どぶろくを「米と米麹を原料としたお酒」として起源を考えると、麹を使ったお酒造りが始まった奈良時代が、どぶろくの歴史の始まりといえるかもしれません。この頃には濾す技術がなかったため、全てのお酒が濁った状態の「どぶろく」だったと考えられます。
どぶろくから濁りを取る技術については平安時代の記録に登場します。こうしてどぶろくから「清酒」を造ることができるようになったのです。このような経緯を考えると「どぶろくは日本酒の起源」ともいえるかもしれません。
しかし「清酒」を造る技術はあったものの、それは神に捧げるためのお酒であり、極めて限られた階層の人しか口にすることは出来ない貴重なものでした。一般の多くの民は米や雑穀から造った「どぶろく」を飲んでいたのです。
その後、清酒造りの技術が進歩し大量生産が可能になっても、多くの人々は手軽に楽しめるどぶろくを造り、飲み続けていました。明治時代に禁止されるまでは、農家や一般大衆によって自家醸造によるどぶろく造りは脈々と続いていくのです。
■神社でのどぶろく祭り
奈良時代の古事記や日本書紀はじめとする多くの書物に、日本ではお酒を神々に供えて五穀豊穣を祈願していた事が記されています。お酒と神事は昔から深く関わってきたのです。
春の耕作期に五穀豊穣を願う祈念祭や、秋に収穫を感謝する新嘗祭。いずれの神事でも米から造られたお酒は御神酒(おみき)として神に捧げられています。そして捧げた御神酒をその場で振る舞うという慣習が古くから受け継がれてきたのです。
御神酒として「どぶろく」を用いる「どぶろく祭り」も日本各地の神社で行われています。
祭りで使われるどぶろくはそれぞれの神社で造られることが多く、どぶろくの醸造許可を得ている神社は全国で40ほどあります。どぶろく祭りではどぶろくを神事で用い、参拝者にも振舞ったりします。祭りを続けることでどぶろくの歴史を守っています。
●主などぶろく祭り
・岐阜県 白川郷のどぶろく祭り
・島根県 佐香神社
・東京都 波除稲荷神社
・東京都 小網神社
・大分県 白鬚田原神社
・大阪府 善根寺春日神社
■どぶろく造り(自家醸造)が禁止されたのはなぜ?
日本では1899年(明治32年)に「どぶろく」をはじめとするお酒の自家醸造が禁止されました。
現在、お酒を造るためには「酒類製造免許」が必要です。許可なしにお酒を製造した場合には、「10 年以下の懲役又は100 万円以下の罰金」、又は「5 年以下の懲役又は50 万円以下の罰金」という罰則が課せられます。
また販売するにも免許が必要で「密造酒類等の所持等犯」という罪もあり、つまりは法律上の許可がなければ、造ることも、売ることも、所持することもできません。
どぶろくをはじめとする自家醸造を禁止した理由は、ずばり「酒税」のためです。明治政府は、当時の巨大産業であった酒造業に目をつけ、酒税の徴収を強化していきました。
当時、酒税は当時の税収の30パーセント以上を占める税収の中で最も重要な税となったのでした。ちなみに現在では、その割合は2パーセント程度に減っています。
多くの酒税を酒造業者に負担させる代償として、酒造りは免許制として新規参入を抑制したり、一般家庭における自家醸造の禁止したりすることで酒造業者の既得権を守る政策を行ったのでした。
余談ですが、「自宅で梅酒を造ったら法律違反なの?」とい思う方もいるかもしれません。これは酒税法で決められている例外にあたります。
自分で飲むためにお酒(アルコール分20度以上のもので、かつ酒税が課税済みのもの)に、禁止されている物(米、麦、あわ、とうもろこし、ぶどうなど)以外を混和する場合は例外的に製造行為としない、となっています。
日本以外の国の状況をみると、今でも自家醸造を禁じているのは先進国の中では日本のみです。
日本でも、憲法の職業選択の自由などの観点などから自家醸造や酒造りの自由化を求める主張や運動も起きています。こうした風潮が次に説明する「どぶろく特区」へと繋がる要因の1つとなっていきます。
■どぶろく特区とは?
どぶろく特区は、酒税法の酒類製造免許取得に関する年間最低製造数量基準(年間の製造見込み数量が6キロリットル以上であること)を適用しないという制度です。
2002年の行政構造改革によって、地域振興の観点から構造改革特別区域が設けられ、同特別区内でのどぶろく製造と、飲食店や民宿等でその場で消費される場合に限った販売が許可されるようになりました。通称「どぶろく特区」とも呼ばれています。
どぶろく特区は、2003年度に岩手県遠野で初めて認定されてから20年が経ち、現在では180以上が認定されています。事業者が製造免許を得る条件として、特区で自ら原料米を生産する必要があり、どぶろくを提供・販売するには、農家民宿など飲食・宿泊施設を営んでいなければならないという条件があります。
どぶろく特区はどぶろく造りの規制緩和ではありますが、実際には様々な条件があることも事実です。
■今注目されるどぶろく
最近では、どぶろくに関する全国大会や、どぶろくを愉しむイベント、どぶろくの資格試験などもできています。
清酒とは違った味わいだけではなく、健康効果や美容効果からも注目度が高まってきていますので、今後も人気が高まっていきそうです。
●どぶろくナビゲーター認定講座
日本酒の原点である「どぶろく」について歴史的背景や文化的価値、健康的価値などを学ぶことができる講座。
●全国どぶろく研究大会
全国のどぶろく製造者や関係者が集まり、どぶろくの活用方法、地域への波及効果についての取り組を学び、どぶろく文化の継承や、地域の活性化につながる機会として2006年から毎年1回開催されています。どぶろくコンテンストも行われます。
※参考:第16回全国どぶろく研究大会in北秋田(2023年1月開催)
●どぶらぶ
どぶろくを日本の発酵文化のひとつとして未来の日本食文化への継承を目的に2021年6月に【どぶろくラヴァーズ】として結成されたチーム。
参考情報:
【第16回全国どぶろく研究大会in北秋田 どぶろくコンテスト受賞銘柄】
<淡麗の部>
・最優秀賞 榮壽(黒):高知県香南市
・優秀賞 taake:岐阜県郡上市
・優秀賞 楼古狸:高知県中土佐町
・優秀賞 濁酒 マタギの夢:秋田県北秋田市
<濃芳醇の部>
・最優秀賞 和:高知県 奈半利町
・優秀賞 どぶろく 永蔵:新潟県上越市
・優秀賞 どぶろく由紀っ娘物語 甘口:愛媛県 東温市
・優秀賞 粲:高知県中土佐町
※その他受賞銘柄はこちら