4月2日にリニューアルオープンした「ネオ書房@ワンダー店」。シェア型書店という形態を活かして、特撮関連の書籍やアイテムを中心に幅広く展開。新しい店主で、特撮に関する執筆も多い批評家の切通理作氏にお話を伺った!
文/今井あつし
『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)『本多猪四郎 無冠の巨匠』(洋泉社)『地球はウルトラマンの星』(徳間書店)など、数多くの特撮に関する著作で知られる批評家・切通理作氏。
その活動は文筆業のみならず、2019年8月に「阿佐ヶ谷ネオ書房」を引き継いで古書店・駄菓子屋を開始。さらに今年2023年4月2日には、神保町の「ブックカフェ二十世紀」を第2の店舗「ネオ書房@ワンダー店」としてリニューアルオープンさせた
「ネオ書房@ワンダー店」はシェア型書店という方針で、様々なジャンルの作家や漫画家、出版社が参入してバラエティに富んだ本棚を演出している。小説や漫画といった古書だけではなく、同人誌やフィギュアなども販売。また特撮に関する書籍やアイテムも数多く取り揃えており、ファンやマニアにはたまらない商品が目白押しだ。
さらに併設のカフェではコーヒーなどのドリンクの他、カレーライスや焼肉弁当といったフードメニューも充実。特にタコの替わりに魚肉ソーセージを入れたオリジナルメニュー「ネオダマ」は好評を博している。刺激的でありながらも、ゆっくりとくつろげる居心地の良い空間にピッタリのフードメニューと言えよう。
店内にはギャラリースペースもあり、4月2日のオープンから23日までの間、怪獣絵師・開田裕治氏によるオリジナル怪獣のイラスト展示会が開催された。21日には開田裕治氏とアニメ・特撮研究家の氷川竜介氏との対談が行われて、多くのファンが詰めかけた。今後も特撮に限らず、様々なジャンルに関するトークイベントや展示会を開催する予定だという。
本の街・神保町で新たなトレンドとして話題を集めている「ネオ書房@ワンダー店」。古書店という枠組みを越えて、懐かしくも新しい感覚に出会える場を提供している切通理作氏に店舗の構想のみならず、本業の文筆家として特撮関係のお話、そしてその溢れんばかりのバイタリティについて、色々とお聴きした。
●本棚とイベントの相乗効果で新しいムーブメントを起こしたい!?
――切通理作さんは阿佐ヶ谷に続いて、今年4月2日から神保町でもお店を始められました。まずはその経緯から教えてください。
昨年、神保町の古書店である「@ワンダー」のオーナーが「阿佐ヶ谷ネオ書房」に訪ねてこられて、「来年『@ワンダー』の店舗を『@ワンダーJG』としてより広い敷地で拡大展開させるので、従来からある『@ワンダー』の2階でイベントブースでもある『ブックカフェ二十世紀』の方を活性化させてほしい」と相談を受けたのがキッカケですね。「阿佐ヶ谷ネオ書房」でイベントを開催しても、店内が狭いから来場者は15名までしか入れなかった。「ブックカフェ二十世紀」は最大50名もの人数を収容できて、本棚だけではなく、ギャラリースペースとカフェが併設して、ピアノやモニターまで設置されている。空間として非常に魅力を感じました。ここだったら、今までやりたくてもやれなかったことが実現できるし、本棚との合わせ技で面白い展開が起こせるんじゃないかなと思いました。それに阿佐ヶ谷には地元の良さがありますが、神保町は多くの人がアクセスしやすいという良さもある。
●シェア型書店という試み。特撮の同人誌を常設している意義
――「ネオ書房@ワンダー店」は阿佐ヶ谷の店舗とはまた異なり、シェア型書店として棚主を募り、棚ごとに独自に商品を販売していくという方針ですが。
神保町は昔ながらの古書街であり、「面白いものを見つけたい」と思って来る人が多い。そういった意味で販売する側からすれば敷居が高く、僕1人の目利きで本を並べたところで、どうしても限界がある。だからこそシェア本棚を設けて「自分も本を売ってみたい」「自分が書いた本を置いてみたい」と色んな人が興味を示すことで、結果的に良い化学反応が起きるんじゃないかなと。僕自身、思ってもみなかったジャンルの商品が棚に並ぶことがあって、驚きの連続でした。この先、棚主が入れ替わって様変わりする可能性はあるけれども、現時点でバラエティ豊かなラインナップになっていると思います。
――切通さんが店長ということもあって、特撮関係の同人誌やZINE、ミニコミ誌を置いている棚が多いのも特長ですね。
アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんが自費出版されている批評本をはじめ、早稲田大学の「特撮評議会」や「福岡特撮座談会」といった同人サークルによる特撮関係者のインタビュー本、また『仮面ライダー』(71)のロケ地を巡った『ロケ地大画報』など置かせていただいています。コミケやワンフェス、文学フリマなどで同人誌の即売会が行われているけれど、期日限定で、多くのファンの人たちの目に触れる機会って、そんなにないわけですよね。だから、「阿佐ヶ谷ネオ書房」も含めて僕のお店では特撮に限らず同人誌を常設しています。ドメスティックな店舗だから実現できることであり、そこに意義を感じていただければと思います。
●オープニングは怪獣絵師・開田裕治展。ビジュアルから読み解く特撮文化とは!?
――「ネオ書@ワンダー店」ではオープン初日から4月23日までの3週間、怪獣絵師である開田裕治さんのオリジナル怪獣のイラスト展示会が行われました。会期を終えて、どのようなご感想でしょうか。
若い人には想像できない話かもしれないけど、僕らの世代は20代になるまでビデオがなくて、現在のように好きな時に好きな作品が観られなかった。まさにファンが映像に飢えていた時代に、開田裕治さんは圧倒的なリアリティを持って、僕らが観たかったものを絵で再現してくれた。絵師という枠組みを越えて、開田さんが特撮文化に果たした功績は大きいです。そんな開田さんにお店のオープニングを飾っていただいて本当に感謝しています。
――4月21日には開田さんと氷川竜介さんのトークイベントを行われて、そちらも大盛況でした。
氷川さんは非常に見識のある方なので、「1960年代、雑誌等に掲載されている特撮のビジュアルは、イラストやスチール写真が中心だった」という話から、怪獣のビジュアル文化について語っていただきましたね。1970年代に入って、特撮研究家で編集者の竹内博さんがフィルムからコマ焼きした画像を書籍に掲載するようになった。当時、それがものすごく新鮮だったけど、映画やドラマはやっぱりストーリーで成立してるから、そこから1コマ抜き出したところで、全ての要素が入り込んだドラマチックなカットって、実はなかなか無いんですよ。開田さんは僕らが脳内で思い描いていたドラマチックなカットを絵画で表現している。だから、いつまでも僕らを魅了するんですよね。イベントでは意外に20代や30代の若い世代の方が多く来られていて、改めてウルトラマンや怪獣は世代を超えて愛されていると実感しました。
●豪華ゲストが登場!! 実相寺昭雄研究会によるトークイベント開催
――5月は「実相寺昭雄研究会」主宰のトークイベントが2週続けて開催されます。実相寺昭雄監督にゆかりのある人物として、1回目は俳優の寺田農さん(5月7日)、2回目は桜井浩子さん(5月14日)という豪華なゲストですが。
実相寺さんは生前「コダイグループ」というスタッフチームを率いていて、実相寺さんの没後、スタッフの方たちが「実相寺昭雄研究会」を立ち上げて、実相寺さんを検証した書籍『実相寺昭雄見聞録』を発行されている。僕の方から「書籍を置かせてください」と打診しました。そのやりとりの中で、「研究会」の方から「寺田さんと桜井さんをゲストにお招きしてイベントをやりましょう」と提案してくださいました。もちろん、僕としては願ったり叶ったりで、こちらからトークイベントに合わせて、お店のギャラリーブースを使って実相寺さんの貴重なオフショットや残された直筆の絵画の展示会を提案したら、受けていただくことになりました。今後もそのような相乗効果で様々な広がりと盛り上がりを見せていければ良いなと思っています。たとえば映画イベントの前後にポスター展をするとか。
「実相寺昭雄監督を振り返るトークショー」
5月7(日)ゲスト:寺田農さん
開場:13時半/開始14時 参加料2,000 円(1 ドリンク付き)
ご予約は「実相寺昭雄研究会」まで
※ 5/14(日)予定の桜井浩子さんトークショーはご予約満杯となりました。
またトークショーに合わせて、5月4 日(木)~ 14 日(日)までの間、「ネオ書房@ワンダー店」のギャラリースペースにて、実相寺監督が生前に描いたイラストなどを展示。こちらは無料で鑑賞できます。(但し、着席の場合は併設のカフェで1 オーダーお願いします)
●『ゴジラ&東宝特撮 OFFICIAL MOOK』も連動させていきたい!?
――切通さんは本業の文筆家としても精力的に活躍されています。特撮関係で言えば、講談社の『ゴジラ&東宝特撮 OFFICIAL MOOK』の巻頭ページに毎号寄稿していますね。
ゴジラシリーズ及び東宝特撮作品を網羅した大全集MOOKシリーズで、2022年まで発行されていた『ウルトラ特撮 PERFECT MOOK』に引き続いて、続投させていただいています。その号で取り上げられた作品について掘り下げていく内容なので、僕が初めてその作品に触れた経験をベースにしつつ、多角的な視点で作品を論じなければならない。事前に作品を観返し、また初稿から準備稿、決定稿へと至るシナリオの変遷を追い、その他の資料にも目を通しています。
――ネオ書房の仕事の合間を縫って執筆されているので、大変な作業だと思われますが。
『ウルトラ特撮』もそうだったけど、号が進むほど、今まで大きく取り上げられる機会があまりなかった作品についても詳細に論じられるので、僕自身は楽しい経験なんですよ。ゆくゆくは発売された号に合わせて、「ネオ書房@ワンダー店」でその作品にゆかりのあるゲストをお招きしてイベントを行ったり、何かしらの展示会を開催できればと妄想しています。
●昭和から平成、令和のウルトラマンを批評し続ける
――切通さんは円谷プロ公式サイト「TSUBURAYA IMAGINATION」でも連載を抱えていらっしゃいましたが。
最初は「円谷怪獣のひみつ」と題して、『ウルトラQ』(66)をはじめ昭和ウルトラマンシリーズの怪獣について書いていましたが、「NEW GENERATION TIGA」と銘打たれた『ウルトラマントリガー』(21)が開始されるので、放送前に元となる『ウルトラマンティガ』(96)の考察コラムを執筆することになりました。執筆当時、まだ『ティガ』が「TSUBURAYA IMAGINATION」で配信されておらず、サイト内の『ティガ』のページには本編がなくて僕のコラムが入っていたんですよ。責任重大じゃないですか。だから、『ティガ』未視聴者にも内容がわかるようにして、入り口になるよう細心の注意を払いましたね。
――それから『トリガー』『ウルトラマンデッカー』(22)と、現行番組の放送に合わせて各エピソードの見どころを紹介していく内容へとシフトしましたね。
円谷プロから『ティガ』や『ウルトラマンダイナ』(97)と重なり合う部分についても考察してほしいと言われました。現行ウルトラマンと過去のシリーズを同時に論じるという試みで、設定をファクトとしてベースにしつつも、僕が提示した解釈を楽しんでくれればという連載ですね。読み手の人たちと、その重なり合いから見えるものをお互いに「発見」していければ、批評家冥利に尽きます。今年7月から新たに『ウルトラマンブレーザー』が始まることが発表されましたね。僕が『ブレーザー』の論評を連載するのかはわからないけど、久しぶりに田口清隆さんがメイン監督を務めるTVシリーズなので、今から非常に楽しみです。
●ネオ書房は人と人の出会いの場でもある
――文筆業とネオ書房2店の店主も同時に務められていて、切通さんはマルチに活躍されています。そのモチベーション、行動力の源泉は一体何なのでしょうか?
正直に言えば、今自分が何をなすべきなのか、自分でもよく分からないんですよ。来年還暦を迎えるので、本来なら落ち着いて文筆業に絞るべきかもしれないんだけど。まあ、現在は出版業界自体が下降線を辿っていて、神保町もその煽りを受けて閉店に追い込まれた古書店や書店もある。紙の文化がどう読み手に届いていたのかという勢いの最後を知っている者としては、家の中に閉じこもってばかりではなく、そうした送り手と受け手の接点に関われるんだったら、改めて最後の足掻きではないけれども、ジタバタしてみても良いんじゃないのかなとは思いますね。
――「ネオ書房」で切通さんがお客さんと直接交流されている姿も印象的です。
僕は『男はつらいよ』で描かれる下町風情に子ども時代からちょっとした憧れもあったけれども、色んな人がアポなしでフラッと団子屋に遊びに来るなんていうのは、今や映画やドラマの中だけの話でしかないと思っていた。だけど、実際に阿佐ヶ谷でお店を始めてみると、中学時代の同級生が何気なく立ち寄ってくれたりして、今はデザイナーになっているその彼がネオ書房のビジュアルを手掛けてくれたりとか、思わぬ出会いや再会があるんですよね。「そうか。店をやってればフラッと立ち寄る理由になるんだな」って。それは利用者同士の出会いにも繋がるし、神保町のお店でも棚主さん同士で交流が生まれたりする。そういった場に触れることで、自分の人生にも何かの刺激になればいいと思いますよね。
――最後に読者やファンの方にメッセージをお願いします。
『宇宙船』という雑誌に読者層として「SFビジュアル世代」と謳っていましたけど、「ネオ書房@ワンダー店」及び「阿佐ヶ谷ネオ書房」をやってみて、改めて自分はSFビジュアル世代の一員なんだなと認識し直しました。小説だけじゃなく、漫画も映画もアニメも、思春期に持つ異世界への憧れや、その接点をSF的感性に開かれることで育み、共有していった。その軌跡が置かせてもらっている古本の中にもあるし、新たな視点や研究成果を反映させた新刊やZINEにもある。そんな空気に浸れる場所としても、是非お越しくだされば幸いです。
――本当にいろんな棚主による個性豊かな本棚がいっぱいで、いつ来ても飽きないですよね。
なお「ネオ書房@ワンダー店」はまだまだシェア本棚の棚主を募集しています。料金は3300円と安く設定していて、1000円以上の書籍が3冊売れれば元が取れるようになっていますし、自分の本棚を持つことで神保町という街を定点観測する機会にもなるのではと思います。コミュニケーションの広がりが生まれることに面白味を感じられる方にもお勧めですし、自分のコレクションの一部を他の人に提供し、自分は他の人のものを購入するのは、昔駄菓子屋の店先で怪獣カードを交換したような気持ちに戻れるかもしれません(笑)。
切通理作(きりどおし・りさく)
批評家。東京都出身。新聞各種に書評・時評、コラムを寄稿。映像関連雑誌や文芸誌に取材記事や映像作品に関する批評などを執筆している。代表作に『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』など多数。「ネオ書房@ワンダー店」「阿佐ヶ谷ネオ書房」の店主も務める。
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。
「ネオ書房@ワンダー店」
神田神保町の繁盛店「@ワンダー」の2階に阿佐ヶ谷の人気古書店「ネオ書房」がやってきた!!
●カフェ(コーヒー・紅茶 ¥500~)
お買い物の合間に美味しいコーヒーでホッとひと息つくも良し。フリーWi-Fi完備しておりますので普段のお勉強などにもご活用ください。お飲み物はソフトドリンク・アルコール各種、軽食もご用意しております。
●レンタルスペース
トークイベント・演奏・パフォーマンス・映画上映など。最大50名様のイベントから10名様以内まで対応できます。モニター・マイク貸出有り。作品展示会も開催できます! 絵画・イラスト・写真・工藝・ドール・ぬいぐるみ・おもちゃ・作品集などの作品展示。
●シェア本棚 ※新棚主様募集中!!
お貸出し棚は155棚ご用意! 棚には古書・新刊書籍・自費出版物・CD・DVDなど、ご自分の作品展示販売も紙・立体造形もOK! ご自分のおすすめのお品物など目を引くように展示販売できます。
棚は大きさによって値段が違います
Aコース:縦23~35×横28×奥行24cmあたり3,300円/月(税込)
Bコース:縦33×横76×奥行16cmあたり4,400円/月(税込)
※別途入会金として5,000円(税込)が必要。
上がりは振込手数料を除いた売上すべて棚主様にご入金させていただきます
※シェア本棚・作品展示・レンタルスペースのご使用は審査有り 場合によってご利用をお断りする場合がございます。
〒101-0051東京都千代田区神田神保町2-5-4@ワンダー2階
営業時間:11時〜19時(日曜日11時〜18時)/定休日・毎週月曜日(他メンテナンスの為の臨時休業有り)
MAIL:kirira@nifty.com
「実相寺昭雄監督を振り返るトークショー」
5月7(日)ゲスト:寺田農さん
開場:13時半/開始14時 参加料2,000円(1ドリンク付き)
ご予約は「実相寺昭雄研究会」まで
※5/14(日)予定の桜井浩子さんトークショーはご予約満杯となりました。
またトークショーに合わせて、5月4日(木)~14日(日)までの間、「ネオ書房@ワンダー店」のギャラリースペースにて、実相寺監督が生前に描いたイラストなどを展示。こちらは無料で鑑賞できます。(但し、着席の場合は併設のカフェで1オーダーお願いします)