強力なモノ同士を掛け合わせたら、最強のモノが誕生するか…。
冒頭から話は脱線しますが、かつて世界には、とんでもない計画がありました。それは攻撃力の高いライオンと足の速いヒョウを掛け合わせて、最強の動物を造る恐るべき実験です。それが「レオポン」です。1910年にインドで誕生しました。
これに続けとばかりに世界でも「レオポン」が作られていきます。その中に日本も含まれていました。結果、1959年、今は亡き甲子園阪神パークにて、2頭が誕生します。最終的に5頭まで増えました。しかしながら、「レオポン」には生殖能力がなく、新たな種となることが出来ませんでした。神はこの作られた種の存在を許せなかったのでしょう。こうして、倫理的な問題から、これ以上は繁殖させることなく、「レオポン」は日本から消えました。
さて、これまで人類が経験してきた戦争がそうであったように、当時の最高技術を結集して最高かつ最強の兵器が作られていきました。機関銃が誕生し、それに対抗するため戦車が生まれ、その戦車を倒すためにさらに強い戦車が開発されていったのも、その流れです。この発達史の陰には、兵器×兵器の掛け合わせが寄与していきます。目的はもちろん『最強の兵器』を目指すためです。
この中で、戦車の持つ打撃力と防御力、装輪装甲車の持つ機動力(走破性)を掛け合わせれば最強の兵器となるのでは?という構想が誕生します。それが通称“装輪戦車”と呼ばれる兵器です。兵器としての「レオポン」は、仏英伊など、ヨーロッパで積極的に研究開発、そして製造がおこなわれていきます。そして大発展を遂げていきます。
日本もこれに続くことにしました。ヨーロッパでは、70年代後半から80年代にかけ、研究開発されていきました。日本が、だいぶ遅れて装輪戦闘車の装備を考えたのには、防衛省・自衛隊の戦略の大幅な見直しが関係してきます。これについては別の機会にお話ししましょう。
16式機動戦闘車は、名称の前に冠した数字の通り、2016年より正式に配備が開始されました。自衛隊初となる“装輪戦車”です。英語表記のManeuver Combat Vehicleの頭文字を取ってMCVと呼ばれていました。しかし、現在は、Mobile Combat Vehicleとの表記に代わりましたが、略し方は同じです。取り扱うのは、車長(指揮する人)、操縦手、装填手(弾を込める人)、砲手(撃つ人)の4名です。
主砲は52口径105㎜ライフル砲を採用しました。西側主力戦車の主砲は120㎜砲がスタンダードで、日本でも90式戦車や10式戦車の主砲がそのサイズです。それより小型化しているのは、全体の重量を押さえたかったからです。一見すると戦車よりも打撃力が低下したように見えますが、APFSDS(戦車や装甲車の装甲を貫く弾)は進化をしており、90式戦車などと比べても遜色なく、活躍が期待されています。
全体の重量を約25tと押さえました。これだけ聞くと、重いのか軽いのかよく分かりませんが、90式戦車で約50t、10式戦車で約44tもありますから、比べてみると、かなり軽量化できていることが、ご理解いただけるのではないでしょうか?これにより空自のC-2輸送機に搭載して空輸することもできます。戦車は、この空飛ぶ機動力を持ち合わせていません。
砲塔前部は楔形になっているのが特徴的です。そして砲塔や一部車体には、中空式の増加装甲が装着されています。砲塔周囲にパーツを付け足しているイメージです。車体を支えているのが、左右4個ずつ、計8個のタイヤです。試作車はミシュラン製でしたが、量産型はブリヂストン製となりました。前の左右2輪が動いて進行方向を定めます。ドライブシャフトは車体の底にあります。動力は、570ps/2,100rpmを生み出す直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージド・ディーゼルを搭載しています。公道であれば時速100㎞での走行を可能にしました。
こうして攻撃力と機動力を掛け合わせた新装備が誕生したわけです。現在急ピッチで配備されており、2021年現在約160両が存在しています。
乗員/4名
全長/8.45m
全幅/2.98m
全高/2.87m
重量/26t
速度/約100㎞/h
エンジン/直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージドディーゼル
武装/52口径105㎜ライフル砲×1
12.7㎜重機関銃×1
7・62㎜機関銃×1