菊池雅之のミリタリーレポート
アイアンフィスト23 【後編】


徳之島の万田海岸へと上陸を果たした水陸機動団。IFにおける島嶼奪還作戦が繰り広げられ、制圧が完了した瞬間だ。

日本での初開催となった「アイアンフィスト(IF)23」は、2023年2月16日から3月12日の間、実施されました。アメリカで開催されていた第1回目から、年明けの冬の時期に開催されてきました。詳細は前編にて

IFにおける水陸機動団の新たなパートナーとなったのが、沖縄に駐留する第3海兵機動展開部隊です。

各種訓練は九州・沖縄エリアを舞台として行われていきました。

前半では、大分県にある日出生台演習場を「日出生台島」と想定し、日米共同での島嶼奪還訓練等が行われていきました。

上陸した偵察隊員は体中に砂浜の砂をまぶして身を隠す。

後半では、実際に南西諸島部の島々が使われました。クライマックスとなったのが、3月3日に行われた徳之島(鹿児島県)への上陸訓練です。この島を敵が侵攻してきた日本領土の島と想定し、日米が奪還していきます。

同島には、自衛隊施設はないので、自治体が管理する海岸や運動公園などが使われていきました。また、同日、喜界島(鹿児島県)では、第1空挺団による空挺降下訓練も行われました。これまでのIFは基本的に水陸機動団(前身となる西部方面隊)が行う訓練であり、第1空挺団の参加は今回が初めてとなります。

まずは偵察部隊がCRRCを使い上陸を目指す。後ろに見えるのは、米海軍のドック型揚陸艦「アッシュランド」。

上陸訓練が行われたのは、夏場は海水浴場となる万田海岸です。徳之島にある天城町、伊仙町、徳之島町の3つの自治体は、自衛隊の誘致活動を積極的に行っています。こうして海岸を使えるのもそのおかげです。もしかすると、徳之島にも自衛隊施設が出来るかもしれません。

徳之島奪還作戦を繰り広げるため、洋上では、強襲揚陸艦「アメリカ」が展開していました。同艦に搭載されているF-35Bを使い、徳之島周辺の空海域の航空優勢を確保し、海上防衛に努めます。

こうして「アメリカ」に守られるように、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と米海軍のドック型揚陸艦「アッシュランド」が、上陸作戦の準備をすすめていきます。

いよいよ万田海岸上陸作戦が決行されました。

本隊を乗せたAAV7が海岸を目指して海上航行していく。後ろに見えるのは、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」。

まずは、日米の偵察部隊がCRRC(Combat Rubber Raiding Craft)と呼ばれるラバー製ボートを使って上陸していきます。

本来は、こうした水路潜入行動は、夜間または早朝の目立たない時間に行われます。「これでは訓練にならないのでは?」とご心配の皆様、ちゃんと別日の夜間に偵察部隊の上陸訓練は行われました。

偵察隊員は、敵が海岸線またはその近傍にいないかを確認し、本体の上陸をアシストするのが任務です。ボートから降り立って、最初に行うのが、砂浜にごろんと横になり、体中に砂をまぶす行為です。これにより、海水で濡れた体中が砂まみれとなり、天然の迷彩服が出来上がります。火力誘導員たちも、このタイミングで上陸します。とにかくひっそりと音もたてずに慎重に行動していきます。

上陸するAAV7。水陸機動団隷下の戦闘上陸大隊がAAV7を運用する。2個中隊編成となっている。

上陸ポイントの安全が確認されると、本隊が上陸してきます。前述の日米輸送艦からAAV7が発進しました。そして一気に海岸線を目指します。上陸直前に煙幕を炊き、そのまま浜辺へと乗り上げ、後部ハッチから隊員たちが飛び出してきました。

AAV7の左右に分かれるように展開し、付近を警戒します。彼らが手にしているのは最新の20式小銃や新型9㎜けん銃(SFP9)でした。水陸機動団では、これら新小銃及び新けん銃は完全に行き渡っています。

次々と着上陸を果たしていくAAV7。後部ハッチから展開した隊員たちが警戒する。

上陸地点の制圧が完了すると、今度は、施設科や通信科、そして連隊本部要員といった後方支援に関わる隊員を乗せたAAV7が次々と上陸してきました。その上空を陸自のV-22、米海兵隊のMV-22Bが飛びぬけていきます。日米オスプレイは、島の別な場所へと人員輸送を行いました(想定のみ)

最後はLCACが車両や資機材を運んできます。このLCACには武装がないため、安全が確認されないと運用出来ません。

なお海自のLCAC-2104には、米海兵隊のLAV-25が搭載されていました。

こうして徳之島での上陸訓練は終了しました。

20式小銃をかまえる隊員。陸自が20式小銃を正式化すると、最初に水陸機動団へと配備されていった。

繰り返しになりますが、万田海岸は一般の人も入れる海岸です。そこで、多くの島民がこの上陸訓練を見学に訪れていました。また、本州からやってきた熱心な自衛隊ファンも多数いました。

今後もIFにて、徳之島が使われるのは間違いありません。ですから、「水陸機動団の上陸訓練が見たい!」と居ても立ってもいられない方は、来年是非万田海岸へと足を運ばれることをおすすめします。

海自LCACに搭載された米海兵隊のLAV-25。こうしたコラボが見られるのもIFの特長。
  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75

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