菊池雅之のミリタリーレポート
空中機動旅団の大改編
新生・第12旅団


整列する第12旅団の隊員と装備群。今回の改編により、大型ヘリCH-47JAと16式機動戦闘車の両方を配備することになった。

陸上自衛隊創設以来最大規模とも呼ばれている師団及び旅団改革は予定通り進んでいます。2023年度末には、相馬ヶ原駐屯地(群馬県)に司令部を置く東部方面隊・第12旅団が大改編を終えました。

歴史を遡ると、第12旅団は、1962年1月18日に第12師団として新編されました。当時は、第2・第13・第30普通科連隊を核心として、第12特科連隊、第12戦車大隊等を内包していました。

東西冷戦後、陸自全体の部隊編成を見直すことになり、第12師団は、2001年3月27日に第12旅団へと改編されました。旅団とは師団よりも小さいまとまりであり、これだけを見ると部隊縮小の道を辿ったことになります。

しかし、この改編は、ただ規模を縮小したわけではなく、陸自初の試みとなりました。と言うのも、旅団として初めてヘリを多数配備する日本唯一の空中機動旅団としたからです。

第12偵察戦闘大隊の戦闘中隊の車列。
第12偵察戦闘大隊の偵察中隊の車列。

第12師団が受け持っていた防衛警備区内には、群馬県、栃木県、新潟県、長野県の4つの自治体が含まれます。これら4県は、日本アルプスに代表されるように山間部を多く抱える独特の特徴を持っています。

これらの場所へと普通科(歩兵)部隊が展開して戦う為には、ヘリが絶対に必要となります。そこで、大型ヘリCH-47JAや多用途ヘリUH-60JAを配備し、空中輸送能力を強化することになりました。

その一方で、移動に時間のかかる戦車は不要との判断が下され、第12戦車大隊は廃止となりました。同じ理由から、野砲を扱う第12特科連隊は残ることにはなりましたが、第12特科隊へと規模を縮小することになりました。

この大規模改編から23年が経った今年―。

第12旅団は、さらに機動力を高めつつも削り取った機甲科火力を復活させることになりました。

それが第12偵察戦闘大隊の新編です。

この部隊の中核となる装備は16式機動戦闘車です。

こうして2023年3月16日、第12偵察戦闘大隊が新編されました。この部隊は、本部及び本部管理中隊、偵察中隊、戦闘中隊という編成となっています。

16式機動戦闘車には、第12偵察戦闘大隊戦闘中隊を表す「第12偵戦-戦」と書かれている。

他の師団及び旅団における偵察戦闘大隊の新編は、既存の偵察部隊と戦車部隊を統合しています。

しかしながら、第12旅団にはもともと戦車部隊がありませんでした。よって、第12偵察隊が偵察中隊へと生まれ変わったのに対し、戦闘中隊は完全に新編されました。

このような偵察戦闘大隊は他にはありません。改めて配備している装備を見ていきましょう。偵察中隊は、これまで第12偵察隊が運用していた装備がそのまま残ります。

87式偵察警戒車を主たる打撃力とし、軽装甲機動車やオートバイを配備しています。他方で、戦闘中隊については、前述したように16式機動戦闘車となりますが、ゼロからのスタートとなるため、他の部隊にて16式機動戦闘車を扱ってきた隊員や元戦車乗員が集められました。

整備中の16式機動戦闘車。これで東部方面隊には、第1師団第1偵察戦闘大隊、そして第12旅団第12偵察戦闘大隊と、2個の16式機動戦闘車部隊が誕生

2023年度末の改編で、第12旅団から消えた部隊があります。それが第12特科隊です。

ただし、これは、特科部隊が必要なくなった、と言うわけではありません。やはり戦場において大砲による長距離火力は必要不可欠です。

そこで、東部方面隊では、集約化することになりました。東部方面隊の隷下にある第1師団(東京都:練馬駐屯地)の第1特科隊と第12特科隊を統合し、東部方面直轄部隊の東部方面特科連隊としたのです。

今回の改編では、空中機動旅団としての1面も残す。CH-47JAチヌークは変わらず配備。

第12旅団から特科部隊は消えましたが、特科火力が必要な場面となれば、この東部方面特科連隊が増強されることになるのです。前線で戦う第12偵察戦闘大隊や、3個普通科連隊を後方より火力支援する頼もしい存在となります。

このように、16式機動戦闘車という新たな装備を得て、新生・第12旅団は、2024年より新たなスタートを切りました。

4月8日に行われた第12旅団創立記念行事での一般開放の様子。やはり16式機動戦闘車は1番人気。
  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
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