ツウ御用達のフランス車
アルピーヌA110に試乗

若人はエヴァ、オールドはラリー!?

去る6月16日に発売のモノ・マガジンではモノ的目線で見るスモールカーの特集であった。そこにはキュンとなるコンパクトカーが登場するのだが、世界は広いが誌面は限りがある。そんなステキなコンパクトカーをここでもご紹介するのだ。

今回はフランスの至宝、アルピーヌブランド。アルピーヌと聞いて、1960年代のラリーシーンが思い浮かぶアナタはツウとお見受けいたす。

アルピーヌは1955年にルノーディーラーを経営していたジャン•レディによって設立されたメーカーで、1973年にはルノー傘下に入り、一旦ブランドの流れは途切れたが2017年に復活。

また若人は『新世紀エヴァンゲリオン』の登場人物、葛城ミサトの愛車を思い浮かべるやもしれぬ。葛城氏のモノはA110の後継機になるA310。登場後すぐにボロボロになり「レストアが終わったばかりで33回ローンが残っている!」とローン持ちの筆者に刺さりまくる名台詞も(編集部注:TV版第1話です)。

いずれにしてもクルマの運動性能の高さにクローズアップしている。そして現実世界での「推し」ポイントはラリーカー抜きには語れない。

アルピーヌは1970年代のラリーシーンを席巻、1973年にはそれまでの欧州ラリー選手権から代わったばかりの初代WRCのマニファクチャラー•チャンピオンにも輝く。それは当時最強の1台とも言われたポルシェ911に匹敵する速さでタイトルを獲得したことも忘れてはならない。

いわゆる試験に出るポイントってヤツだ。この辺りを詳しく語ると大変なことになるので、アルピーヌはレースにも使える生粋のスポーツカーブランドであることをお判りいただければ、と思う。

ボンジュール! A110

筆者の存じ上げる唯一のフランス語を言いたくなるほどイカした(死語)イデタチのクルマが駐車場から出てくる。それは現代に蘇ったA110。往年の名車をオマージュしたデザインを持つ21世紀のスポーツカーだ。

この新世代アルピーヌはオリジナル(クラシック)の生産拠点でもあったフランス北部のディエップで復活。なんてハートウォーミングなエピソードだろうか。握りしめた拳が震えたヲタク系筆者のそんな中年の感傷はさておき、クルマの紹介である。

今回筆者がブイブイ言わせたのは(ふたたび死語)現行モデルの中でも快適志向に振っているA110GT(価格965万円〜、以下GT)。2017年に復活したA110は2022年にマイナーチェンジ。エクステリアは車名のロゴが入る以外はほぼ変わっていない。

それにしてもヒストリックのA110をオマージュしたデザインで、これほど現代風になっても違和感なくカッコよく感じられるのは筆者の偏見だろうか。

フランスの粋が詰まってる!

タイト過ぎないコクピットに体を押し込め、エンジンを始動。ミッドシップに収まるエンジンは1.8リッターの直4ターボ。これが始動時から「エンジン、ここにあり!」と主張する。

かといって、うるさいわけでもないからそこは大いに歓迎したいところ。それにしてもこのセンスの良いスポーツシートはどうだろう。ブランドは4点式ハーネスとかで有名なイタリアのサベルト製。レーシーでありながらもシートヒーター装備の快適志向で、まさにGT。

センターコンソールのシフトボタンのDを押してスタート。ちなみに長押しで完全マニュアルモードになり、Nを長押しするといわゆるAT車のPになる。車内を見回せばドアの内張りはもちろん、メーターや後退時モニターのガイドまでフランスのトリコロールカラーが随所に配されているがそれがしつこく感じさせないのはフラ車の粋というモノかもしれない。

センターの7インチディスプレイにナビ機能はなく自分のスマホと連動させるApple Car PlayとAndroid Autoが対応。個人的にマイチェンで唯一残念に思うところは、このディスプレイで確認できた水温などのいわゆる「走り」に必要な情報が表示できなくなり、スポーツモードなどにしてメーターで見ることに。マニア的にはちょっと寂しい。

1130kgの快感

走り出せばシフトの変速ショックもなく終始スムーズ。走り出してすぐに感じるのはクルマの軽さだ。挙動全てが軽い。かといって安っぽいかと聞かれたらそれはNon(No)だ。

A110はボディの9割にアルミが使われていて、試乗した快適志向のGT(フォーカル製スピーカー+軽量サブウーファーのサウンドシステム標準装備)でも車重は1130kgしかない。そんな軽いクルマに搭載されるのは最高出力300PSを誇る1.8リッタ−の直4ターボ。ミッションは7速のDCT。エンジンもクルマ同様軽く高回転まで回ってしまう。

早い話が気持ちよく回るエンジンで直線だけ踏みっぷりのいい筆者でも気持ちいいのだ。さらに、信号待ちで減速する時などステアリングのパドルでシフトダウンをすれば自分がル・マンアタッカーになった気分になれる。

それでいてクネッた道でも走った日には降参、楽しくて「まいっちんぐ」なのだ。連続カーブではアクセル操作だけでクルマの向きを変えられるし、それでいてフランスのクルマらしくロールを感じさせるセッティングだから運転する実感があり余計に楽しい。

どれ、その御本尊たるエンジンをみようか、と試みるとこれが意外に手間が必要となる。こ、これは企業秘密のオンパレードか! と思うけれど違う。その開き方はまずトランクフードを開け、そこからガラスルーフを止めてあるビス状のモノを外し、リアガラスを開き、10箇所近くあるエンジンカバーのネジを外して……。

慣れれば10分もかからないだろうと思うが、エンジンの画像は専門誌でご確認ください。ゴン!(筆者注:編集担当にお仕置きされた音)

日常もスポーツにするクルマ

アルピーヌA110 GT。生粋のスポーツカーでありながら高い日常性もある。例えばエンジン後方のトランクスペースだ。そしてフロントフード下にもスペースがあり、大人2人の1泊2日くらいならば気構えずに出かけられる。

高速で流したい時は低い全高から受ける印象よりも乗り心地がいいので、即時腰痛、電光石火の帰宅願望といった言葉とは無縁。それでいてひとりで走りに行く時などはスポーツモード以上にしてしまえば、これからの時代、御禁制になるかもしれない気持ちいいエンジン音が気分を盛り上げてくれる。

この手のモデルはやはり自動車でなくクルマなのだ。国内販売台数も想像より売れているというが、見る機会はまだ少ない。フランス革命の兵士が歌いはじめ、国歌になったというラ・マルセイエーズ(フランス国歌)のように、これだけ使えて燃費のいいスポーツカーなら欲しい! と急増してしまう可能性もゼロではない。

人と被らない魅力(それでいて愛好家の情報網付)は通好み。持ちモノにこだわるモノマガ人のみなさま、アルピーヌブランドは注目ですぜ!

アルピーヌ A110 GT


価格965万円から
全長×全幅×全高4205×1800×1250mm
エンジン1798cc直4ターボ
最高出力300PS/6300rpm
最大トルク340Nm/2400rpm
WLTCモード燃費14.7km/L

アルピーヌ
問 アルピーヌコール 0800-1238-110

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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