特撮ばんざい!第21回:禁断のホラー映画が完全版となって蘇る!? 映画『キラーコンドーム ディレクターズカット完全版』 Rockin’ Jelly Bean インタビュー


突如コンドームが股間を喰いちぎる!? 映画史上に残るキワモノホラー『キラーコンドーム』が25周年を記念して、HDリマスター&ディレクターズカット完全版となって8月4日から全国公開される。1999年の初公開時と同じく今回も本作のメインビジュアルを手掛けたイラストレーター、Rockin’ Jelly Bean(ロッキン・ジェリービーン)氏に25年の歳月を経て、また新たな魅力を放つ『キラーコンドーム』についてお話を伺った。

文/今井あつし

<あらすじ>
ニューヨークの安ホテルで突如、男性の股間が喰いちぎられるという怪事件が立て続けに勃発。主人公でゲイの凄腕刑事ルイージ・マカロニ(ウド・ザメール)は偶然出会った若い美形の男娼ビリー(マルク・リヒター)と一夜を共にするが、左の睾丸を何者かに喰われてしまう。マカロニは事件を追ううちに、犯人の正体がマッドサイエンティストによって生み出された怪物“キラーコンドーム”だと気づく。しかし、すでにニューヨークの街は増殖したキラーコンドームによって浸食されていたのだった……。

<映画公式HP>

●25年前とまったく印象が異なり、多様性を先取りした映画

――ロッキン・ジェリービーンさん(以下RJBさん)が、今回の『ディレクターズカット完全版』で新たにビジュアルをご担当されることになった経緯から教えてください。

1999年の公開時と同じ経緯ですね。25年前、海外の映画祭で『キラーコンドーム』を買い付けてきた叶井俊太郎さんからビジュアルをオーダーされたのですけど、今回も同じように叶井さんから電話が掛かってきて、「25周年として、デジタルリマスターを施したディレクターズカット完全版を全国で上映するので、新しいビジュアルを描いてくれないか?」とお声がけくださいました。当時、この映画で自分を知ってくれた方が多くて、自分の中でも『キラーコンドーム』は特別な作品でした。ですので、叶井さんの「前作を超えるような、インパクトのあるビジュアルにしてほしい」というオーダーに応えたいと思いました。

――25年前に本作を初めて鑑賞した際、どのような感想だったでしょうか?

正直に言うと、少しギャグが入ったB級映画という印象でした。と言うのも、主人公の刑事が中年でゲイという設定は、当時の感覚からすれば、まだお笑いとしか受け取れなかった。だけど、今改めて観ると、全く印象が違っていました。現在はいろんな性の在り方が可視化されてきて、ジェンダーの意識が浸透しつつありますよね。25年も前の作品なのに、異性愛であろうと、同性愛であろうと、様々な性を分け隔てなく肯定している。「非常に良いテーマを描いたいたんだ!」とビックリしました。

●エイリアン、H・R・ギーガーの衝撃

――『エイリアン』のH・R・ギーガーが本作のクリーチャーをデザインされているのも特長です。ギーガーに対して、どのようなご印象をお持ちでしょうか?

自分は子どもの時に第1作目の『エイリアン』(79年)を観て衝撃を受けた世代ですから、もう大好きですよ。エイリアンは、それまでのモンスターとは一線を画していました。性器をモチーフにしたセクシャルなインパクトもあって、「こんなアプローチをする人がいるんだ」というのが何よりもショックでしたね。人体に寄生するところは非常にショッキングなんだけど、生物学的に成長していく段階が丁寧に描かれていて、地球外の生命体として説得力がある。それでいてどこか宗教的なものすら感じさせる。全てにおいて斬新すぎる。だけど、ギーガー本人は『エイリアン』よりも『キラーコンドーム』の方を気に入っているという噂を聞いて、個人的に「それはどうなんだろう?」とは思いましたけど(笑)。だれど、キラーコンドームもセクシャルな生物という意味では、ギーガーらしいクリーチャーではありますよね。

●アメリカで受けたカルチャーショックと、日本ならではの良さ

――本作はドイツ映画ながら、ニューヨークが舞台でゲイカルチャーを題材にしています。RJBさんは過去に7年ほどアメリカに住まわれましたが、実際に暮らしてみて、アメリカの社会、文化はどのように映ったでしょうか?

自分が住んでいたのはロサンゼルスだったので、ニューヨークと比べて、同性愛者に対する印象も含めて、もっとカジュアルでしたね。当時はレイヴパーティーが流行っていて、みんなが踊っている中で男の子同士、または女の子同士が普通にキスをしているんですよ。後ろめたさやいやらしい感じは一切なくて、本当にあらゆる面で解放的でした。自分はロックバンドもやっているので、音楽の要素が詰め込まれている映画の『ロッキー・ホラー・ショー』(75年)が好きなんですけど、自分が住んでいたウエストL.A.にあるNuartって劇場は、当時からずうっと毎月決まった週末の深夜に『ロッキー・ホラー・ショー』を上映していて、ファンたちは仮装したり、顔をペイントしたりしてワイワイ騒ぎながら鑑賞していました。日本でもファンが上映中に声を上げる参加型イベントが定着しましたけど、みんなが一緒になって映画の世界を心の底から楽しんでいる姿を初めて見た時、「こんな世界があるなんて」とカルチャーショックを受けましたね。

――RJBさんは過去のインタビューなどで、海外で暮らしてみて逆に日本の素晴らしさも知ったと仰っています。改めて日本の素晴らしさはどのようなところでしょうか?

やっぱり日本人は倫理感が強いということに尽きますね。日本人はアメリカ人のようにノリは軽くないのかもしれないけれど、その代わり真面目でどんな時でも誠実に向き合おうとする。そのうえで手先が器用なこともあって、責任感持って細やかな作業を行える力がある。日本人って、子どもの頃から昔話や童話などに当たり前のように触れていて、「悪いことをすればバチがあたる」といった教訓が知らず知らずの内に沁み込んでいると思うんです。日本で暮らしているとなかなか気づかないけれど、実は世界から見たら、そういったところで尊敬されていたりする。まあ、常にマスクをしている私が言うのも何ですけど(笑)。

●新たな世代に伝えたいという想いが普遍的なものに繋がる

――RJBさんのイラストは描かれている女の子のキャラクターも含めて、60年代から70年代にかけての懐かしいレトロ感を漂わせつつも、普遍的な魅力があります。意識されているところを教えてください。

やっぱり自分は60年代や70年代のアメリカが好きなんですね。「あの時代の匂いを感じさせたい」という想いが自然に絵に出ているんだと思います。それと同時に自分は若い世代にも興味があって、そういう人たちに自分のイラストを見てもらいたいという気持ちが常にありますね。彼らに「こういうのどうよ?」と、あの時代の魅力を伝えていきたい。それで自分のイラストが普遍的なものに繋がっているのであれば、これほど嬉しいことはないです。『キラーコンドーム』は25年前の作品なので、若い人たちは作品そのものを知らないかもしれないけど、映画の冒頭で、前髪をぱっつんに揃えた女の子が出てくるでしょ? 60年代風のヘアスタイルなので、今回の新しいビジュアルは、あの女の子をイメージしたキャラクターをメインに据えたものになっています。若い層に「こういう女の子もイケてるでしょ?」とアピールしかったんですよね。

――本作が初めて公開された25年前と現在を比べて、変化を感じたところがあれば教えてください。

世の中全体が本当に様変わりしましたね。先ほども言ったように、25年前にこの映画を初めて観た時は、刑事のキャラクターが漫画のようにしか思えなかったけど、今はゲイの人たちが声を上げて、それに賛同した人たちが社会を改善しようといろいろと活動している。もちろんジェンダーに関しては、まだまだ問題が山積みです。『キラーコンドーム』の黒幕は宗教的な問題も抱えていたけど、現実でも似たような事件が起きていたりする。よく昨今の情勢を試みて「現実が漫画化したようだ」と述べる人がいますが、そういう意味で言えば、良い面でも悪い面でも、ようやく世の中がこの映画に近づいちゃったのかなと思います。本当に『キラーコンドーム』という映画は早すぎたメッセージだったんですね。

●若い世代に興味があるからこそ、彼らにも観てほしい

――RJBさんは今年5月から6月にかけて、高円寺VOIDで個展を開催されました。イラストレーターとして今後の野望を教えてください。

若い子たちに興味があるので、若い世代とコラボレーションしてみたいです。今注目しているイラストレーターで、田中かえちゃんという女の子がいるですよ。手塚治虫や吾妻ひでおを彷彿とさせる可愛いらしい女の子の絵を描いていて、手塚や吾妻ファンである自分にとって、たまらない魅力がある。自分の展覧会にお客さんとして来てくれたのをキッカケに、よくSNSでやり取りをしているんですけど、彼女のお父さんと自分は同じ世代なんですよね。だけど、彼女は手塚治虫に非常に興味を持っていて、一周回った面白さがある。是非とも一緒にコラボして何かを作り上げたいですね。彼女の動向に目が離せないですね。

――最後にこれから『キラーコンドーム ディレクターズカット完全版』をご覧になるファンに向けてメッセージをお願いします。

現在、社会が抱えている多様性の問題などが詰め込まれた内容で、公開時よりも今の方がマッチしている。改めて観て、自分の中でこの作品の意味が変わったぐらいです。それに今回の『完全版』はデジタル処理が施されているので、以前リリースされたDVDと比べて圧倒的に画像がクリアになっている。25年前に本作を観た人もまったく新しい気持ちで鑑賞できると思います。また最近のジャンル映画とは違って、クリーチャーがCGではなくて、あくまで昔ながらの特撮で表現されているのも良い味を出していて、グロテスクなんだけど、どこかで可愛いらしさがある。若い世代にも、25年前の作品ならではのレトロ感を楽しみつつ、キワモノだけではない、「実はこんなメッセージ性があった映画だったんだ」と気付いてほしいです。


Rockin’ Jelly Bean(ロッキン・ジェリービーン)
覆面画家。1990年からイラストレーターとして活動を開始。ロサンゼルスで7年間活動した後、05年から活動の拠点を日本に移す。現在、プロデュースしている原宿のショップ「EROSTIKA」で映画『マタンゴ』(63)とのコラボ商品を発売中。またミュージシャンとしてプレ・サーフコンボJACKIE & THE CEDRICSでベースも担当。

今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。

【公開情報】

映画『キラーコンドーム ディレクターズカット完全版』は、8月4日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他、全国ロードショー!

<映画公式HP>

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