14cmも短くなったスポーツカー
モノ・マガジン6月16日号はコンパクトカー特集であった。そこでは洋の東西を問わず魅力あるクルマが登場している。誌面で紹介できたのは1部で、魅力的なクルマは他にも多い。例えばトヨタ生粋のスポーツカー、GRスープラ。へ? スープラ? どこがコンパクトなんじゃい! とお叱りを受けそうだが、ジツは現行モデルの全長は4380mmしかない。先代のA80型スープラは4520mmだったので、全長が140mm、つまり14cmも短くなっているのだ。というわけで今回は魅力的なコンパクトスポーツカー、スープラをご紹介。
あのドイツ車メーカーと共同開発
2002年に先代のA80型が生産終了。それからジツに17年ぶりの2019年に復活したのが現行モデル。スープラといえばもともとはセリカの北米向けモデルに与えられた名前。セリカを若干大きくし、直6エンジンを載せたセリカXX(ダブルエックス)の北米版がスープラの始まりだ。
現行モデルの開発に当たっては、なんとドイツのBMWとタッグを組み、両社で新しいプラットフォームを開発するなど話題に。なぜBMWなのか? それはスープラの伝統でもある直6エンジン搭載のFRレイアウトにこだわるためと言われ、当時、直6エンジンのFRを持っていたのがBMWだったからとも言われる。そんな背景で生まれたのが現行モデルになる。今回拝借したのはRZの6MTモデル。
実際に見ると前輪と後輪の間隔が短く見えるだけでなく、前後のフェンダーは大きく膨らみ筋肉質な印象。フロント周りはちょっと前のF1のフロントノーズっぽくてカッコイイ。またボンネットが長く見え、これぞFRスポーツカー! そんな雰囲気をイデタチでもアピールしている。
初見では曲線のラインに見慣れるまで手放しでカッコイイとは思えなかった。その代わりと言ってはなんだが、空力バランスがスゴそうだ。事実ボディ下面は、ほぼ全面に空力カバーを採用するなど計算され尽くしたシルエットになっているのだ。2022年のマイチェンでMTの追加のほか、RZのみ新意匠の鍛造19インチホイールを採用する。
やたらと太く見えるサイドシルをヤッコラショとまたいで、低いシート位置に身を収めると車両姿勢のつかみやすい水平基調のインパネや囲まれ感のあるコクピットはまさにスポーツカーの教科書どおり。
筆者はこの乗り降りがラクとは言い難い(もちろんそれがスポーツカーの楽しみでもある)スープラにミニスカのオネーさんを乗せたいと不埒な考えが浮かんでしまった。
伝えたいことはそんなヨコシマな考えではなく、ジツはこの乗降性、トヨタの基準としてはNGな範囲なのだそうだ。共同開発したBMWも同様の判断というがスープラは例外的にゴーサインが出たといい、それほど走りの楽しさに重きを置いたクルマであると言いたかったのだ。ミニスカがメーンではない。
エクステリアのドーンブルーメタリックに組み合わされたオプションのタンカラーの内装色がこれまたオシャレでオトナのスポーツカーな雰囲気だった。しかも、左右のドアで配色が異なるのも粋。
クラッチペダルとウィンカーは目視してから!?
スポーツシートに身を収めると、ペダルレイアウトは右側にオフセットされており、最初はムムムっとなった。いわゆる2度見ってヤツである。1度クラッチを目視してしまえばどうということはないのだが最初は、ん? であった。
重めのクラッチを踏んでまだ渋さが残るシフトを1速へ。エンジンはスープラといえばコレでしょう的な3リッターの直6ターボ。
そのスペックは387PSの最高出力と500Nmの最大トルクを誇る。全体的なバランスの良さは2リッター直4ターボの方がいいといわれているが、らしさはコチラだと思う。
そしてシフトは待望の6MT! 直6、FR、MTと聴いて喜ばないクルマ好きがいようか。ちなみにこのミッションは先代のゲトラグ製からZF製に変わり、ギア比はハイギヤードでクロスレシオになっている。MT車はファンなどから要望が強く、2022年にラインナップに加わった。
もうひとつ確認しておきたいのはウィンカーの位置だ。BMWと共同開発の名残りと言おうか、国際規格に準じていると言おうか、スープラのウィンカーはステアリングの左側にスタンバイしている。
エンジンはとても扱いやすい。クラッチは重い部類になるけれど、街中は1500rpmでシフトアップしても十分。わずか1800rpm回転から最大トルクを誇るエンジンの恩恵である。
おそらく街中で一番使う速度域で報告すると4速1500rpmくらいで40km/h、6速1500rpmくらいで60km/h。もちろんそこからギアを落とさずに踏んでも加速してくれる。
シフトダウンはクルマが回転を合わせてくれるiMT搭載。もちろん自分で回転を合わせてもOKだ。
感性に訴える性能がス・テ・キな走りっぷり
現行のスープラの走りは絶対的な動力性能よりも感性に重点を置いたという。走らせていれば街中ではエンジン音が気分を高揚させてくれるし、ステアリングフィールもスポーツカーを運転している! 実感が強く感じられる。
また高速などの合流でひとたびアクセルを踏み込めば、ドライバーの意思を逃さないレスポンスが気持ちいい。これがクネッタ道でも走ってしまえば「幻の多角形コーナリングぅ」とかつぶやいてしまいそうになるほどよく曲がる。
重い直6を載せているはずのフロントがインに入りたがるし、リアはいつでも加速体制になってくれる。コーナーの続くシチュエーションではクルマが自分のためにしつらえられたかのように感じてしまう。一歩間違うと危ない世界に入りそうだが、そこはさすがトヨタ、先進安全装備はキチンと装備する。
それにしてもなぜこんなに回頭性がいいのか。それは「割りきり」でもある。例えば、潔く2シーターモデルとして割り切ったタイトなコクピット。またホイールベースも同じGRブランドの86よりも100mmも短い2470mm。この数値は日本市場で最後のヴィッツとなった3代目モデルの2510mmよりも短いのだ!
スープラのホイールベースとトレッド(左右のタイヤ接地面の中心間の距離)の比率は1.55。この比率が1に近いほど旋回性能が高く(クルマによっては直進安定性が悪いものもある)、2に近いほど直進安定性が高い(クルマによっては小回りに難のあるモデルもある)。
その絶妙な数値を実現しているのだ、スープラは。開発担当の多田氏によれば「スポーツカーに要求されるショートホイールベースと低重心を最優先した数値」といい、「馬力やサーキットのラップタイムのような数値だけを追い求めるのではなく、いかにドライバーが車両と一体となって運転する楽しさを感じられるか、という感性性能を重視しています」とも言う。
筆者のようなボンクラが乗っても気持ちよさが味わえるスープラは499万5000円からとなっている。
トヨタ GRスープラ(RZ・6MT)
価格 | 731万3000円から |
全長×全幅×全高 | 4380×1865×1295(mm) |
エンジン | 2997cc直列6気筒ターボ |
最高出力 | 387PS/5800rpm |
最大トルク | 500Nm/1800-5000rpm |
WLTCモード燃費 | 11.0km/L |
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