特撮ばんざい!第22回:伝説のフェイクドキュメンタリーが帰ってきた! 映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』白石晃士監督インタビュー


工藤、市川、田代の最凶トリオ、カムバック! 想像を絶する怪異の数々に立ち向かう取材クルーの冒険を描き、熱狂的ファンを生んだ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ。8年の沈黙を破り、新作映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』が公開。白石晃士監督に作品への思いを伺った。

文/後藤健児

<あらすじ>

怪奇系ドキュメンタリーを手がけているプロデューサー・工藤(大迫茂生)の映像制作会社に、1本の投稿動画が寄せられた。遥(福永朱梨)たち3人の若者が、心霊スポットとされる廃墟で撮影したその映像には、不気味な祭壇、全身に返り血を浴びたかのような“赤い女”、そして、どこにも映っていない赤ん坊の鳴き声が収められていた。工藤はディレクター・市川(久保山智夏)とカメラマン・田代(白石晃士)と共に真相に迫ろうとするが……。

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●誰も見たことのない世界を描いた、伝説のフェイクドキュメンタリーシリーズ

――『コワすぎ!』シリーズがAmazon Prime Videoの見放題配信で始まり、X(旧Twitter)のトレンドに上がりました。今なお、熱狂が続くこのシリーズの何が人々を引きつけていると思いますか?

白石 あの頃は、心霊ドキュメンタリーシリーズがたくさんあったんです。その中で、観ればフィクションだとわかる、ほぼフィクションだとうたわれた上で作っているような、フェイクドキュメンタリーのスタイルで、かつキャストがキャラ立ちし、怪異にビビるばかりではなく、立ち向かっていく。しかも、暴力も辞さない、ちょっとダーティな。そのキャラクターを追って、フェイクドキュメンタリーのシリーズを観ていくというのが、総合的に見た場合、日本には今までになかった。そこがまずはウケただろうなと。それと、工藤っていう暴力オヤジのキャラクターが人々に気に入られた。イヤな人、ひどい人が作品の主人公になることは日本の業界の中では良しとされなかった。その中で目立つことができたし、自分はそういうのが面白いと思ったからやったんですけど、その面白さが受け入れられました。

――キャラ立ちは重要な要素ですよね。現在公開中の『ヴァチカンのエクソシスト』に出てくる、豪快な神父のキャラクターが日本でウケているのも、『コワすぎ!』の工藤がその土壌を醸成した気がします。

白石 そこまではないと思うんですけど(笑)。普通のお客さんが受け入れるんだよ、というのがわかったっていうことだと思いますけどね、大きく公開されている作品でも。あと、日本のホラーの中であんまり大体的には受け入れられていないクトゥルー的な世界観と言いますか、幽霊ものではなくて、クトゥルー的な得体の知れない異世界のものと対峙していくっていうスタイルもたぶん、面白かったんじゃないかな。それから、皆さんの想像を常に超えたかった。一作ごとにジャンルを更新するというか、それはもう実験だったんですけど、密かにやっていました。こういう世界だと思っていて、FILE-02を観たら違う世界だった! でも、FILE-03を観たら、あれ? もうちょっと違う世界だった。FILE-04を観たら、ええ!? こういう世界なの!? みたいな。どんどん世界観が更新されていくというのがやりたくて。江川達也さんの漫画『BE FREE!』のように話が違う形に、ジャンルがスライドしていく、ああいうのが好きなので。キャラクター性と、クトゥルー的な世界観と、手法の実験性が受け入れられたんじゃないかなと思います。

●時を経た、シリーズものの難しさ。ヒントになったのは、あの伝説のドラマだった

――過去作からのファンにとっては待望の新作です。ファンへのサービスが求められるところもあるでしょうし、同時に今回で初めて『コワすぎ!』に触れる方もいらっしゃると思います。そのバランスで気をつけた点はございますか?

白石 まったく新しい作品にするくらいの気持ちで、一見さんが観て楽しめる内容にするっていうのが、基本でしたね。どうしても、コアなファンの方たちはオタク的な楽しみ方をして、内々で盛り上がる感じで、過去にあったこれだ! みたいに見つけることが楽しみになりすぎていて。そういうところは基本的にあんまり視野には入れてないんです。そこは切り捨てるくらいの気持ちで。とにかく、新しい人に『コワすぎ!』の世界を楽しんでほしいという思いで最初から作りました。その中で、自然に過去の『コワすぎ!』とつながってしまうところとか、感じさせてしまうところは出てくる。過去作品を観てる人はそういう部分で楽しみ、初めての人には普通に新しい作品として楽しんでもらえるんじゃないかなと。そのあたりのバランスよりは、8年間を経てるので、もう一回作るにあたり、どうするかというのを考えるときに、めちゃめちゃ苦労しましたね。

――これまでのストーリーや設定との整合性を考えたり、過去作のキャラクターを出していこうとすると、いろいろ難しいですよね。近年、『星の王子ニューヨークへ行く2』や『ゴーストバスターズ/アフターライフ』、『トップガン マーヴェリック』など、長い時を経た続編が多く公開されています。高評価を受けた作品もありますが、中には興行面、批評面で厳しい結果に終わったものもありました。

白石 デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』の新しいやつ(『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』)を観て、もう何やってもいいや! という勇気をもらいました。あと、作ってるときは知らなくて、まだ作品も観てないんですけど、『キングダム エクソダス<脱出>』のラース・フォン・トリアーのインタビューを見ると、やっぱり時間が経ってるから、過去作をそのまま続けるっていうのは難しいと。ある程度、新しい世界は見せなきゃいけないみたいな感じのことが書いてあって、すごく似てるなと思いました。まあ、『キングダム エクソダス<脱出>』は亡くなっている役者さんもいるので……。

●現在の日本で新たに『コワすぎ!』が作られることの意味

――『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ! FILE-02 暗黒奇譚!蛇女の怪』から8年の間に、様々なお仕事のご経験や、多くの人々との出会い、そして社会の変動があったと思います。それらが『コワすぎ!』に与えた影響はありますか?

白石 それはもちろん。特に『コワすぎ!』シリーズはオリジナルというのもあるし。パッと考えて、パッと作らなきゃいけない。やっぱり、そのときの時事性が、見えにくかったりもするんですけど、自分の中では出ていて。今回の『コワすぎ!』も、日本が終わりそうな感じと、性暴力的な問題に関するところっていうのがわりと大きくあるかな。話題にちょっと出てるだけですが、コロナの話も出てますし。あとは、女性がより強くなっていく世界というか、女性がちゃんと権力を持つ世界、そういうものが望ましいよね、みたいな気持ちも市川に託されていたり。自然と書いちゃったんですけど、日頃いろいろ考えてることが出た感じはしますね。

――2015年の『超コワすぎ!FILE-02』からあまり間を置かずに新作を出せていたよりも、8年を経て2023年の現在に新作を発表したことで、結果的によかったという思いはありますか?

白石 当時の『超コワすぎ! FILE-02』の続きは、性暴力の話になるはずでした。それを違う形で踏襲してるところはあるんです。当時だったら、もっとエグくて、グロい形の作品になってたんじゃないかな。そのままの続きをやれてたら、それはそれで面白いものができたとは思うんですけど、当時に描けなかった要素も今回、結局は描いてますね。ちょっと入ってきて、今やれることをやったっていう感じです。

●驚天動地の特撮シーンは今回もあるのか!?

――『コワすぎ!』シリーズは、特撮の部分でも限られた予算や日数の中で非常に野心的な試みが行われ、そういった優れた見せ方も多くのファンを獲得しています。今回も新しい挑戦はありましたか?

白石 新しいこと……そうですね、〇〇〇(筆者注:ネタバレ防止のため伏字)が出てきます。それを強引に成立させられるんだぞ、っていうところを見ていただけたら面白いんじゃないかな。フェイクドキュメンタリーですから、ああいう風に映っちゃったんです(笑)。

●フェイクドキュメンタリーへの変わらぬ思い

――POV(「Point Of View」の略で、主観映像のこと)という手法に関して、他の演出家の方々による映画やドラマなどでは、劇中においてカメラが撮影している体に限定しなかったり、そこにカメラがなくとも、見せ方のひとつとしてカメラ主観っぽい映像表現を取り入れているフェイクドキュメンタリー風の作品も見受けられます。白石監督は以前、ご著書の『フェイクドキュメンタリーの教科書』やトークイベントなどで、POVとフェイクドキュメンタリーは同じ意味ではない、フェイクドキュメンタリーはかくあるべし、というようなことを仰っていたかと思います。今でもフェイクドキュメンタリーへのこだわりや追及していきたい思いは強くありますか?

白石 あります。もう、そんなに新しい手法というのは、フェイクドキュメンタリーという意味では、無い気はするんですけど。まあ、組み合わせですかね。組み合わせでちょっと新しいものを、2年くらい先には、やろうとしてます。なんて言うんですかね、手法の意味を徹底した上で使ってほしいな、使ったほうがより効果的だけどなっていう風に思います。

【PROFILE】
白石晃士(しらいし・こうじ)

1973年生まれ、福岡県出身。『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』(03)で長編映画デビュー。2012年より開始したオリジナルビデオ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズで人気を集める。代表作に『貞子vs伽椰子』(16)、『地獄少女』(19)などがある。

【ライタープロフィール】
後藤健児(ごとう・けんじ)

映画ライター。書籍やWEB媒体での取材・記事執筆、パンフレットへの寄稿等。トークイベントや映画上映イベントの主催、司会も務める。VHS専門オンラインレンタル店「カセット館」の運営も行う。

【公開情報】

映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』は、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか、9月8日全国公開!

©2023「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」製作委員会

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