お酒博士・橋口孝司の酒千夜Vol.25
トリビア編:ボトラーズウイスキー(前編)


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■ボトラーズウイスキーとは?

ボトラーズウイスキーとは、インディペンデント・ボトラーズ(独立系瓶詰業者)が蒸溜所(又はブローカー)から原酒を買い取り、独自に瓶詰めして販売されたウイスキーのことです。

さらに広い意味では、【①オフィシャル=蒸溜所又は蒸溜所オーナーが公式に販売しているウイスキー】に対して【②ボトラーズ=オフィシャル以外(アンオフィシャル)のウイスキー】という意味で使われる事があります。

この場合は“ボトラーズ”という呼び方ではありますが、自社では“ボトリング=瓶詰め作業”は行わずに、ウイスキーのプロデュースのみを行っている事も多くあります。

ボトラーズの特長

オフィシャルとは異なった手法を用いることで、差別化した商品を作り上げています。
例えば、下記のような手法があります。

・自社(独自)の樽で熟成を行う。
・オフィシャルとは異なるタイプの樽でフィニッシュ(後熟)する。
・カスクストレングスで製品化する。
・異なる蒸溜所のウイスキーをブレンドする。 などなど

■ボトラーズウイスキーの歴史

ボトラーズウイスキーの始まりは、1800年代半ばのスコットランドで主流だったウイスキーの販売方法にあるといわれています。

当時は、ウイスキーを販売する店舗が蒸溜所から原酒を仕入れ、独自にブレンドしたものを店のオリジナルブランドのウイスキーとして売り出すという販売方法が広く行われていました。

1801年高級食料品店からスタートした「シーバスリーガル」、1827年小さな食料品店からスタートした「バランタイン」、1919年食料雑貨店としてスタートした「ジョニーウォーカー」といった有名スコッチウイスキーブランドも同じような手法の中から誕生しています。

“蒸溜所から原酒と仕入れて独自に販売する”というこれらのボトラーズの手法の始まりといえるでしょう。

その後、1960年代になってもモルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたブレンデッドウイスキーが主流でしたが、ゴードン&マクファイル社によって、蒸溜所から仕入れしたモルト原酒をそのまま「シングルモルト」として販売する、という方法も始まりました。

次第にシングルモルトウイスキーにも注目が集まるようになり、蒸溜所から発売される“オフィシャル”の商品が増えてきました。人気のある蒸溜所は、蒸溜所名のブランド力が強くなり、オフィシャル商品の人気が高まることで生産量を増やしたり様々なバリエーションのオフィシャル商品を展開するようになりました。

このような状況の中で、蒸溜所は原酒をボトラーズへ販売するよりもオフィシャル商品に使用することに重点を置くようになってきました。人気の高い蒸溜所ではボトラーズへの原酒供給を辞めたり、減らす傾向があるのです。その結果、蒸溜所からの原酒の供給が減ってしまい、ボトラーは商品を作る事が難しくなってしまいます。

こうした最近の傾向から、多くのボトラーでは本来のボトラーとしての商品作りよりも自身で蒸溜所を所有するようになっています。ボトラーの老舗であるゴードン&マクファイル社がボトラーとしての活動停止を発表するなど、今後のボトラー各社の動向は注目すべきでしょう。

■ボトラー紹介(前編:老舗&メジャー)

今や星の数ほどもあるウイスキーボトラーの中から、まず今回は前編として長い歴史があるメジャーな会社5つをご紹介します。

ウイスキー業界の中で、ボトラーという地位を確立していった会社です。またボトラーならではの新しい取り組みにも積極的に取り組んでいます。

●ゴードン&マクファイル社 Gordon&MacPhail

ゴードン&マクファイル(以下G&M社)は、1895年にスコットランド・スペイサイドのエルギン地区で高級食料品店として創業したインディペンデントボトラーのパイオニアといえる存在です。

出典:オフィシャルサイト

2018年からは5つのシリーズを販売しています。
・ DISCOVERY(ディスカバリー)
・ DISTILLERY LABEL(蒸溜所ラベル)
・ CONNOISSEURS CHOICE(コニサーズチョイス)
・ PRIVATE COLLECTION(プライベートコレクション)
・ GENERATIONS(ジェネレイションズ)

★最新情報

2023年7月、独立ボトラーとしてのニューメイクの買い付けを終了し、ストックのみを販売することを発表しました。今後は独立系ボトラーとしての活動を徐々に停止し、代わりにスペイサイドにある2カ所の自社蒸溜所(ベンロマック蒸溜所:1993年買収、ケアン蒸溜所:2022年オープン)に集中することを決定しました。

日本語サイト(ジャパンインポートシステム) 
オフィシャルサイト(英語) 

●ケイデンヘッド社 Cadenhead’s

1842年にスコットランドのアバディーンで創業しました。スコットランドで最古のインディペンデントボトラーで、ゴードン&マクファイル社と共にボトラー業界の2大巨頭といえるでしょう。

100年以上に渡り創業者の元で経営されていましたが、1972年からはスプリングバンク蒸溜所のオーナーのJ&Aミッチェル社の経営となり本拠地はキャンベルタウンに移しています。

出典:オフィシャルサイト

・オリジナルコレクション
・クローズドディスティラリーズ
・スモールバッチ カスクストレングス
・ケイデンヘッド クリエイションズ などのシリーズがあります。

日本語サイト(ウィスク・イー)
オフィシャルサイト(英語)

●シグナトリー社 Signatory

シグナトリー社は、1998年にスコットランド・エジンバラのサイミントン兄弟が設立したインディペンデントボトラーです。

出典:オフィシャルサイト

膨大なモルトウイスキーのストックを所有していることでも有名です。

2002年には、スコットランドでは一番小さい蒸溜所として知られる『エドラタワー』のオーナーとなりました。

2007年11月以降、ボトリングはエジンバラではなく全てエドラタワー蒸溜所で行われています。

・オリジナルコレクション
・アンチルフィルタードコレクション
・カスク・ストレングスコレクション
・レア・レゼルブコレクション  などのシリーズがあります。

日本語サイト(ボリニジャパン)
オフィシャルサイト(英語)

●ダンカンテイラー社 Duncan Taylor

1938年に設立されたダンカンテイラー社は、現在でもすべてを自社でボトリングしている数少ないボトラーのひとつです。現在はスコットランド・ハントリーにある本社でボトリングしています。

会社設立から80年以上たった今でも革新的でダイナミックなウイスキー会社のひとつとして世界的に認知され、ボトラーだけではなく、ウイスキー商、カスクブローカー、ブレンダーとしても活動し続けています。

出典:オフィシャルサイト

・ダイメンションズ:メインシリーズ。シングルカスク、カスクストレングス。
・オクタブ:詳細下記
・ブラックブル:ブレンデッドウイスキー などのシリーズがあります。

★「オクタブ」シリーズについて

ダンカンテイラー・オクタブシリーズはシェリー酒の空き樽を組み替えた容量50Lほどの小樽(オクタブ)で半年から1年ほど追加の熟成を行ったシリーズです。

2種の異なる樽で熟成することで、より複雑なフレーバーを持つウイスキーに仕上げています。

日本語サイト(ウィスク・イー)
オフィシャルサイト(英語)

●ベリーブラザーズ&ラッド社(BB&R社)

BB&R(ベリーブラザーズ&ラッド)社は、1698年創業のロンドンの老舗ワイン・スピリッツ商です。18世紀キングジョージ3世の時代から現在までロイヤルファミリーにワインを供給している名門中の名門で、ふたつのロイヤルワラントを授かっています。

300年以上経った現在もベリー家およびラッド家の子孫たちにより経営されており、英国最古のワイン&スピリッツ商としての伝統を引き継いでいます。

出典:オフィシャルサイト

ウイスキーでは、1923年に「カティーサーク」を誕生させた会社としても有名です。※ブランド権は2010年にエドリントングループに売却され、現在はバカルディ社が販売しています。

下記のクラシックシリーズの他に、蒸溜所名を冠したシングルモルトの商品も発売しています。

★「BB&Rクラシック」シリーズ

スコットランドのモルトウイスキーを語るうえで欠かせない「アイラ」、「スペイサイド」、「シェリーカスク」、「ピーテッド」の4種のスタイルのウイスキーにスポットを当てたブレンデッドモルトです。

日本語サイト
オフィシャルサイト(英語)

  • 株式会社ホスピタリティバンク代表取締役 ホテルバーテンダーから料飲支配人、新規ホテル開業準備室長、運営などをてがけ26年間ホテルに勤務。2008年より株式会社ホスピタリティバンク代表取締役に就任。バー開業コンサルティングなどを手がけ酒類関連団体の顧問、理事を歴任し国内外で講演、セミナーを行っている。ウイスキーバープロデュース・運営(2017-2019)を行う。 シャンパーニュ騎士団「シュバリエ」、ベルギービールプロフェッサー、日本伝統濁酒学博士などの称号を持つ。 2015年からは「橋口孝司 燻製料理とお酒の教室」にてセミナーの開催や、ウイスキーを愉しむイベント「ザ・シークレットバー」も銀座と西麻布にて定期的に開催している。 「ディスティラリーパッケージ1992」を皮切りに、「ウイスキーの教科書」「カクテル&スピリッツの教科書」「本格焼酎名酒事典」「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」などを執筆、「世界のウイスキー図鑑」「世界のベストウイスキー」「ハリウッドカクテル日本語版」などを監修。ウイスキー、カクテル、スピリッツを中心に酒類に関する執筆・監修は26冊以上。 Webでは、「たべぷろ」にて執筆(https://tabepro.jp/author/hashiguchi) 「江崎グリコ お酒の話」を監修(https://jp.glico.com/osake/index.html)
  • https://www.hospitality-bank.com/

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