衝撃的なニュースが流れました。
陸上自衛隊が配備する汎用4輪駆動車である「高機動車」が、ロシアに流出しており、ロシア軍が使っているのではないかという疑惑を報じたものです。
日本政府はウクライナ支持であり、金銭的支援に留まらず、自衛隊が使用しているドローンや防弾チョッキ、そして車両等を供与している立場です。その車両の中には約100両の高機動車も含まれています。もし噂が本当であるとするならば、戦争しているウクライナとロシアの双方で高機動車が使われていることになります。
基本的に日本は武器の輸出ができません。それは日本政府が打ち出した「武器輸出三原則」という指針によってしっかりと示されていました。しかし、それでは、国際的な競争力を身に着かず、よりよい装備品を生み出すことが出来ません。
また自衛隊のみの狭いマーケットしかなければ、日本国内の防衛産業が衰退してしまう可能性もあります。
そこで、条件付きで輸出できるように、「武器輸出三原則」は、2014年に「防衛装備移転三原則」へと改められました。
しかしながら、この新しい「防衛装備移転三原則」においても、武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し、または回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国への輸出は行えません。要するにロシアに高機動車を送ることなどできるはずはないのです。
では、ロシアに渡った高機動車はどこから来たのか。
その話を進めていく前に、高機動車について解説しておきましょう。開発したのはトヨタ自動車です。そして日野自動車が製造を請け負っています。1995年頃より配備が開始されました。人員輸送用からミサイルの移動式発射台、レーダー装置等を搭載した屋外通信拠点など、さまざまな使われ方をしています。
トヨタ自動車は、自衛隊向けに生産をしていく一方で、「メガクルーザー」という民生版も作りました。こちらは2001年には生産が中止されてしまいますが、約100両が販売されました。
では、「そのメガクルーザーが流出したのでは?」とも考えられますが、ロシア側から流れている映像を確認すると、どう見ても自衛隊仕様の高機動車としか思えません。
幌のありなしの比較。後部キャビン部分に乗り込むには後部ドアを使用する。
……実は、抜け道はあるのです。
自衛隊が使用している装備品も老朽化によりいつか引退の日が来ます。もう使えなくなった装備品は「用途廃棄」されます。これを略して「用廃」と呼びます。
日本の場合、気安く中古品として海外に輸出することが出来ない以上、ほとんどすべての装備品が「用廃」となり、鉄くずとして払い下げられます。その際、二度と使えないように、車両であれば、いくつかに切断されます。
この「スクラップ」となった高機動車のパーツが、今回の問題を引き起こしたのです。
バラバラにされた高機動車のパーツは、鉄くずとして海外に買い取られていきます。それを接合し、再び高機動車として再生されているのです。
フィリピンでは、高機動車だけでなく、73式大型トラック等も再生され、中古車として販売されています。ネットでちょっと調べると、再生自衛隊車両の情報は簡単に入手できます。今回ロシアに渡ったのはタイの業者が再生したものと言われています。その中には、そもそも解体すらされていない車両もあったとか……。
いずれにせよ、再生自衛隊車両はさほど隠されることなく、世界に流出している事実があるのです。日本の軍用車両愛好家たちの多くもこの事実を知っています。その話が防衛省自衛隊の耳に届いてないとはにわかには信じられません。きっと無視してきたのでしょう。そのツケが回ってきてしまったようです。
さすがにロシアが戦争で使うとなると話は別。もう黙ってはいられないという事なのでしょう。
木原防衛大臣は、9月19日に行われた記者会見において、すでに4月から実態調査をしており、「できるだけ速やかに結果と新たな転売防止の強化策を取りまとめる」と発言しました。
今しばらくこの高機動車流出問題は尾を引きそうです。