違いのわかるオトナのためのクルマ
某コーヒーメーカーのCF「違いのわかる男」が昔流行ったが、違いのわかる男が似合いまくるオトナのクルマがある。それはある種、趣味を極めた好事家向けと言ってもいいくらいのクルマといえば、マセラティしかない。
そしてマセラティは日本では「通」の為のクルマというポジションに位置する。「通」という言葉だけでは薄っぺらいので、ここではハードボイルド小説や「三国志」で有名であり、自身も数台のマセラティを乗り継いで来られた作家の北方謙三先生の言葉を拝借。先生曰くマセラティは「イタリアの天才を味わうディレッタント(芸術愛好家)のためのクルマ」という。まさにその通り! 言い得て妙。
そして似非ゲージュツ愛好家の筆者が今回乗り出したのはブランドのエントリーモデルを担うSUV、グレカーレ。グレードはGT。車名の由来は「地中海に吹く北東の風」という。そういえばマセラティは2012年には大西洋横断の世界最速記録の更新を筆頭に、2019年にはマルチハル艇(3つの艇体を持つヨット)で新記録を樹立して優勝するなど積極的にヨットレースにも関わっている。
ルーツはレーシングコンストラクター
マセラティはイタリアの自動車メーカーで1914年創業。そのブランド名は創業者のマセラティ兄弟に由来する。自動車工房からスタートするが、ジツはレーシングカーしか作っていなかった生粋のレーシングコンストラクターであった。
当時、最も過酷な公道レースとしてシチリア島が舞台の「タルガ・フローリオ」ではマセラティ6CM(車名)が1937年から4年連続で優勝するなど輝かしい成績を収めている。その実力はアルファロメオやブガッティを凌ぐといえばわかりやすいかと思う。市販車に事業を乗り出したのは第二次世界大戦後からだ。それ以降は高級スポーツカーメーカーとして市場に名を馳せている。
美しい筋肉質
話は2023年に戻ってグレカーレだ。同車は2022年にデビューし、ブランドとしてはレヴァンテに続く2モデル目のSUVになる。試乗車のボディカラーはオプション設定のブロンゾ・オパーコという「つや消し」のボディカラーで、これがまた似合いまくる。
何よりもクルマの美しいボディラインを強調している感じだ。筋肉質の中にも柔らかい曲線を感じさせるシルエットはやはりイタリアの粋なのだろう。それはドアを開けても同じ。色気に溢れている。
昔(といっても90年代だが)のカクテル3杯並に効くギブリの内装よりはモダンになっているが、色気は他のどのメーカーよりも濃い。これまた北方先生の言葉だが「マセラティは何度も親会社をかえたいわば没落貴族。その貴族の矜持を見せるのはインテリアやスタイリングしかない」という。うーん。的確すぎる。
色気のあるモダンインテリア
そしてマセラティといえばインパネセンターの円時計。これはグレカーレも受け継いでいる。昔の金時計と違うが、今のご時世に沿ったモノで、表示の違う2種類の時計からコンパス、スロットルオンオフなどデジタル化。
これが「なんだよ〜前と違うのか」と思うなかれインパネの雰囲気に違和感どころか、ジャストフィットなのだ。格段に現代風になったのは上下2段に別れたセンターディスプレイ。上の段はナビから車両情報まで確認でき、下のそれはエアコンなどの操作用になっている。そして上下のディスプレイに挟まれるカタチでシフト操作のボタンが並ぶ。これがオシャレなのだ。
格別な毎日を過ごせるクルマ
現在グレカーレのグレードは3つ。2リッターエンジンのGT、GTと同じ排気量ながらも出力の違うモデナ。これらはいずれもマイルドハイブリッド仕様になる。そして最高のパフォーマンスを披露するトロフェオ。こちらは3リッターV6ツインターボエンジンで530PSを誇る。試乗車はエントリーグレードを担うGT。エントリーグレードというが、モデナのアウトドアスポーツ調と違い、都会的な雰囲気を持つ。いわばベクトルが違うのだ。
ステアリングに設置されたエンジンスターターを押す。2リッター直4エンジンはなんの構えもなしにアイドリングしてくれる。搭載される2リッター直4ターボエンジンのスペックは300PS、450Nm。またこのユニットには「e-booster(以下eブースター)」が使われ、マイルドハイブリッドの電力を使ってモーターでタービンに直接風を送る技術が採用されている。
いくら最近の技術とはいえ、このボディで2リッターは少し役不足か、と思っていたのだが出だしから超絶パワフル。しかも低回転をキープしてもぐんぐん加速していく。筆者、一瞬スポーツモードにしてしまったかと思ったが、ドライブモードはデフォルトのGTモード。ありきたりな表現で恐縮だがホントに2リッターですかい!? と思うこと間違いない。
これが5500rpmのレッドゾーンまで右足次第では一気呵成にまわり、回転の上昇とともに体がシートに吸い込まれる感覚に。と書くと余裕がありそうだが超絶な加速をしてくれる。
昔のギブリやクワトロポルテを知っている方からするとパワー(感)の盛り上がりにちょっとだけかける実用的エンジンと感じてしまうかもしれない。筆者、実用的と表現したがそれは昔のギブリと比較した時で、十分回転には色気がある官能的なユニットではある。室内にこもらせるエンジンサウンドしかり。
クネッタ道でも速さのフィーリングは変わらずSUVながらも一級のスポーツカーなのだ。ただ試乗車には車高調整可能なエアサスペンション、可変ダンパー、LSDのセットオプションが組み込まれていた。
ジツはグレカーレには「フォーリセリエ」というビスポークプログラムが用意される。これは超高級車によくある自分だけの一台を作り上げることができるシステムで、試乗車は上記オプションを含めて約380万円相当のモノがチョイスされていた。
どんなコンディションでも「使える」工芸品
試乗車を返却する日はあいにくの雨。90年代から2000年代初頭のマセラティを知るユーザーには3速でもホイールスピンしたり、直線でキックダウンしたらトラクションコントロールが介入して加速してくれなかったりと、マセラティ乗りが条件反射的に構えてしまうコンディションなのだが、グレカーレは終始安定していたこともご報告。
後輪駆動が基本の4WDということを差し引いても雨天時にもかかわらず終始リラックスして運転できた。いわゆる「動的」質感もライバルたちに比べて遜色なく、もれなく実用的なのに色気もついてくる。試しに後席に座ってみたら、驚異的に広かった。マセラティが実用的なのである!
またSUVとしても魅力。未舗装路走行も視野に入っていて、ディズプレイではクルマの傾きが確認可能。それだけでなく取説によると渡河水深50cmまで対応という。合理性ばかりではツマラナイ世の中になってしまうけれど、グレカーレの提案する合理性は色気に溢れているのだ。
マセラティグレカーレGT
価格 | 価格922万円から |
全長×全幅×全高 | 4845×1950×1670(mm) |
エンジン | 1995cc直列4気筒ターボ |
最高出力 | 300PS/5750rpm |
最大トルク | 450Nm/2000rpm |