『ウルトラマンブレーザー』ファンの間で今密かな楽しみとなっているのが、俳優・佐野史郎氏がSNSに投稿する感想の数々。そんな『ブレーザー』の熱いウォッチャーである佐野氏と、メイン監督を務める田口清隆氏の世紀の対談が実現! WEBでは、完全版として前後編で対談の全容を公開します。
聞き手・文:タカハシヒョウリ
『ウルトラマンブレーザー』とは?
世界的な怪獣災害に対処する特殊怪獣対応分遣隊スカード(SKaRD)の面々と、その隊長でウルトラマンブレーザーに変身するヒルマ ゲントの物語。リアルなミリタリー描写とドラマ、そしてウルトラマンブレーザーの謎めいたキャラクターで注目を集めている。テレビ東京系で毎週土曜日朝9時放送中。YouTubeで見逃し配信も無料視聴可能。
コロナ禍で、ウルトラの原点に回帰
田口清隆監督(以下、田口) 直接お会いするのって、『ウルトラマンオーブ』に出演していただいて以来になっちゃいますかね。
佐野史郎さん(以下、佐野) あぁそっか、7年ぶりかもしれないね。なんだか、そんな感じはしないけど。
田口 そうなんですよ、不思議とそんな感じがしませんね。それこそSNSのメッセージなんかで時々やり取りさせてもらっているのもありますし。
――佐野さんが毎週SNSに投稿なさっている『ブレーザー』の感想はファンの間でも話題です。
佐野 ありがたいです。でも正直なところ、ちょっとやっぱりうるさいですよね(笑)。
田口 いやいやいや!もうスタッフみんな読んでます。
――今日は、佐野さんから田口監督に聞きたいこともたくさんあるんじゃないかと思うのですが。
佐野 今回の対談のお話は、桜井浩子さんからご連絡をいただきました。先日、毒蝮三太夫さんからお誘いいただいて、古谷敏さんのコンサートに伺ったんです。森次晃嗣さんやひし美ゆり子さんもいらっしゃって。その時に円谷プロの皆さんに思いの丈を語っちゃったら、止められらなくて(笑)。
それが伝わった感じですかね。いや、聞きたいことがあるのは事実なんですよ。これどういうこと? どうなってんだろう? って、ファンとしては気になることだらけで。あとは、監督と一緒にやったこともあるので、おそらく現場ではこうだったっていうのもなんとなくわかりますし。
――『ブレーザー』のお話に入る前に、佐野さんはコロナ禍の中でウルトラマンシリーズを『ウルトラQ』から順番に見直したというお話をインタビューで拝見したのですが、このタイミングでシリーズを改めて見てみようというのはどのような心境だったのでしょうか?
佐野 もう本当に、世の中止まっちゃったじゃないですか。僕もドラマの撮影途中で緊急事態宣言になって、1ヶ月は家から出ちゃいけないっていうわけだから。じゃあ、こんな時間ある時だからこそ、やれることってなんだろうって。それで、ウルトラマンシリーズをもう1回見直してみようと。
東宝の特撮映画も90年代に全て見直す機会があったんですけど、ウルトラマンシリーズはやっぱり膨大な量があるから。それに、自分も『ウルトラマンマックス』のナレーションをやったり、『ウルトラQ dark fantasy』に出演したり、時折お仕事していたのでファンとして見るというわけでもなかった。
じゃあこの機会にと思って『ウルトラQ』から見始めたのは、本当に好きなものというか……原点。そんなに意識的じゃなかったけど、原点回帰だったと思うんですよ。そうやって『Q』『マン』『セブン』『帰ってきたウルトラマン』『ティガ』と見ているうちに、ちょうど『ウルトラマンZ』が始まった。
田口監督とは『長髪大怪獣ゲハラ』(2009年にNHKで放送された短編特撮映画)で、最初にご一緒してからのお付き合いなんですけど、ファンとしてもやっぱり田口清隆作品っていうのは気になるんですよ。
田口 ありがとうございます。
佐野 『Z』は、いきなりゴメスとか出てくるから、僕らの世代は大喜びですよね。またこれが見られる! っていう喜び。あとは、ウルトラマンの背景みたいなこと。『ティガ』には、クトゥルフ神話やバラージの青い石とも通じるような神話の世界があったけど、その後、どんどん宇宙的になっていったじゃないですか。
『Q』や『マン』の世界が本来持ってた土着的なものからどんどん広がっていって、それはそれで良いんですけど、『Z』でいきなりバン! と地面に叩きつけられたような感じ。興奮しましたね。だから、緊急事態宣言で『Q』から見直したっていうのと、そのタイミングで『Z』が始まったっていうので、化学反応が起きたんですね。あれがバラバラだったら、今みたいに見続けてたかどうかわかんないんですよ。
それで、Twitter(現X)があったからね。『Z』の時も全話感想を呟いて。感想を書くのも、続けるつもりはなかったんですよ(笑)。最初はちょっと「ご無沙汰してます」ぐらいのつもりだったんですけど、本当に止まらなくなって。
『Z』を見終わって、『トリガー』が来て、『デッカー』が来て、期待を裏切らない。もうなんだなんだ!?ってところで、今回の『ブレーザー』の予告を見た時に、ちょっと不安がよぎったんですよ。
現実とリンクする「フィクションの役割」
佐野 コロナは落ち着き始めたけど、ウクライナの戦争が起きて、そういう世の中の流れの中で、SKaRDが「守る」に特化したっていうメッセージがすごく強く予告編に出てたので、ちょっとこの空気に乗じてどこまで行っちゃうの!? みたいな風に思ったんです。それは、大変申し訳なかったです。
田口 佐野さんが不安に思う部分があるという投稿を見て、僕も「そんなことないですよ!」と返信しようかとも思ったんです。もちろん僕らも、やっぱりコロナと戦争は「それもあるけど、こっちはこっちじゃん」とは出来ないな、というのは強く思ってました。
今回のシリーズ構成を一緒にやってる小柳啓伍さんも軍事系に詳しい方なんで、もともとハードなミリタリーをやろうというのは言っていたんですけど、そういうものが好きなだけに、なおさら何を描こうかっていうのはかなり考えました。
本当の戦争なんて誰も見たくないですよね。それで今回、地球の言葉を喋る宇宙人が侵略者として出てくるのではなくて、あくまで人間同士がちゃんとしてないから戦争って起きるんでしょ、っていうのをテーマにしてみようかと。
「今回はコミュニケーションをテーマにします」っていうのは、最初に宣言したんですけど。もう本当に大きいところで言えば戦争だし、小さいところだったら家庭のイザコザであるとか、友達の喧嘩から始まって、全てはコミュニケーションのズレで起きるっていうのを今やったら、何かを描けるんじゃないかって。
佐野 パンデミックが落ち着いてきたところに戦争。見てる方もリンクするし、やっぱりフィクションとしてだけでは見られないもんね。それは、1966年に見ていた『Q』や『マン』の時も、高度経済成長期、東京オリンピックの直後で、公害でしょ、そしてベトナム戦争が始まって、やっぱり小学生でもわかるくらい本当にひしひしと感じてましたからね。
学校の教育実習の先生が、佐世保に核を積んだ空母が入港して来るっていうんで、教壇を降りてデモに行ったりするわけです。それで『セブン』を見てるわけですから、宇宙人と戦ってることもリアルなんだよね。その生々しさみたいなものが、『Z』以降のシリーズにもあって。
ズンズン来るので、それはもう黙ってられない。これはもう、表現一般に言えることなんですけどね。やっぱり現実とフィクションは別だって思いたい人もいると思うんです。表現する側も観客もね、現実は辛いけど、フィクションの中で幸せな世界を描いてくれて救われるっていう、そういう芸能のあり方ももちろんあるんだけど、でもそれは現実に蓋をしてしまうってことと紙一重なんです。
フィクションを作ろうが何をしようが、どうやったって現実に生きてるんだから、現実の身体でもってフィクションを生きるわけだからね。無関係でいられるわけがない。もうひとつの世界で真剣に生きる。で、見る方も真剣に見てる。現実と言われてるこの世界とウルトラマンの世界、両方を一生懸命生きる。
フィクションの世界では、どんなに戦争が起きても、画面のこちら側で命を落とすことはない。でも、それと同じことをやれば、現実ではこうなるよってことは学ぶことができますよね。そういう大きな役割が、フィクションにはあると思うんです。
却って、ウルトラマンや怪獣とか、本来いるわけないじゃんというものがいるという、思いっきりフィクションの世界の方が、――真実を伝えられるんじゃないかなというか。
だから、具体的に言うと、宗教の問題にしても、差別の問題にしても、戦争の問題にしても、これは現実ですって設定では地上波で流せないことがあるかもしれないわけですよ。でもフィクションの中ではやれるわけじゃないですか。そこがやっぱり素晴らしい。
田口 今、佐野さんがおっしゃったことっていうのは、やっぱり意識してます。怪獣がいて、50メートルの宇宙人が戦っているっていうのは、まさに圧倒的なフィクションじゃないですか。だからこそ、その裏にすごいメッセージだったり、社会風刺を仕込んでても、バレないっていうか。
佐野 バレバレだけどね(笑)。でも、それは明らかな嘘だから、不思議と大丈夫なんだよね。子供の頃に熱中した『ゴジラ』以降の特撮映画、『ガス人間第一号』にしても『電送人間』にしても、全部に戦争のことが入ってる。
戦後のGHQの監視下から開放された東宝の中で、田中友幸プロデューサーは特撮を通して表現してたんだ。うん、本当に間違いないと思う。幼い頃から見て育った僕らには、それが伝わった。特撮は子供向けとかって言うけど、そういうもの中にこそ、学校が教育で隠してきたことの何もかもが込められていて、そこから学んだことの方がはるかに大きい。
それがだんだんバブルの時代になって、経済に翻弄されて、そういった魂が拡散しそうになった時も、コロナや戦争って有事を目の当たりにすると、またこうして戻ってくる。解決方法を一緒に考える問題提起を、ウルトラの世界だと可能にしてくれる。それがワンシーズンだけじゃなくて、畳み込むようにこの3、4年続いてるのが、本当に見ていて感動と感謝ですね。
『ウルトラマン』を再構成する『ブレーザー』の挑戦
――ブレーザーを見てると、『ウルトラマン』のウルトラマンらしさの原点を再確認しようというテーマが感じられます。
田口 明確にそれはありますね。自分の中で『ウルトラマン』の構成要素を、ハードSFとして組み直してみたらどうなるか考えました。『シン・ウルトラマン』の削ぎ落とされたデザインがある一方で、生き物としてウルトラマンを考えたらどうか。
公式設定では無いんですけど、元の星で彼が何をしていたか考えると、ハンターとして戦っていたんじゃないか。じゃあ多分これ(顔のクリスタル)はやられた痕で、この模様もトライバルタトゥー(※ポリネシア地域などで部族に継承される伝統的紋様のタトゥー)や撃墜マークなんじゃないかと。それも地球の文化でやってるわけじゃない。それこそ、戦いの時にとる謎の舞いみたいなポーズにしても……。
佐野 あ! ちなみに、あれは何の型ですか?
田口 あれは、実は特撮のクランクインの直前に、ふとブレーザー独特のポーズが欲しいって思ったんです。それで、殺陣師とスーツアクターのふたりが談笑しているところに行って、ブレーザーと言えばこれ、みたいなポーズを作りませんか? と言って。
殺陣師の寺井大介さんが、戦いの前に蹲踞(そんきょ)みたいな儀式的なポーズを取るっていうのを前から考えてたらしいんですね。それが頭にあったけど、ウルトラマンにやらせるのはどうなんだろうと思っていたっていう話が出て。で、それを聞いたスーツアクターの岩田栄慶くんが、こんな感じですかねって、あのポーズをとったんですよ。
佐野 あぁ、現場で!?
田口 そういう意味では、ムエタイっぽいっていうのもよく言われるんですけど、とにかく地球の文化ではないから、どれでも無い型にしようとは言ってたんですよ。だから、スーツアクターの岩田くんも、あんまりこうだって考えずに降りてきたのがあのポーズだったって言ってるんですけど。
佐野 あぁ、やっぱり「神がかって」いるんだね。2話のゲードスの回が、ちょうど福島原発の汚染水を流すっていうタイミングで放送されたじゃないですか。キャスティングも含めて、まさに神がかってるというかね。何か導きみたいなものがある作品なのかもしれない。
集団無意識みたいなこと、僕らが意識できないエネルギーはやっぱり本当にあるんだと思いますよ。別にスピリチュアルなことを言ってるわけじゃなくて、本当にあるんだと思う。そういうことを一番聞きたかった。これ、どのくらい意識的にやってるんだろうって。
――あくまでポーズの解釈も公式設定にしていないですし、『ブレーザー』の解釈は視聴者に委ねようという意図があるのでしょうか?
田口 今回の『ブレーザー』は、M78とも隔絶された未知のユニバースのウルトラマンなので、地球の文化では説明できない、わからないことをあえて細かく公式設定にはしていないんです。
これまでだと「僕が言った事=設定」という風になるんだと思うんですけど、それは「私案=個人の説でしかない」っていう考え方に切り替えて、公式の設定にはしないっていうことを試みています。だから今、視聴者の皆さんが、あれなんだろう、これなんだろうって私案を考えているのを、僕らも「なるほど、そういう説があるのか」って面白く見てますね。
佐野 俺のなんだかわかんない長い感想にも、毎週ちゃんと返事してくださるウルトラマンファンの方がいるんです。ものすごい宇宙物理学に詳しい人とかいらっしゃって、「ブレーザーとは何か」って説明してくださったり。ブラックホールとか、フレアとか、難しいことはわからないんだけど(笑)。
田口 ちなみに「ブレーザー」などの宇宙用語は、JAXAの宇宙科学者の方とリモートで繋いでもらってちゃんと意見をもらってるんです。
――先ほどの「M78と分離された未知の存在」という部分は、イベントや展示でもうまく分離されていて徹底されていますね。
田口 実は、イベントや展示ではここまで徹底されると思ってなかったんです。むしろ、イベント側や展示側でこだわってくれた部分が大きいですね。
(後編につづく)
佐野史郎(さの・しろう)
1955年、島根県松江市出身。1975年、劇団「シェイクスピアシアター」に創設メンバーとして参加。唐十郎主宰の「状況劇場」を経て、1986年「夢みるように眠りたい」(林海象監督)で映画デビュー。田口清隆監督作品では『長髪大怪獣ゲハラ』『ウルトラマンオーブ』に出演。
田口清隆(たぐち・きよたか)
1980年、北海道室蘭市出身。2009年、『長髪大怪獣 ゲハラ』で商業監督デビュー。ウルトラマンシリーズには『ウルトラゾーン』で初参加。2014年の『ウルトラマンギンガS』以降全テレビシリーズに参加し、『X』『オーブ』『Z』『ブレーザー』ではメイン監督を務める。
取材・執筆
タカハシヒョウリ
ミュージシャン・作家。ロックバンド「オワリカラ」ボーカル・ギター、特撮リスペクトバンド「科楽特奏隊」ボーカル・ギター。音楽家として活動する傍ら、その様々な文化への偏愛と造詣からコラム寄稿や番組出演など多数。近年は円谷プロダクション公式メディアやイベントでも活躍。
公式Twitter https://twitter.com/TakahashiHyouri
【後編はコチラ】
Ⓒ円谷プロ Ⓒウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京