『ウルトラマンブレーザー』第9話「オトノホシ」で、57年ぶりに再登場を果たした人気怪獣ガラモン。また、それを操るセミ人間ことツクシ役を演じたのが雅楽師の東儀秀樹さんで、キャスティングもまた大きく注目を集めた。ツクシの同胞のチッチ役で出演したご子息・東儀典親さんと共に、『ウルトラQ』の思い出や「オトノホシ」出演に際しての様々なエピソードを語っていただいた。WEB版では、完全版として前後編で対談の全容を公開します。
取材・文/トヨタトモヒサ
「オトノホシ」あらすじ/室内楽のコンサートのチケットを受け取ったSKaRDのアンリ隊員。送り主は親交あるチェリストのツクシからであった。同じ頃、隕石からガラモンが出現。それを操る謎の怪音波、アンリの脳裏をよぎったものは……。
ウルトラマン ブレーザー「オトノホシ」より「チルソナイト創世紀」short version 東儀秀樹、東儀典親
(YouTubeチャンネル「東儀典親togi norichika」)
東儀秀樹さんと典親さんの演奏を聴きながら読むこともできます!
音楽は、言葉以上に人と人を繋ぐことができる。
――後編では、セミ人間役を演じる上でのお話をうかがえればと思います。
秀樹 僕が演じたツクシは、単なる悪役ではなく、音楽の魅力に憑りつかれてしまい、本来、侵略するはずだった地球と地球人の心に寄り添ってしまっている。台本を読んで、複雑な心境を抱えたとても難しい役柄だと思いました。でも、音楽家として思ったのは、音楽というのは、言葉以上に人と人を繋ぐことができるものだし、それに関しては、僕は誰よりも分かっているつもりです。もちろん、お芝居は、とても興味のある分野だし、後は、ツクシ役になり切れば大丈夫だと思い、撮影に臨みました。
――現場で越監督と役柄について話をする機会はありましたか?
秀樹 今までの経験だと、だいたい監督が、「このセリフはこういった感じ」とか「ここはこういった動きで」とニュアンスを教えてくれて、それを元に自分なりに演じる機会が多かったんです。ですから、現場に入って最初に越監督に「ここはどう動いたらいいですか?」と聞いたのですが、監督から「東儀さんの思うように動いてくださって構いません」と、いきなり放り出されてしまって(笑)。それで、とりあえずやってみて、ダメだったら直せばいいと思って演じたのですが、特にNGや指導を受けることなく、スムーズに撮影が進みました。監督は、僕の芝居はほとんど知らないはずなのに、ここまで信頼してくださって良いのかと思いつつ、自分なりにツクシ役に取り組んでいきました。
――今回、セミ人間が4人登場します。東儀さん、Shikinamiの堤博明さん(ヒグラシ カナデ役/cb)、白須今さんニイゼ ミチ役/vn)、そしてご子息の東儀典親さん(クロイワ チッチ役/pf)と、現場の雰囲気はいかがでしたか?
秀樹 息子は僕にとって当たり前によく分かっている人物だし、Shikinamiのふたりとも以心伝心で、特に気を遣うことなく、とてもやりやすい現場でした。
典親 音楽では、父と一緒に演奏活動をしていますが、何かを演じるという場は、とても新鮮でした。
秀樹 息子とはお互い言葉に出さずとも、何を考えているか分かるくらい仲がいいし、撮影前には録音したデモを聴きながら、ふたりで「いい曲ができたな」と話していたんです。それもあって実際の撮影期間は、とても楽しく過ごすことができましたね。
――典親さんの愛称は「ちっち」ですが、役名も「チッチ」でしたね。
典親 僕たちセミ人間は、名前と苗字がどちらもセミの名前由来なんですけど、チッチゼミというのも本当にいるんですよ(笑)。
秀樹 スタッフがセミの名前を調べていて、チッチゼミを見つけたときは、みんな盛り上がったんじゃないかな?(笑)。
典親 ちなみに、ツクシとアンリが出会う際に、ツクシが言う「セミプロっていうのかな」は、直前に僕が思い付いたアドリブを、父に言ってもらったんです。
秀樹 彼は、日頃からこうした言葉遊びが好きなんですよ。オンエア後にSNSを見たら、「後で分かった」「ニヤニヤした」とか反響があって有難かったですね。
音楽家でなくては出てこない芝居
――撮影の初日はどの場面からでしたか?
秀樹 回想シーンです。ちょうど現場にセミ人間もいて、普通にドラマ部分の撮影だったら、あまり感じなかったかもしれないけど、ああいうキャラクターがいる現場だったから、やっぱりガツンと来ましたね。
――『ブレーザー』のレギュラーキャストでは、アンリ役の内藤好美さんとの絡みが中心でしたね。
秀樹 とても気さくなお人柄でしたね。楽屋も一緒の大部屋で、初対面だったにも関わらず、和気藹々と話すことができて、とても和みました。撮影後には、SNSでメッセージを交わして、先日は越監督と一緒に、僕のライブにも足を運んでくれたんですよ。
――その内藤さん演じるアンリと対峙するクライマックスについて、さきほど音楽まわりをお聞きしましたが(前編参照)、演じる上では、どういったお気持ちで撮影に臨まれましたか?
秀樹 実際の現場でも音を出して弾いていて、そこに内藤さんが飛び込んでくるわけでしょう。その時点で彼女の涙腺が潤んでいて、本気の視線があったから、僕自身も頑張って気持ちを作るとかじゃなく、自然と役柄に入っていけました。
典親 僕たち4人は実際に音楽が好きだし、役柄としても、できれば楽器に触れていたいし、演奏も中断したくないんです。ステージで演奏しながら、そういったことを考えていました。
秀樹 最初にヴァイオリンの白須くん、コントラバスの堤くんのふたりが、アンリを阻止するため演奏を中断するでしょう。あそこは本当の音楽家でないと、ああいう楽器の置き方はしない。芝居を優先するなら、楽器を放り投げていたかもしれない。でも、そこに本質が出るものなんですよ。だから、実際に音楽をやっている僕らをキャスティングしたのはすごく良かったんじゃないかな。
典親 アンリさんが入ってきたことで、演奏を止めたくないけど、任務のためには止めなくちゃいけない……。
秀樹 そこも、ちっちが実際にピアノを弾ける人間だから、パッと演奏をやめるわけじゃなく、フレーズのキリがいいところまで演奏していて、しかも様子をうかがいながらも手が動いている。あれも音楽家じゃなきゃ出てこない芝居だと思う。
典親 撮影しながら、そのふたつの気持ちを感じていました。
秀樹 僕(ツクシ)がアンリに撃たれて、手がセミ人間になる場面も、まるで、自分自身の手のような感覚でステージ上にいました。
奥が深い物語で、誰もが感動できるエピソードとして鑑賞しました
――オンエアをご覧になっての感想も是非お聞かせください。
秀樹 率直に言って感動しました。出演できた感動はもちろん、傍から見ても奥が深い内容で、誰もが感動できるエピソードになっていたと思います。しかも宇宙人が本当の悪ではなく、心の移り変わりが描かれていて、SNSでも「ツクシのおじさん、どうしてるんだろう?」とか書かれているのを読むと、今も平和のために音楽をやってるよ、と、ついつい思ってしまう。それくらい、自分の心の中に残る作品でした。
典親 撮影したシーンも、たぶん全部使っていただけたと思います。
秀樹 この人もよく分かっているね(笑)。だいたいテレビの撮影は、たくさん撮っても実際に使われる場面って、けっこう短かったりするじゃないですか。撮影後に「どれだけ出ているんだろう?」と思っていたけど、カットされたシーンは僕が記憶する限りなかったですね。
――今回、セミ人間と共にガラモンも57年ぶりに復活を遂げました。
秀樹 ふたりとも『ウルトラQ』を何回も観てきているけど、車でも何でも「昔の魅力を踏襲しました」とニューアルされると、「なんで、こんな風に変えちゃうのよ」とガッカリするような製品が、世の中には溢れているんですよ(笑)。それは誰も望んでなくて、ガワは昔のまま、中身だけ新しくして欲しいんだけど、どうしても今生きている人が関わると、自分の何かを表現として入れてしまう。でも、「オトノホシ」では、僕が演じたセミ人間にしても、ガラモンにしても、色はモノクロからカラーになったけど、全く当時のまま登場していたでしょう。そこは正直、ホッとしましたね。
典親 ガラモンが歩くときのカシャンカシャンって、音も当時と全く一緒でした。
秀樹 彼はマニアックでしょ?(笑)。
典親 回想シーンに出て来た宇宙船も、当時と全く同じものが出てきて感激しました。
秀樹 特撮の現場を見学する機会はなかったので、オンエアが近付いて、情報が入って来るまでは「ガラモン、変わっちゃうのかな?」「変わらないで欲しいよね」と、ふたりで話していたんです。形も当時と一緒だし、手の動きはもちろん、活動停止した際に口から液体を垂れ流す描写まで再現していて。あれがまた面白くて、最近、寝る前に歯を磨くときによくマネをしているんですよ(笑)。
――劇中、4人が演奏する中、四季が移り変わって行く場面もとても印象的でした。
秀樹 あの映像がまた実に美しかったですね。ウルトラマンは子ども番組ではあるけど、あそこは誰が見ても美しさを感じてもらえる場面じゃないですか。芸術的にもとても高いものを目指してると感じましたよ。
典親 あそこは、曲と映像の合わさり方も良かったと思うんです。春から夏にかけては、それまでと同じ音程でメロディが続いていて、秋から冬になるところで、メロディが切ない雰囲気になり、同時に、ツクシの「しかし、時は来てしまった」のセリフが入って来るんですよね
秀樹 そういう運びが、監督の頭の中にきっと出来上がっていたんでしょうね。音楽を書いたのは自分だけど、そこまで綿密に擦り合わせたわけじゃないんですよ。越監督のいい意味でのアバウトな感覚と、僕の勝手な閃きが見事に一致したと思っています。
――「チルソナイト創世紀」は、現在、おふたりで演奏されたショートバージョンがYouTubeにアップされていますが、是非フルサイズも聴きたいです。
秀樹 SNSでも「配信やCD化の予定はないんですか?」と、多数の声をいただいています。息子とも作った時からふたりで毎晩のように演奏していたし、「アルバムに入れたいよね」「コンサートで取り上げたい」とか色々話しています。そこはこれからに向けて考えて行きたいと思っています。それこそ、円谷プロさんには、ウルトラマンのコンサートを企画して欲しいですね。そうなったら、僕らのことを呼ばないわけにはいかないでしょう(笑)。
子どもたちを夢中にさせるために決して妥協しない円谷プロの姿勢
――今一度、今回の出演を振り返ってのお気持ちをお聞かせください。
典親 第1話から毎週、『ブレーザー』を観て来ているんですけど、僕らが関わっているとかは関係なしにストーリーとして一番好きな回になりました。
秀樹 毎週放送されているから、視聴者の印象はどんどん新しい回に更新されていくものだけど、そんな中、今も“神回”との評判を聞く機会も多いですし、そういった反響の大きさを含めて、今回の経験は本当に何もかも驚きの連続でした。しかも、放送が第9話で、9月9日の9時から放送なんて、いくらなんでも出来過ぎでしょう(笑)。撮影自体はかなり先行していて、オンエアまでは大分時間があったけど、これは待たなくちゃなって気持ちにさせられましたよ。
典親 僕は一番好きな数字は「9」なんです(笑)。
秀樹 9は陰陽道で、整数の一番上に位置付けられていて、これ以上はないという完成度の高さを表した数字なんです。だから、音楽をやる上でも常に9を目指す、なんていう風に考えています。さらに9と9が重なると重陽と言って、一番エキサイティングな数字になる。それこそ、僕の車のナンバーには「99」が入っているくらいで(笑)。しかもエンディングロールには、僕がアレンジした『Q』のメインテーマまで流してくれて。なかなか憎いこと考えるなと思いましたよ。
――今年、60周年を迎える円谷プロについては、どのような思いを抱かれていますか?
典親 今みたいにCGがない時代から、様々な技術を駆使して映像を作り続け、それが今回の『ウルトラマンブレーザー』に引き継がれているのが、すごく嬉しかったですね。
秀樹 うん、『ブレーザー』でも、昔と同じような映像がたくさんあって、当時、観ていた僕としても、親近感が沸く部分もありました。
典親 僕が大人になる頃には、いったい、どんなシリーズになっているのか、本当に楽しみです。
秀樹 当時から現代に至るまで、子どもたちを夢中にさせてきたのは、決して妥協しないクオリティにあると思います。子どもこそ適当なものを見破る力があるし、きめ細やかに責任を持って作品に取り組む姿勢は他にない、円谷プロならではのものですよ。本当に特別な存在ですね。
(終わり)
東儀秀樹(とうぎ・ひでき)
東儀典親(とうぎ・のりちか)
1959年、奈良時代から続く楽家に生まれる。幼少期よりロック、クラシック、ジャズ等あらゆるジャンルの音楽を吸収し、宮内庁式部職楽部の楽生科で雅楽を学ぶ。1986~96年まで在籍した宮内庁学部では、主に篳篥(ひちりき)を担当。96年にアルバム『東儀秀樹』でデビューし、雅楽の持ち味を生かした独自の曲の創作活動を展開。なお、息子・典親は昭和好きで、『快獣ブースカ』の大ファン。近年は親子で共演する機会も多い。
取材・執筆
トヨタトモヒサ
フリーライター。WEBや雑誌、Blu-ray、CD、映画パンフなど、主に特撮界隈で活動中。趣味は日本人が手掛けたクラシック作品鑑賞と北海道旅行(魅力を伝える仕事がしたい)。解説書の取材・執筆・構成を担当した「ウルトラマンレグロス Blu-ray(&DVD)」が11月22日、「ウルトラマンブレーザー Blu-ray BOX I」(いずれもバンダイナムコフィルムワークス)が12月22日発売。また、取材を担当した「後藤正行 TSUBURAYA ARTWORKS -GENERATOR」(ホビージャパン)が11月30日発売。
【東儀秀樹さん&典親さんからお知らせ!】
12/11(月)
「雅楽 & Pops バラードな夕べ」 Jazz Restaurant Satin Dollに親子で出演します!
お問合せ:六本木サテンドール
住所:東京都港区六本木6丁目1−8 六本木グリーンビル 5F
電話:03-3401-3080
【前編はコチラ】
Ⓒ円谷プロ Ⓒウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京