往年の名車に由来
ポルシェといえばやはり911だが、いつの間にかSUVのカイエンやBEVのタイカンがファミリーに並び、どのモデルであってもスポーツイズムを感じられるスポーツカーの百貨店風になっている。
今回、とびきりのスポーツアイテムとして登場するのは718ケイマンの中でも最硬派のGT4 RS(以下RS)。RSはレンシュポルトの略でドイツ語のレーシングスポーツを意味する。そしてニュルブルクリンクのノルドシェラフでケイマンGT4のラップタイムを23秒! も短縮したブランド謹製の本気モデル。
試乗車には軽量化を主としたオプションのヴァイザッハパッケージが装着されその雰囲気をより高めている。ネーミングの由来となったヴァイザッハはポルシェの車両開発センターがある場所でレーシングカーから市販車まで開発され、ポルシェフリークの聖地のひとつともいわれる。AKBファンの秋葉原と同じようなモノと思えば大きな間違いはない。
初代ケイマンのデビューは2005年。型式で呼ぶならば初代は987型と呼ばれ 2代目は981型、そして現行モデルたる3代目は982型になる。3代目たる現行モデルの車名はケイマンの前に718が付き、718ケイマンに。まさに受験生泣かせのネーミングで、数字が多くて算数が苦手な筆者は混乱しそうであるが、ブランド謹製のスポーツモデルは疑うところはない。現行モデルの前に付く数字は1960年代にモータースポーツシーンで大活躍した718に由来する。
ポルシェを筆頭に純スポーツモデルの車名に用いられるGT3やGT4はレースのカテゴリーを表すモノ。GT4はGT3よりも改造範囲が小さくコストを抑えることができるカテゴリーで、本格的なレース参戦を考えるユーザーにとっては比較的敷居が低くなる。それゆえアマチュアドライバー向けとされるが、なかなかどうして。国際的なシリーズ戦も開催されるなど近年は大いに盛り上がっているクラスでもある。
また改造範囲が狭いということはベースモデルの素性が良くなければ勝つこともできない、とメーカー側には厳しいモノ。したがってGT4の4は4輪駆動の「4」ではない。クルマのイデタチから想像しそうだが違うのだ。
カッコよさは機能美
というわけでお勉強タイムは終了。RSは筆者のようなボンクラが見ても即座にカッコイイ! と思えるスタイリングはスポーツカー、いやレーシングカーのそれである。なお試乗車は上記のヴァイザッハパッケージを筆頭に総額800万円以上(!)のオプションが奢られていた。
フロント周りはエアダクトの穴が目立つ。フロントフードには2か所、フェンダーの上にまで設けられている。フロントフェンダー上のそれは熱の排気だけでなくダウンフォースすら発生する。すべては機能のため。そしてボンネットのありがたいブランドロゴはステッカーだ。
横に回るとサイドウィンドウ後ろのエアダクトがカッコ良すぎてクラっとする。通常モデルはサイドウィンドウ後ろが流麗なボディラインになるのだが、RSはエアダクトになっている。貪欲に空気を求めるところがタダモノではないオーラーに溢れている。
リアはリアでスワンネック式の固定ウィングが目を引く。GTレースで主流となりつつあるウィングの上面で固定するモノだ。このリアウィングは3段階、フロントディフューザーは4段階の調整が可能。70年代最強のスポーツカーの名高いカレラRSのダックテールといいポルシェは鳥好きなのかも知れぬ。リアガラスからは青いロールケージ(オプション)越しにGT4 RSのロゴが入るカーボンカバーで覆われたエンジン。これをカッコいいと言わず何と言おうか。
ヲタク系筆者の悲しき性、ついぞタイヤも確認。RSに装着されているのは、ムムムっ! ミシュランのパイロットスポーツCup2なり。このタイヤはミシュランが「公道も走れるサーキットタイヤ」というシロモノ。スポーツタイヤとは違うのだよ、というヤツだ。
そしてホイールはオプション設定の鍛造マグネシウムホイールが奢られている。余談だが、軽量高剛性のこの20インチの専用マグネシウムホイールは247万5000円なり。スーパーカーブーマーの筆者はこの手のクルマを見るとついぞクルマを一周したくなるのであった。
ありがたいエンジン
RSの最大の特長はエンジンにあると思う。大排気量大馬力のエンジンがヴォンヴォン回って、そのための冷却やらダウンフォースはいわば後付けの飾り。「エライ人にはそれが分からんのです」と言ってしまいそうな4リッターのNAユニットなのだ。しかもそれは911GT3と同じモノとくればコーフンせずにいらりょうか。その御神体をミッドシップに搭載、RSの最高出力は911のそれよりも10PS低い(と言っても)500PSを誇る。
718ケイマンの2リッターターボも素敵だし、そのスポーツ色を強めたGT4もエンジンが魅力。GT4のそれは911カレラ譲りのの4リッター水平対向6気筒エンジンを載せており、最高出力は420PS。このエンジンは乱暴な表現をすれば911のユニットからターボを取り払ったモノになる。
話はRSに戻る。搭載されるエンジンは重心をより低くするためオイルパンを独立させたドライサンプ式を採用し6つのスロットルバルブを備える。まんまレーシングカーと同じ発想なのだ。そのスペックは500PS/450Nm。このエンジンが9000rpmも回ってしまうからスゴイ。メーカー発表のパフォーマスは0-100km/h加速3.4秒、最高速315km/hという。
大根を買いに行けるレーシングカー
718ケイマンより30mm低くめられたRSに乗り込む。何とか座り込むとピタっ! とはまるフルバケットシートはリクライニング機能を持たない本格派。しかもヴァイザッハのテストコースをモチーフにしたロゴ入り。キーを差し込みエンジンを始動するとチタン製のテールパイプからも聞こえる幕府ご禁制のような音が気分を高揚させる。
室内には容赦なくメカニカルサウンドがこもる。そのれもそのはずで遮音がほぼないのだ。この辺りはエンジン始め、クルマのメカニカルノイズを「わざと」聴かせてくれるのだと思う。もちろんサーキットユースがメーンとなるクルマだからでもあるが。
ミラーを合わせるとミラー越しに映るリアウィングがクルマの性能をアピールする。シフトレバーをDに入れて発進。通常のATと違いクリープ現象がないのでアクセル操作が必要になるがすぐに慣れた。ミッションは1980年代のレースシーンを席巻した、956を母に持つセミATシステム、PDKを採用。ギアの段数は7速。GT4は6MTもあったがRSはPDKのみだ。
ポルシェは例えサーキットユースをメーンとしたモデルでも運転のしやすさという面の門戸は広い。限界域ではシビアなのだろうけれど動かすだけ、というならば乗りやすい。RSもしかり。
ふんわりとアクセルを踏んでいくと1速から2速へは2000rpm付近でシフトアップされるが、それ以降は約1800rpm付近でギアが変わる。50km/hではすでに6速に入っている。高速では7速2200rpm付近で約90km/h。その速度で巡航すれば燃費は11.3km/Lを記録。4リッター、500PSのエンジンが、である。ちなみに120km/hは約3200rpmでおさまる。2速の約8000rpmで100km/hだ。
乗り心地は路面状況が悪いと突き上げ感を強く感じる。けれど不快ではない。サーキットユースがメーンに作られたクルマと考えれば許容範囲だと思う。例えるなら懐の深いしなやかな固さといった感じだろうか。
またこの手のクルマのライバルはパトカーとお店の段差なのだが、オプションのフロントリフターが装着されていたのでガソリンスタンドへのアプローチも気をつかわずに済んだ。ここまで乗りやすいと近所への買い物にも行ける。
日本人ドライバートリオで初のルマン3位表彰台に輝いたこともある「日本一速い男」の星野一義選手は「レーシングカーって乗りやすいから速く走れるんだよ」と言っていたのを思い出した。クルマのトランクスペースは前後に用意され、2人で1泊2日なら十分以上に使える。なお試乗車のフロントスペースにはオプションの6点式ハーネスが収まっていた。
場所は変わってクネッタ道。ハンドリングは当然クイック。ボンクラな筆者が動かしてもその正確さがわかる。そして自分が拒絶しそうな異次元の旋回スピードを体験できたが、クルマの性能が高すぎて間違いなくサーキットで走った方が楽しいと思う。RS向けの取説にはサーキット走行の項目があるし。
筆者が唯一わかったのは今のご時世、激レアな大排気量NAエンジンを目一杯回すとあまりのレーシーさににやけてしまうことだ。しかも超絶なレスポンスを誇る。自分の感覚に直結したようなエンジンレスポンスはある種の麻薬と同一のモノで依存的常習的になりそうだから困る。つまりそれほど気持ちがイイ。公道ではオラオラと亭主関白を自称する旦那をうまく手の平で転がしてあげているよくできた女房のようなクルマだった。素直にコレ欲しいっす!!
ポルシェ 718ケイマンGT4 RS
価格 | 2024万円から |
全長×全幅×全高 | 4456×1822×1267(mm) |
エンジン | 3996cc水平対向6気筒 |
最高出力 | 500PS/8400rpm |
最大トルク | 450Nm/6750rpm |
ポルシェ
718ケイマンGHT4 RS
問 ポルシェコンタクト 0120-846-911