編集長も実感。いまシードルが面白い!


モノ・マガジンでは男の嗜好品としてお酒もよく取り上げる。話題の多くはビールやウイスキーのたぐいだが、昨今ではローアルコールも元気。そこで注目したいのが「シードル」だ。りんごの里の弘前ではナニヤラ「クラフトシードル」も生まれていると聞き、編集長(写真上)は一路、北へ飛んだ!

写真/青木健格(WPP) 文/モノ・マガジン編集部

ごろごろごろごろ!

大量のりんごがすべりおち、機械にのみこまれていく。ここは青森県弘前市、ニッカウヰスキー弘前工場。ウヰスキーとつくが、実のところウイスキーは作っていない。主力はりんごのお酒、シードルだ。

「ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝氏が縁あって1960年に朝日シードル社(朝日麦酒と日本酒造の提携会社)からシードル事業を引き継いだ、その施設が弘前工場です。これはアサヒの社員さんも意外とご存じないようで(笑)」と瀧瀬工場長。自慢の一品は「弘前 生シードル」だ。

ニッカ弘前生シードルの詳細は、コチラ

通年商品のスイート、ドライ、ロゼを軸に季節商品が逐次投入されるが、現在はつがる品種で作った「新酒」(アールヌーヴォーだ!)が店頭に並ぶ。今回これらを飲み比べるチャンスを得たが、うん、確かに違う。シードルっておもしろいのだ!

「生というのは生ビール同様、非熱処理に由来します。りんごの香りを最大限活かすことができる製法で、ニッカでは1985年から行っています。スイートとドライの製法上の違いは発酵期間で、短ければアルコール度数が低めで甘味や香りが強く残り、発酵を進めれば度数が高くスッキリした味わいになります。いま弘前ではクラフトシードルも多く登場して盛り上がりをみせているのですよ」(同・瀧瀬さん)。

ニッカウヰスキー弘前工場
ニッカウヰスキー弘前工場では搾汁工程の前に人手による検品を実施。キズやヨゴレなどを除去する。その作業は迅速でまさに職人技!

女性好み、甘いお酒といった印象のあるシードルだが、ノンノン! 物語性の高さや新世代生産者による個性派シードルの登場も相まって、モノマガ人にとっても注目すべきお酒となっているのだ。

今回の取材日に集合した弘前シードル協会の面々。世代も性別もさまざまなりんご好きが「自分流シードル」を世に問う! 話せば、お人柄と彼らの生み出すシードルの個性が合致していてとても面白い(笑)

ただし、課題もある。

シードル作りの大きな課題、それはりんご生産者の減少である。弘前のりんごは甘くおいしく、輸出品としても伸びがみられる。だが生産には工程や手間が多くかかり、敢えて家業を継がない/継がせないりんご農家も少なくないという。いまから10年以上前に家業にUターンし、りんご生産、次いでシードル製造も始めたkimoriの高橋哲史さん(弘前シードル協会会長)に伺った。

弘前クラフトシードル協会会長にしてkimoriシードルの高橋哲史さん。

「人口が減れば消費が減る、農家も減る、それでいいのか。弘前のりんご農家に生まれた自分に何ができるだろう。そこで帰農し、挑戦したのがシードル作りです。甘い、ハレの日向けという印象だけじゃないこだわりのお酒という提案を行っています。シードルのファンが増えて消費が伸びれば農家にとっても安定的な供給先となりますし、弘前観光の新たな魅力にもなるはずです」。

弘前市も「ひろさき援農プロジェクト」と銘打ってりんご収穫体験ボランティアツアーを実施するなど、コト重視時代らしい動きを見せている。’23 年は10~11月に5回開催されいずれも盛況。「就農に関心のある方はもちろん、大学生など若手にも響いた」と同市農林部の澁谷明伸課長も胸を張る。インバウンドの体験企画としても広まる可能性はある。

「ひろさき援農プロジェクト」を推進する弘前市農林部の澁谷課長。

今回は本誌にとってシードルの秘めたる実力・魅力、HOTな現状を知る取材機会となったが、「寒くなれば美味しいりんごが食べられる」という当然が当然でなくなる可能性があるのだとしたら……。

すべてはりんごがあってこそ。弘前のりんごに、シードルに大いに興味をもち、叱咤激励織り交ぜて、熱いエールを贈ろう!

お酒好きに響くシードルたくさんあります!

「代表的な弘前シードルってどんなものがあるの」というギモンにお答えすべく、今回の取材で知った逸品たちから一部を紹介しよう。ご当地の弘前で飲む・買うのがやっぱりイチバンだけど、ネットショッピングでも手軽に購入できる。ぜひお試しあれ!

(左から右へ/ラベルの見える6本)

・トキあっぷる社「津軽」地元出身の文豪太宰治の作品『津輕』に登場するリンゴ酒を再現したシードル。ALC.7%とややハード。

・もりやま園「テキカカシードル ドルゴ」。定番のテキカカシードルに姫リンゴのドルゴクラブ果汁をブレンド。ほんのりピンクで上品な酸味が加わった元気が出るシードル。

・タグボート「CRAZYCIDER DRY」キレとフルーティさが両立し、シードル=甘いお酒のイメージを覆すドラフトハードサイダー。

今回の取材でもお世話になった高橋哲史さん率いる弘前シードル工房kimoriの「kimoriシードルスイート」。弘大白神酵母を使用した無濾過・無加糖の農家のシードル。初めてのクラフトシードルにお勧め。

水も熱も糖分も加えないニッカの定番「ニッカ 弘前生シードル」。2023年9月にリニューアルを実施し従来製品より「弘前生まれ」を強調したパッケージが目印だ。スイート、ドライ、ロゼを展開。全国のコンビニスーパーで買えるので便利。

弘前シードルの購入は各メーカーのECサイトほか、弘前シードルをずらりと扱うヨリドリ・ミドリなど、ぜひ一度おとずれてみて下さい。

そして弘前に行ったら寄るべし!

そして弘前旅行の際にはぜひ訪れていただきたいのが、2020年開館の「弘前れんが倉庫美術館」。

(美術館内外。展示品)朝日シードル社が製造初期に使用していたフランス製のボトルと佐野繁次郎のイラスト入りオリジナルグラス。

1923年に日本酒工場として建造され、のち1954年からは日本初の本格的なシードル工場として、1960~1965年まではニッカウヰスキー弘前工場として操業といった歴史を経た100年建築。このいにしえの建築とアートを体験すると同時に、シードル関連の資料や弘前・東北地方の美術、文化を知る絶好の場所。併設のカフェ、グッズショップもとても美味しい&楽しいぞ!

Information
弘前れんが倉庫美術館

弘前市吉野町2-1/0172-32-8950/9~17時開館/火曜・年末年始休館
JR弘前駅より徒歩20分、ほか循環バスなど利用

「ひろさき援農プロジェクト」の収穫体験で、りんごの木を1本まるごと収穫したモノ・マガジン編集長・前田。こののち2本目の収穫にいどむ! 次回の「ひろさき援農プロジェクト」には皆さんもぜひ参加されてください。

(参考)「ひろさき援農プロジェクト」2023年度の開催概要はコチラ

  • 元・モノ・マガジン&モノ・マガジンWEB編集長。 1970年生まれ。日本おもちゃ大賞審査員。バイク遍歴とかオーディオ遍歴とか書いてくと大変なことになるので割愛。昭和の団地好き。好きなバンドはイエローマジックオーケストラとグラスバレー。好きな映画は『1999年の夏休み』。WEB同様、モノ・マガジン編集部が日々更新しているFacebook記事も、シェア、いいね!をお願いします。@monomagazine1982 でみつけてね!

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