特撮ばんざい!第29回:アニメ・特撮音楽の巨人「渡辺宙明」が遺した「幻の特撮主題歌」が奇跡の復活! メモリアルCDレビュー


数々のアニメ・特撮主題歌やBGMを手がけ、日本のみならず世界中に熱烈なファンが存在する渡辺宙明先生が、60年代に「特撮テレビ作品」のための主題歌・BGMを作り上げていた!? 没後1年のメモリアルコンサートにてその全貌が明かされた、知られざる「宙明サウンド」の秘密に迫ります!!

文/秋田英夫

『マジンガーZ』(1972年)『人造人間キカイダー』(1972年)をはじめ、『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)『鋼鉄ジーグ』(1975年)『宇宙刑事ギャバン』(1982年)など多くの作品で主題歌、挿入歌、BGMを手がけた作曲家・渡辺宙明先生は2022年6月、96歳で惜しくもこの世を去りました。2021年にはスーパー戦隊シリーズ第45作『機界戦隊ゼンカイジャー』のBGMや挿入歌を作曲し、まったく尽きることのない音楽への情熱を示していただけに、突然の「旅立ち」には多くのファンが驚き、深い悲しみに包まれました。

「天まで届け!歌声よ! 渡辺宙明メモリアルコンサート」チラシ

2022年12月にはNHKホールで「渡辺宙明追悼コンサート」が盛大に行われ、没後1年となる2023年10月1日は「天まで届け! 歌声よ!! 渡辺宙明メモリアルコンサート」が東京文化会館で開催。宙明先生が作り上げた数々のテレビ主題歌に携わった歌手の方々をゲストに招いて、つめかけたファンを感動させました。

CD「渡辺宙明音楽選3 未発表作品集」全内容

このメモリアルコンサートの会場内で販売されたCD「渡辺宙明音楽選3 未発表作品集」は、宙明先生が生前作曲を手がけながら演奏される機会のないままとなっていた「幻のスコア」が、数十年の歳月を経て「復活」を果たしたというのが、大きなトピックスとなりました。ここでは、そんな「渡辺宙明音楽選3 未発表作品集」の音盤レビューをお届けしたいと思います。

幻の宙明版『怪獣王子』!

最初に収録されたのは、1967年にフジテレビ系で放送されたテレビドラマ『怪獣王子』のために宙明先生が作曲した「主題歌」とBGMでした。日本特撮株式会社とフジテレビが製作し、後に『スペクトルマン』(1971年)『快傑ライオン丸』(1972年)などヒット作を生み出すピー・プロダクションが製作協力を務めた『怪獣王子』は、古代恐竜の末裔と一緒に火山島で暮らす野生児タケルが、地球侵略を企む遊星鳥人や、彼らに操られる巨大怪獣に挑む特撮怪獣アクション作品です。

ネッシーと呼ばれる首長竜の頭にまたがったタケル少年が、ブーメランを手にして悪者と果敢に戦う姿が人気を呼んだほか、円谷プロの『ウルトラマン』(1966年)『ウルトラセブン』(1967年)で多くの人気怪獣を造型した「怪獣の生みの親」=芸術家・高山良策さんによるリアル感とパワフルさを兼ねそなえた怪獣たちの個性的な活躍に注目が集まりました。

アフリカのジャングルを思わせる打楽器のリズムと、天地総子さんのよく通る高音ボイスが印象に残る『怪獣王子』主題歌・BGMは、半間巖一さんが手がけていましたが、実は、初期企画段階では宙明先生に作曲の依頼が来ていたというのです

『怪獣王子』監督の土屋啓之助さんは、かつて国際放映で『忍者部隊月光』(1964年)のメイン監督を務めていました。その『月光』では宙明先生が主題歌・BGM全般を担当していたので、『怪獣王子』の依頼もこのときの縁で行なわれたと言われています。

今回のCDジャケット裏面には、宙明先生の手による『怪獣王子』の「歌詞(1番)」が掲載されていますが、初期段階ですでに、「オーラ」という怪獣王子=タケルの雄叫びや「恐竜(の背中)に乗る」「ブーメランを武器にする」という特徴が明記されていたことに驚かされます。

おそらく事前に土屋監督から怪獣王子の設定や特長を聞いていた宙明先生が、主題歌作曲にあたってそれらのキーワードを簡単な歌詞にしてまとめたものではないかと思われますが、こういう出来事からも当時の宙明先生が『怪獣王子』にかけていた強い意欲がうかがえるというものです。

しかし、詳細な理由は不明ですが宙明先生が『怪獣王子』に携わる機会は結果的に失われ、主題歌や一部BGMのスコアだけが長らく残されたままとなっていたのでした。

CDに収録された宙明先生版『怪獣王子』を最初に聴いたときの率直な感想は「懐かしいようで新しさを感じる、まさに宙明先生が2023年に発表した新曲と言っても過言ではない!」というものでした。どことなく『忍者部隊月光』を思わせるジャズやロックのテイストが込められており、少し大人っぽいムードを感じさせるこの主題歌は、開放感や野性味を強く打ち出した実際の『怪獣王子』とはまったく印象が異なり、非常に新鮮な感覚を与えてくれました。

後の『駆けろ!スパイダーマン』(1978年/スパイダーマン)や『イナズマン アクション』(1974年/イナズマンF)を想起させるフレーズも入っていて、濃い宙明ファンならニヤリとしてしまう部分も必聴といえるでしょう。今回は『仮面ライダースーパー1』(1980年)のヒロイン・ハルミ役や『電子戦隊デンジマン』(80年)第33話にゲスト出演した田中由美子さんが歌唱を務めていて、女性ボーカルらしい柔らかなタッチが勇ましい曲調とのミスマッチで新たな魅力をかもし出してくれています。

個人的にはヒデ夕樹さんや水木一郎さんのような力強い歌唱、あるいはヴォーカル・ショップによる男声コーラスでも聴いてみたい、という欲求にかられました。

ヒロイン本人歌唱!『美佐の歌』

『怪獣王子』主題歌とBGMに続いて同じCDに収録されているのは、スーパー戦隊シリーズの5作目にあたる『太陽戦隊サンバルカン』(1981年)でヒロインを務めた嵐山美佐役・根本由美さんが歌う「美佐の歌」「美剣士白バラ仮面」の2曲です。

『太陽戦隊サンバルカン』では強化服を着て悪の怪人(機械帝国ブラックマグマの機械生命体)と戦うヒーローはバルイーグル、バルシャーク、バルパンサーの男性3人で、ヒロインの美佐は変身をせずに潜入調査や敵の分析などを行う役割を担っていました。太陽戦隊を率いる嵐山長官(演:岸田森)の娘でもある美佐は、命をかけた戦いを行うサンバルカンによってのよきパートナーであり、平和の象徴的存在でもありました。

『太陽戦隊サンバルカン』スーパーアクションサウンドLPジャケット(著者私物)

『太陽戦隊サンバルカン』では、バルイーグルに「夢の翼を」バルシャークに「海が呼んでいる」バルパンサーに「君はパンサー」と、メンバーそれぞれのテーマソングが用意されたのが大きな特長となりましたが、ヒロインである美佐のテーマソングは作られませんでした。

しかし宙明先生は当時、ヒロインの歌も必要になるかもしれないと想定し「美佐の歌」の作曲を進めていたそうなのです。実際、『太陽戦隊サンバルカン』は主題歌シングルレコードや挿入歌LPレコードの売れ行きが好調だったため、日本コロムビアから新エンディングと新挿入歌「1たす2たすサンバルカン/戦う仲間サンバルカン」シングルが追加で発表されましたから「美佐の歌」もひょっとしたらレコード商品になっていた可能性もないわけではありません。

美佐のテーマソングのカップリングとして、美佐の主役回となる第29話「美剣士白バラ仮面」(バラモンガー=赤バラの剣士に対抗して、美佐が白バラの剣士に扮して戦うエピソード)をイメージして作詞が行われた「白バラ仮面」も収録されています。

今回のCD発売にあたり、西耕一さんと共に企画を手がけ、「怪獣王子」の補作詞を務めた田野倉健之さんは「宙明先生はつねづね、100歳までは現役です! と口癖のように言っていました。先生亡き後も、先生の遺言どおり新曲を毎年リリースし、生誕100年記念のコンサート、そしてスーパー戦隊50周年記念には、先生の念願だった記念主題歌(なんと、すでに作曲した譜面が残っているとのこと!)を実現したいです」と語り、宙明先生の願いを形にするべくこれからの活動をがんばっていきたい意志を示しました。

Ⓒスリーシェルズ

プロフィール 渡辺宙明
わたなべ・ちゅうめい。1925年生まれ。愛知県出身。東京大学文学部在学中より團伊玖磨に、大学院在学中より諸井三郎に師事。1953年、ラジオドラマ『アトムボーイ』の音楽でデビューして以来、多数の映画、テレビドラマで作曲を担当。『人造人間キカイダー』(1972年)、『マジンガーZ』(1972年)を手がけたのをきっかけに、膨大な数のアニメ・特撮作品の主題歌や挿入歌、BGMを作曲。ヒーローや巨大ロボットのアクションを盛り上げ、悪役の存在感を高める優れた音楽を生み出した。2022年没。

ライタープロフィール 秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』など特撮書籍・ムックの執筆・編集に携わる。CD『必殺シリーズオリジナルサウンドトラック全集』(1&9)『ザ・ハングマン燃える音楽簿』の構成・解説も担当。

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