アニバーサリーイヤーの「大陸」巡洋艦
本誌12月2日号では陸の巡洋艦の異名を持つランドクルーザー(以下、ランクル)を大特集。現行モデルは2021年にデビューし、14年ぶりのフルモデルチェンジになる。そして2023年はランクルの元祖ともいうべきトヨタジープBJ型がデビューしてから70年目のアニバサリーイヤーだったのだ。
もちろんランドクルーザーを名乗る以上、どんな道でも運転しやすく、疲れにくい走りの良さが信条でもある。しかしながら。ランクルはスゴイというが、それって悪路を走った時でしょ、日本じゃなかなかそんな道ないじゃない。筆者のようにコジらせた中年は斜め視線で見てしまうが、ジツはランクル、普段使いもスゴかった。そのスゴさをご報告なのだ。
オフロード界のムード歌謡!?
今回、内山田洋か前川清かという感じで東京砂漠へ冒険に出たのはランクルの中でも充実装備を誇るZXグレード。気になるパワーユニットはガソリンエンジン仕様の1台。5m近い全長と2m近い全幅を持つボディは当たり前だが大きい。そして実車を見ると、やはりホンモノのオーラが出まくり。このボディサイズが未舗装路を普通に走れるのだから驚く。
SUVが人気と叫ばれているが、世の流れ的には都会派SUVモデルが全盛。そしてランクルには「超本気組」御用達の70系もモデルバリエーションに抱えているのだから、ゴーカ装備の300系はもっとアーバンユースに……という甘い考えがあってもいいと思わなくもないのだが、「受け」を狙って信条を変えるような政治家とは全く違う。そんな妥協は微塵もなく、クルマの基本はオフロードなのだ。
もちろん現行モデルも悪路3種の神器に数えられるラダーフレームを基本骨格としている。それは「このクルマでなくては生きて帰れない」モデル普遍のコンセプトがあるから。頑丈でタフそれに快適性を備えたのがいわゆる300系なのだ。もし「ランクル」がラダーフレームをやめたらトヨタディーラーのアチラコチラで暴動が起こるかもしれない。そんなのランクルでない、と。それほどにこのモデルはブレていない。
エンジンは2種。ガソリンが3.5リッターのV6とディーゼルは3.3リッターのV6。いずれのユニットもツインターボで武装する。ちなみにディーゼルエンジンは新設計になる。
ダウンサイジングもなんのその
運転席に陣取るとアイポイントの高さと相まってクルマがデカイ! というのが第一印象。運転席デザインはオフローダーらしく直線基調。ウォールナット木目調のインテリアアクセントはZXの専用装備品になる。スターターボタンは防犯対策の一環としてトヨタ初採用の指紋認証式スタートボタン採用。
エンジンを始動するが、これがタコメーターを見ないとエンジンがかかっているか分からないくらい静か。そして乗り心地もラダーフレームのクルマ? と思うほどの癒し系だ。都内の加減速の多い場面でも大海を行く船のごとし。フルモデルチェンジして10速化されたシフトの変速もすこぶる滑らか。多段化され、間髪入れずに変速されるのだが、タコメーターを見ない限り気づかないほど。それにダウンサイジング化されたとはいえ、ガソリンエンジンでもトルクフルなパワーユニットのおかげで踏み込まない限り1600rpmを超えることなく交通の流れに乗れる。
またその流れを率先してリードしようと思えば、ほんの少しだけ踏み込めば余裕綽々。それでも2000rpmも回せば十分。ゆとりの巡航は高速でも同じで、100km/h時でもタコメーターの針はびっくりの1400rpm付近を指す。感覚的にはそれからまだまだ(パワーが)が出まっせ、というフトコロが深いオトナのクルージングだ。余談だが搭載されるガソリンエンジンはレクサスLSにも搭載されているモノがベース。
しかしランクルのそれは馬力を少し下げ、トルクを厚くしたスペックになっている。と書けば薄っぺらいがエンジンの大半を再設計しているというシロモノ。おまけに燃費が良くなっている。交通の流れに乗っている限りゴーストップやクルマが多い幹線道路でも6.0km/Lは走った。高速はさらに燃費が伸びる。3.3リッターのエンジンで2t以上のクルマなのに。
艦に通じる乗り味
街中を走っているとその静粛性に驚くが、乗り心地も同様。サスペンションは100系から受け継がれる乗り心地と操縦性を重視したフロント、ダブルウィッシュボーンにリア、トレーリングアームのそれ。一般的に乗用車にとっては車重のかさばるクルマの方が乗り心地はよくなる傾向があるが、従来モデルよりも200kgも軽量化している現行モデル、乗り味がより洗練された印象。それはスポーツモードにしても大きくは変わらない。
後席はゲストのためと言ってもいいくらい。この手の本格オフローダーは後席は「載る」イメージかもしれないが、ランクルはキチンと「乗れる」どころか率先して後席に座りたくなるクルマだ。段差を超えてもゆったりと波をいなすかのごとくでまさに大型艦。名は体を表すというが、言い得て妙である。
試乗車は後席用にシートヒーターやベンチレーション、専用エアコンを装備しオプション設定の後席モニターもある「至れり尽くせり」仕様。また意外に思うかもしれないがスライド機構は装備されない(リクライニング機能はある)。
試乗車はガソリン車ということで3列目のシートを備える。モデルとしてはガソリン車はエントリーグレードを除いて全モデル7人乗り。対してディーゼルモデルは5人乗りのみのモデル展開になる。3列目は従来の左右に跳ね上げて格納する方式から床下収納方式に改められ、3列目を使わない時のラゲッジルースは平らな空間で使い勝手が大幅に向上。身長175cmで自称「石原悠次郎並に足が長い(かも知れない)」筆者が3列目に座ったが、膝を抱える様な体育座りポジションになってしまい 長時間は厳しそうな印象だった。
この3列目シートはヘッドレストは手動だが、キャビンやラゲッジスペースから電動で格納できる。ユニークだったのはフロントのカップホルダー。いわば二重底になっていて、小さなカップから背の高いペットボトルも置ける。おそらくこの構造は未舗装路でも倒れない配慮だと思う。
見た目じゃないのランクルは
そんなこんなで街中でもとても乗りやすく快適なランクル。これだけ背の高いクルマながら高速での直進安定性も抜群。ホイールベースは2850mm。前輪と後輪の距離で、この数値はトヨタが黄金比と呼ぶ不動の数字であり、ランクルでは80系から変わっていないモノ。いわばこだわりの数値でもある。メーカーが黄金比と呼ぶだけありこの数値はトヨタやレクサスでも多くの車種に採用されている。
では曲がるのが苦手か、というと意外にそうでもない。シフト付近にあるドライブモード切り替えのダイヤルをスポーツ以上にしてしまえばクネッた道でもフロントの入りは素直で俊敏になる。この傾向はGRモデルの方が強いと思うが、スゴイのはこの巨体が苦にならないこと。
本格的クロカン系モデルの多くは悪路に合わせステアリングのセッティングはクイックにならないような味付けで、高速や一般路面のワインディングでは少し気を使う必要があるのだけれども、「純」乗用車感覚で大丈夫。それでいてこのパワステは油圧式とコラム内蔵電動アクチュエーター式の二刀流。快適性の確保もそうだが、やはり万が一の時を想定したクルマ作りはさすがの素性。
これだけデカイクルマだとブレーキさんも可愛そうになってしまうが、大型のブレーキローターを装備しているので安心。昨今ホイールのインチアップはファッション性が大半だがランクルはブレーキローターの大型化にも対応するから大きなホイールが用意される。
素性を知り尽くした純正の強みというヤツで、見た目じゃない機能美だ。細かいところではホイールのネジ。5穴から6穴になっている。ランクルはどんな道でも安心ということを再認識。難関は車庫入れか? と思ったが最小回転半径はカタログ値で5.9mと、この大柄なボディの割にはとても小さい。というわけで未舗装路でなくてもさすがランクルなのだ。まさに陸の王者(慶應義塾の応援歌ではなく)。
ランドクルーザー ZX(ガソリン)
価格 | 730万円から |
全長×全幅×全高 | 4985×1980×1925(mm) |
エンジン | 3444ccV型6気筒ツインターボ |
最高出力 | 415PS/5200rpm |
最大トルク | 650Nm/2000-3600rpm |
WLTCモード燃費 | 7.9km/L |