『デビルマン』や『マジンガーZ』などの伝説的傑作を手掛けた永井豪による完全オリジナルキャラクターの実写化映画『唐獅子仮面/LION GIRL』が遂に1月26日公開! 荒廃した世界で任侠を貫き通す、美しくも可憐なヒーローが大暴れ。監督・脚本を務めた光武蔵人氏は大の永井豪ファンであり、容赦のないバイオレンス&エロス描写は、まさに永井豪が描く世界観そのもの! ダイナミックな本作の魅力についてお話を伺った。また1月11日に行われた完成披露上映会もレポート!
取材・文/今井あつし
<あらすじ>
謎の隕石群の衝突により大陸の90%以上が海底に沈み、地球上のあらゆる文明が消滅した近未来の世界。人類は僅かながら唯一沈没を免れた東京で辛うじて生き延びていた。しかし、そこは極悪幕府が独裁的に支配しているディストピアだった。さらに各地に散らばった隕石の影響によってアノロックと呼ばれるモンスターが襲来。極道の娘として生まれた緋色牡丹(トリ・グリフィス)は弱い者を助けるために、獅子のマスクを着けて孤軍奮闘していた――。
<映画公式サイト>
永井豪の過激な要素も取り入れた、今までとは一線を画す映像作品
――本作の監督を務められることになった経緯から教えてください。
東映ビデオのプロデューサーに「映画をやりましょう」と声を掛けていただいたんですよ。僕は一番好きな漫画が『デビルマン』ですので、打ち合わせの席で「永井豪先生の作品を映画化できないか?」と口にしたところ、「ダイナミックプロに打診してみます」と快諾してくれました。ただ、それまでインディーズ映画を撮っていた僕が、いきなり永井先生の代表作である『デビルマン』を映画化するのは難しいので、アメリカを舞台にした『キューティーハニーUSA』を企画しました。だけど、『キューティーハニー』の舞台化が進行していたらしくて、永井先生から「申し訳ないけど、『ハニー』の映画化は諦めてほしい」と断られたんです。残念だったんですが、永井先生は代案として「唐獅子仮面」という新しいキャラクターを直々に描き下ろしてくださったんですよ。ビックリすると共に非常に感動しました。唐獅子仮面はライオンをあしらったマスクを被りながらも、キューティーハニーのように露出度の高いコスチュームで、永井先生らしいデザイン。プロデューサーも「永井先生が描いてくださったんだから、映画化するしかない」とゴーサインを出してくれました。
――今まで永井豪先生原作の映像作品は多数ありましたが、本作はバイオレンスはもちろんのこと、主人公の緋色牡丹が惜しげもなく自身の裸体を晒す場面など、いわゆるエロス描写にも永井豪先生のエッセンスが詰まっていて本当に驚きました。
当初、プロデューサーから「製作委員会方式で作れば、かなりの製作費が用意できる」と提案されましたが、永井豪先生の作品の魅力は、やはり突き抜けたバイオレンスと刺激的なエロス描写じゃないですか。今まで映像化された作品は製作委員会方式で様々な企業や代理店がスポンサーに付いたことから、過激な要素を諦めざるを得なかったと思います。だから、僕は「低い予算になっても、自由に撮らせていただきたい」と無理を押し通しました。プロデューサーも僕の想いを汲んでくれて、もう永井先生へのラブレターという気持ちですね。子どもの頃は漫画家を目指していて、永井豪先生の漫画は今でも空で描けるぐらい模写していたので、本作にはエロス描写以外にも原作版『デビルマン』を彷彿とさせるシーンなど、随所にオマージュを散りばめています。
セクシーでありながらイノセント。永井豪のエッセンスを体現した女性ヒーロー
――主人公の緋色牡丹にキャスティングされた主演のトリ・グリフィスさんのご印象はいかがでしょうか。
グリフィスさんは当初、ヒロイン的な立ち位置のマユミ役のオーディションに来てくれたんですけど、彼女を一目見て「ヒーローの方が良い」と判断しました。映画化にあたって永井先生から「主演は可愛くて、イノセントを感じさせる女性でお願いします」と言われていて、まさにグリフィスさんは役柄にピッタリの魅力を持っている。僕を含めてプロデューサーたち満場一致で彼女が主役に決まりました。過激なアクションやヌードシーンが非常に多いんですけど、グリフィスさんはキチンと理解してくれて、撮影現場でも度胸が据わっていました。映画は初主演ながら体当たりで挑んでくれて、演技にかける情熱が結晶となって映像に現れています。本当にこれ以上ない幸運な出会いでした。
――唐獅子仮面という超人の戦いを描く上でこだわったところを教えてください。
最近のアクション映画は『ジョン・ウィック』シリーズ(14年~)に代表されるように、「1人vs十数人」といったシチュエーションがトレンドになっていますよね。ただ、それだけの人数で躍動感を出そうと演出するあまり、見映えが良いだけの殺陣に終始してしまい、感情移入できないバトルになってしまったと個人的に感じていました。それに対するアンチテーゼとして、敵・味方が「1対1」で対峙して、『スキャナーズ』(81年)のように睨み合うことで、その空間にエネルギーの波動が渦巻くという超能力バトルにしました。永井先生も『凄ノ王』などで超能力者同士の戦いを描いていますし、いま現在の流行とは逆行した戦いを見せたかったんです。
「この世は地獄」本作のクリーチャーに投影されたものとは
――本作のクリーチャーであるアノロックは隕石から放たれるエネルギーの影響で異形と化した人間という設定です。『デビルマン』のデーモン的であり、鬼を彷彿とさせるデザインで、まさに異形としてインパクトを放っています。
『手天童子』をはじめ、鬼は永井先生がよく使われるモチーフですからね。それに海外のSF映画に登場するクリーチャーとの差別化も考えて、日本ならではのモンスターである鬼を立体化させたかったんです。アノロックはコロナ(CORONA)のスペルを逆から読んだアナグラムになっていて、100年に一度の世界的なパンデミックの中で、絶望のような気持ちに陥っていた僕の心情がかなり投影されています。ご存知の通り、アメリカはコロナ禍でロックダウンとなりましたが、この脚本を書いたことによって、自暴自棄にならなくて済んだ自分がいる。そういった意味では唐獅子仮面というヒーローは、少なくとも僕の命は救っているんです。
――主人公の牡丹はアノロックに変わり果てた実の母親に「この世は地獄」「生まれてこなければよかった」と突き付けられます。本作に限らず、『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』(14年)や『KARATE KILL/カラテ・キル』(16年)など光武監督の作品は理不尽な運命に晒された主人公が現状を打ち破っていく物語が特長ですが、人間の暗部をエンタメという形で描き続けるのは何故でしょうか?
確かに牡丹は母親に呪われた少女であり、本作に限らず僕の作品には復讐という側面がある。だけど、復讐といったダークサイドは人間誰しもが持つ感情であり、国境を越えて、どの文化圏にも存在している根本的なモチーフだと思うんですよね。映画は表現として、言語を越えて、観ている人の普遍的な感情を揺さぶらないといけない。中学生の時、『ロボコップ』(87年)がどうしても観たくて、日本公開よりも先に輸入ビデオを入手して観たんですよ。当然、日本語の字幕はなくて、当時は英語も覚束なかったんだけど、ストーリーが全て理解できたんです。もちろん英語が分かればさらに良かったんだけど、映像だけで納得させてしまう力がある。監督のポール・バーホーベンはオランダ人で、渡米してハリウッドという異文化の中で『ロボコップ』を撮った。彼も言語を越えるものを意識したのかもしれない。だから海を越えて日本にいる僕にも感動をもたらした。非常に貴重な映画体験でした。だから、言葉で丁寧に説明せずとも、役者の演技とスタッフの画作りによって、世界中の人が繋がれる作品を常に目指しています。
スーパーヒーロー本来の魅力。映画のエクスプロイテーションな部分に立ち返る
――本作はアメリカで撮影されて、逆輸入という形で日本公開されます。マーベルのMCUなどスーパーヒーロー映画が定着したアメリカで、日本の女性ヒーローを描いたことで手応えを感じたところを教えてください。
現在のMCUは配信ドラマも数多く制作されて、ユニバースが広がり過ぎてしまい、初心者が簡単に参入できないどころか、長年のファンも「ヒーロー・ファティーグ」と言って、ヒーロー疲れが顕著になってきているんですね。またハリウッド自体が映画のクリーン化を目指した結果、例えばDCエクステンデッド・ユニバースの『ワンダーウーマン』(17年)はセクシーなコスチュームをしているのに、いわゆるセクシーショットがないじゃないですか。70年代のTVシリーズの『ワンダーウーマン』(75年)はセクシーさを前面に押し出して、男性客が熱狂しただけではなくて、女性客も自己投影して応援していた。もちろん映画業界のクリーン化は重要ですが、そもそも映画は暗闇の中で不特定多数の人間が観る時点で非常に見世物小屋的であり、エクスプロイテーションな部分も映画の魅力の1つなんです。だから、アメリカで先行して『唐獅子仮面』を配信した際は、「もうヒーロー映画に飽きたかい? これをご覧!」というキャッチコピーを付けて、スーパーヒーローものが本来持っていたケレン味やヤンチャな部分、そして女性ヒーローならではのセクシーさを訴えました。有り難いことにそれらの要素が観客に突き刺さったようで、高い評価を得ることに成功しました。
――最後にこれから本作を鑑賞する観客に向けてメッセージをお願いします。
現在、倫理的にそぐわないものを排斥するキャンセル・カルチャーが世界中で行われていますね。アメリカでは保守勢力のトランプ大統領が誕生した反動とも言われていますが、少し行き過ぎてしまっているように感じます。実際に『唐獅子仮面』を上映禁止処分にした映画祭もありました。僕がヒーローものを撮る上で意識したのは、そういった正義の危うさです。原作版『デビルマン』でも最終的に暴走したのは人間側の政府機関だった。永井先生は『ハレンチ学園』の頃から、そういったものと戦い続けていますね。だから、『唐獅子仮面』は正義ではなく、あくまで「弱きを助け、強きを挫く」任侠のヒーローなんです。もしかしたら、本作が最後のエクスプロイテーション映画になるかもしれないけど、辛い現実からのエスケープとして楽しんでいただければと思います。
完成披露上映で豪華声優陣が登壇。さらに原作者・永井豪先生も!
本作は豪華声優陣による日本語吹替版も上映される。光武監督は吹替の収録現場にも立ち会い、特に原作版『デビルマン』にオマージュを捧げたシーンは台詞もオリジナルの雰囲気を損なわないように気を遣ったという。左の写真は松本梨香、新田恵海、関智一。右の写真は光武監督、トリ・グリフィス。
本インタビュー後の1月11日、シネマート新宿で『唐獅子仮面/LION GIRL』の完成披露上映が行われた。上映後、光武監督、主演のトリ・グリフィス、日本語吹替版で声優を務めた新田恵海、関智一、松本梨香、そして原作者の永井豪が登壇。
終始、和やかな雰囲気に包まれ、各人が本作の印象などを笑顔で語り合った。特に松本は声優のみならず、音響監督として吹替の演出も担当しており、「永井先生の作品ですから、ファンの方に喜んでもらえるようにしたいと本当に心掛けました」と並々ならぬ意気込みを見せた。関も「松本さんは『もっと面白くしたい』とみんなにアイデアを求めていて、非常に刺激的な収録現場でした」と振り返る。
最後は永井先生の次の言葉で締め括られた。「たとえ漫画や映画の世界で酷いことが起きても、読者や観客はワクワクして見ることができる。フィクションにはそういった遊び心があり、それこそが物語が持つ力です。この作品は過激に見えるけれども、根本には非常に前向きな明るさがある。皆さんも楽しんでもらえると思いますので、どうかよろしくお願いします」
なお本作の収益の一部は令和6年能登半島地震の義援金として寄付されるとのこと。
光武蔵人(みつたけ・くらんど)
映画監督。1973年生まれ。1990年に単身アメリカに留学。ロサンゼルスを拠点に活躍。2004年に『モンスターズ』で長編映画監督デビュー。代表作に『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』(14年)、『アタック・オブ・ザ・ジャイアントティーチャー』(19年)、『マニアック・ドライバー』(21年)など。
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。
【公開情報】
映画『唐獅子仮面/LION GIRL』は、
ヒューマントラスト渋谷、
池袋シネマ・ロサ、
シネマート新宿ほか、
1月26日全国公開!
公式サイト