お酒博士・橋口孝司の酒千夜
Vol.29 200周年記念限定ボトル発売!“はじまりのシングルモルト”「ザ・グレンリベット」


★今回おすすめのお酒(カクテル)★
「ホットラスティネイル」

ザ・グレンリベット12年とドランブイ(スコッチウイスキーとハーブのリキュール)を使ったカクテル『ラスティネイル』をお湯で割ってホットスタイルに。やさしい甘さと香りで、心も身体もほっとする1杯です。

今年2024年は、世界No.1のシングルモルトウイスキー「ザ・グレンリベット」の創設200周年の年です。

ザ・グレンリベット蒸溜所は、1824年に英国政府公認第1号の蒸溜所となりました。“はじまりのシングルモルト”と呼ばれ、長い歴史の中で紆余曲折がありながらもスコットランドでウイスキーを造り続けてきました。

■ザ・グレンリベットとは?

「グレンリベット」とはゲール語で「静かなる谷」「リベット渓谷」という意味です。その名の通りグレンリベット蒸溜所は、スコットランド・スペイサイド地方にあるリベット川の谷にあります。ザ・グレンリベット蒸溜所は、2000年からはフランスのペルノ・リカール社の所有となっています。

ザ・グレンリベットは、現在世界No.1(※)のシングルモルトスコッチウイスキーブランドです。2021年にグレンフィディックを抜いて世界No.1になりました。ふたつのブランドはいずれも非常に人気が高く、スコットランドを代表するシングルモルトスコッチウイスキーです。ふたつのブランドについて詳細はこちらの記事をご覧ください。
グレンフィディック vsザ・グレンリベット シングルモルトウイスキー世界TOP2を徹底比較!

※情報出典:ドリンクス・インターナショナルWeb

●ザ・グレンリベット蒸溜所について
場所:スコットランド(スペイサイド)
設立:1824年(文政10年/江戸時代) ※政府公認第1号蒸溜所
創立者:ジョージ・スミス
蒸溜器の数:初溜16器、再溜16器
水源:ジョシーの湧水
所有者: ペルノ・リカール社(2000年~)

ザ・グレンリベット蒸溜所 出典:ウィキペディア

■“はじまりのシングルモルト”の歴史

19世紀は、ウイスキーの密造酒の時代といわれています。その背景にはスコットランドの歴史が大きく関わっています。

密造酒が造られていた大きな理由は、1707年、イングランドによってスコットランドが併合され、高額の酒税が課せられるようになったことです。重税から逃れるために蒸溜家たちは密造酒を造り始めたのです。

そんな時代の中、ザ・グレンリベットの歴史は、ジョージ・スミスという、ひとりの男から始まりました。

1792年スコットランド・グレンリベット地方の小さな傾斜地の農場にジョージ・スミスは生まれました。彼は家族を養うために建具屋として働き、納屋を建てたり柵を修理したりしていました。仕事の空き時間には、蒸溜技術を進化させ独自のスタイルで滑らかなスピリッツを開発したのです。

そのスピリッツの評価は高く、噂を聞きつけた当時国王だったジョージ4世もその味わいを称賛したといわれています。その後1823年に酒税法が緩和され、スコットランド・スペイサイド地方リベット渓谷にあった彼の蒸溜所は、1824年に政府公認第1号蒸溜所となりました。

密造酒の時代に「ザ・グレンリベット」は合法的なウイスキー造りの道を切り開いたのです。“はじまりのシングルモルト”と呼ばれるのはそのためです。

しかし、成功をねたむ競合の蒸溜所等からの攻撃を受けることも多く、護身用として2丁のピストルを携帯していたという逸話も有名です。

ジョージ・スミス 出典:ザ・グレンリベット オフィシャルサイト

余談ですが、19世紀に行われていた密造酒造りによって“琥珀色”のウイスキーが誕生した事をご存じですか?

密造ウイスキーを造っていた蒸溜家たちは、人里離れた山奥で泥炭(ピート)を使い、手近にあったシェリー酒の空樽に「密造ウイスキー」を詰めて、徴税人の目につかないように渓谷などに隠しました。時が経ち、隠していたウイスキー樽を開けてみると、透明だったウイスキーは琥珀色になり、味も香りもまろやかに変わったのです。こうして、ウイスキーを美味しくするために「熟成」する事が一般化していきました。

■「ザ・グレンリベット」の誕生

ザ・グレンリベットの人気は高く、その名を語る多くの模倣者も現れました。他の蒸溜所が競い合うように”グレンリベット”の名前を自分たちのウイスキーの名前に使用するようになっていったのです。

グレンリベットと名乗っていたのは、ミルトンダフ、トミントール、アベラワー、アルトモア、バルメニャック、ダフタウン、ロングモーン、タムナブーリン、タムデュー、グレンファークラスなど、実にその数は25にも及んだといわれています。

そんな状況の中、ジョージ・スミスは自分のスタイルのウイスキーを守るために裁判所に提訴することを決意したのです。その争いは長い年月を要しました。

1884年息子のジョン・ゴードン・スミスの時代になって、やっと判決が下りました。その結果”ジョージ・スミスのウイスキー”だけが本物の証拠である定冠詞の”THE”をつけることが認められたのです。

こうして唯一無二の本物の”THE GLENLIVET”となりました。 

”THE”を名乗ることが認可された書類 出典:ザ・グレンリベット オフィシャルサイト

■『ザ・グレンリベット 12年 200周年記念 限定ボトル』

2024年1月22日に、ブランド200周年を記念して『ザ・グレンリベット 12年 200周年記念 限定ボトル』が発売されました。

今回の限定ボトルはパッケージが特別なだけではなく、通常のザ・グレンリベット12年とは異なる中身であることも特長です。

通常のザ・グレンリベット12年は、アメリカンオークとヨーロピアンオーク2種類の樽で熟成しているのに対し、今回の限定ボトルには、100%ファーストフィル・アメリカンオーク樽で12年以上熟成された原酒が使われています。

もうひとつの大きな特長がパッケージです。

世界42カ国のアーティストから応募された合計400種類以上のデザインの中から選び出した特別なデザインです。200年間の「ザ・グレンリベット」の過去・現在・未来を表現したイラストです。ブランドの歴史にまつわるイラストを見つけるのも楽しいかも。

ザ・グレンリベット 12年 200周年記念 限定ボトル 出典:ザ・グレンリベット オフィシャルサイト

【パッケージデザインに描かれているブランドの歴史】

●創始者ジョージ・スミス

●蒸溜所の土地から湧き出るマザーウォーター 「ジョシーの泉」
このミネラルを豊富に含んだ硬水が、「ザ・グレンリベット」のウイスキーの味わいを特長づけています。

●リベット川に架かる「パックホース・ブリッジ」
ザ・グレンリベットの原点であるリベット川に500年以上前に建設された円形の橋は、蒸溜所と共に歴史を刻んできたともいえます。

●背の高いランタン型のポットスチル(蒸溜器)
ジョージ・スミスによって開発された長いネックのポットスチルは、ザ・グレンリベットの特長である繊細なフレーバーや複雑なフルーティーさを生み出しています。

●アメリカで初めて大規模販売された際にきっかけとなった有名なプルマン列車
ザ・グレンリベットはアメリカのファースト・クラス鉄道旅行のパイオニアであったプルマン社の列車でミニチュアボトルを提供し人気を博しました。

●パイナップルとシトラスは「ザ・グレンリベット」の代表的なフレーバーです。

●ザ・グレンリベットを愛した小説家チャールズ・ディケンズ

<参考情報サイト>
ザ・グレンリベット公式サイト(日本語)
200年の伝統と進化を祝う『ザ・グレンリベット 12年 200周年記念 限定ボトル』数量限定発売

  • 株式会社ホスピタリティバンク代表取締役 ホテルバーテンダーから料飲支配人、新規ホテル開業準備室長、運営などをてがけ26年間ホテルに勤務。2008年より株式会社ホスピタリティバンク代表取締役に就任。バー開業コンサルティングなどを手がけ酒類関連団体の顧問、理事を歴任し国内外で講演、セミナーを行っている。ウイスキーバープロデュース・運営(2017-2019)を行う。 シャンパーニュ騎士団「シュバリエ」、ベルギービールプロフェッサー、日本伝統濁酒学博士などの称号を持つ。 2015年からは「橋口孝司 燻製料理とお酒の教室」にてセミナーの開催や、ウイスキーを愉しむイベント「ザ・シークレットバー」も銀座と西麻布にて定期的に開催している。 「ディスティラリーパッケージ1992」を皮切りに、「ウイスキーの教科書」「カクテル&スピリッツの教科書」「本格焼酎名酒事典」「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」などを執筆、「世界のウイスキー図鑑」「世界のベストウイスキー」「ハリウッドカクテル日本語版」などを監修。ウイスキー、カクテル、スピリッツを中心に酒類に関する執筆・監修は26冊以上。 Webでは、「たべぷろ」にて執筆(https://tabepro.jp/author/hashiguchi) 「江崎グリコ お酒の話」を監修(https://jp.glico.com/osake/index.html)
  • https://www.hospitality-bank.com/

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