2024年1月31日に発行された『ウルトラマン ニュージェネの証』。批評家・切通理作さんの新刊で、『ウルトラマンギンガ』から『ウルトラマンジード』までのニュージェネレーションシリーズ前半5作品に携わった総勢40名もの番組関係者たちのインタビュー集となっている。今回は『ウルトラマンオーブ』『ウルトラマンジード』の2作品及びニュージェネシリーズを支えた技術スタッフ、そして本書の全話解説の執筆などで切通さんを大いにサポートした若き特撮ライターについてお話を伺った。
取材・文/今井あつし
【前編はこちら】
総勢40名の証言から現在のウルトラマンが戦う意味を検証!! 『ウルトラマン ニュージェネの証』著者・切通理作さんインタビュー(前編):特撮ばんざい!第41回
●今の時代に即してヒーローを捉え直した『オーブ』
――本書の『オーブ』総評にて、切通さんがメイン監督の田口さん、メインライター中野貴雄さんのみならず、プロデューサーの鶴田伸幸さんの個性についても言及されているのが興味深かったです。
『オーブ』のクレナイ ガイは〈さすらいのヒーロー〉という今までのウルトラマンになかった主人公像ですよね。その人物造型は昭和の小林旭の渡り鳥シリーズなどを愛する中野さんに依るところが大きい。
そこに田口さんの演出が加わって、クールに見えて熱き魂を持った風来坊が生まれたわけですが、鶴田さんの信条として、ガイのさすらう理由を明確にする必要があった。そこで持ち込まれたのが、辛い過去に囚われているが故に自分を「ウルトラマン」と名乗れないという精神性。今あるべきヒーローの存在理由を根底から捉え直して再構築したシリーズだと思います。
さらにガイにはジャグラス ジャグラーという一筋縄ではいかないライバルまで配置されている。本書は田口さん、鶴田さん、ガイを演じた石黒英雄さんのインタビューを収録しており、それぞれの立場からガイ及びジャグラーとの関係をどのように捉えていたのかが分かるようになっています。
――プロデューサーの方も作家性を持って作品に携わっていることが分かって面白かったです。
鶴田さんが『オーブ』第12話「黒き王の祝福」で、ジャグラーがガイに「一度くらい俺に勝たせろよ」と言い放つシーンに手応えを感じたと仰っていたのが印象的でした。そのガイも心の弱さから、シリーズ中盤で闇の力に飲み込まれてしまいそうになる。そこでヒロインのナオミを巻き込んでしまったことで、「俺はオーブを許さない」と自分自身を否定してしまう。
『オーブ』第12話の脚本を担当された黒沢久子さんも本書のインタビューで、「ガイとジャグラーは表裏一体の存在」と答えられていますよね。ガイは第17話「復活の聖剣」で過去の呪縛から解き放たれて本来の姿を取り戻し、初めて「ウルトラマン」だと名乗りを上げる。これはかつて人々から見上げられる存在だったウルトラマンが、人々と同じ立ち位置で一緒に顔を上げる存在へと変節したことを物語っている。
左は『オーブ』クレナイ ガイ役の石黒英雄さん、右は脚本家の黒沢久子さんのインタビュー。
●より切実にアイデンティティ確立を描いた『ジード』
――「主人公が悪と表裏一体」という意味では、次作『ジード』の主人公の朝倉リクが〈ウルトラマンベリアルの息子〉という設定なのも興味深いですね。
『ジード』は『オーブ』以上に自身のアイデンティティの確立を前面的に押し出したシリーズですよね。〈ベリアルの息子〉という重いテーマでありながら、ドラマそのものは陽性のテイストで織り成されており、そのバランス感覚が絶妙でした。ただいずれにしても、最終的に自分の父親であるベリアルと決着を付けなければならないのが、このシリーズ最大の命題だった。
本書にはシリーズ構成と脚本に取り組んだ「乙一さんと三浦有為子さん」、そして主演とメイン監督である「濱田龍臣さんと坂本浩一さん」と、『ジード』関係者たちの対談を2つ掲載していますが、どちらもベリアルとの決着についてどのように思案されていたのかが伺えます。本書最後のインタビューはスーツアクターの岩田栄慶さんで、『ジード』を「どんな運命であろうとも乗り越えるのではなく、それを引き受ける強さ」を描く作品だと仰っていたのが感慨深かったですね。
左は『ジード』朝倉リク役の濱田龍臣さんとメイン監督の坂本浩一さん、右はメインライターの乙一さんと脚本家の三浦有為子さんの対談。
――改めてニュージェネ前半5作品はどのような感触でしょうか?
今回の『ニュージェネの証』で番組関係者たちに取材を重ねていって、ニュージェネ前半5作品はTV特撮でウルトラマンを描くことの意味を捉え直していったシリーズだと、僕は改めて思い至りました。『ギンガ』で心の在り方を、『ギンガS』『X』で生命の在り方を、そして『オーブ』『ジード』ではヒーローそのものの在り方を問い直した。
だからこそ敵役のみならず、ウルトラマンも危うさを孕んだ存在だと位置付けし、そこからどのようにヒーローとして立ち上がっていくのかを描き続けた。それこそが東日本大震災を経て、さらに混迷を極める現実に晒されながらも、より良き未来を築き上げていきたいと願う我々に提示した〈証〉だと思います。
●コンテマン同士の繋がりが作品の底上げに繋がる
――また本書は技術スタッフさんたちのインタビューや座談会も収録されていますが、その中でもとりわけコンテスタッフが多数収録されているのが目を引きます。残念ながら昨年逝去された橋爪謙始さんが座談会で様々なコンテマンの方に慕われているのが印象的でした。
橋爪さんは『ウルトラマンティガ』(96年)の時から卓越した画力で作品に貢献されていました。僕は『ティガ』『ダイナ』『ガイア』の平成ウルトラマン初期三部作を取材した『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ刊)の時に橋爪さんに表紙のイラストをお願いしたんです。その場でどんどんアイデアを絵にしてくれました。今回もインタビューをお願いしたところ、「『ギンガ』『ギンガS』は自分ひとりが手掛けたわけではないから」とお返事が来て、座談会という形になったんです。
コンテを、スタッフ以外の人が見ることは基本的にないわけですよね。完成作品を観てもコンテがどの程度反映されているのか完全には分からない。だから、橋爪さんは業界全体の底上げに繋がるように、コンテマン同士の交流をとても大切にされていた。
今回の本は橋爪さんをはじめ、西川伸司さん、酒井豊さん、相馬宏允さん、市川智茂さん、なかの★陽さんにお話を伺っていますが、ニュージェネが毎年我々ファンの予想を上回る斬新な特撮カットを提供できる、その理由の源泉がうかがえるのではないかと思っています。
左は切通理作さんが2000 年に手掛けた平成ウルトラマン三部作のスタッフ・キャストのインタビュー集『地球はウルトラマンの星』。表紙は橋爪謙始さんによるイラスト。右は本書掲載のコンテマン座談会
●期待を寄せる若い世代〈ニュージェネレーション〉特撮ライター
――本書は576ページというボリュームで取材・執筆・編集を考えれば、その時間と労力は並大抵ではなく、本当に大変だったと思われます。
分量の調節もあり、僕より担当編集さんが大変だったと思います。今回は、早稲田大学特撮評議会という特撮の「評論」に特化したサークル出身である、ライターの馬場裕也さんが全話解説も含めて全体の作業をサポートしてくれたことでも大いに助かりました。可能な限り取材にも立ち会ってもらいましたし。
彼は20代だけど、戦記ものも含めて昭和からのあらゆる特撮作品を観てきている。2022年に東京都現代美術館で開催された「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」にもスタッフとして携わっていて、正確な鑑識眼の持ち主です。作品に携わった特撮スタッフにも精通している。故人の資料には図面やコンテにしても当人以外が手掛けたものと一緒になっていたり、違う作品のものが混じっていたりするんですが、彼は誰が描いたものかを類推することが出来るんですよ。そのうえで精査する。
だから、彼に訊けば、今この資料がどの程度の確度で特定できるのか基準を知ることが出来るんです。
――本書に掲載されている画像は馬場さんが選定に参加しているとお聞きしました。
彼とも話し合い、もちろん円谷プロさんに見ていただいたことで、本書の画像はページの内容にキチンと照応している。巻頭カラーは彼の意見が強く反映されています。他の書籍に載った写真とバージョンを変えるということと、ウルトラマンが最も美しく見える瞬間の画像を選ぶということを両立させようとしている。ファンの皆さんにとってもツボを押さえた内容になっていると思います。
ウルトラマンは過去に16年間TVシリーズが作られなかった時代がありましたが、こうやって平成以降の作品をリアルタイムで観た世代が育ってきていることを実感しますね。
馬場さんのことで言えば、彼はウルトラマンがバージョンアップする、存在として進化することに涙を流すことが出来る人間なんですよ。所謂ドラマとして「泣ける話」とかに対してだけじゃなく。ウルトラマン自体への入り込み方が、同じ好きな者同士でも、僕のような昭和に半身浸かった人間とはちょっと違うところがあって、その視点の角度が新鮮ですね。
――最後にこれから本書を手に取るファンや読者の方にメッセージをお願いします。
ニュージェネレーションシリーズは各番組の放送期間は半年であるにしても、もはや10年以上継続しているシリーズであり、ウルトラマンの歴史上かつてない状況に入りつつある。そういった中で、ファンの方々が「ニュージェネはどのようなシリーズなのか」を今一度考える際に本書がその一助になれればと思います。続巻も取り組ませていただきたいと思いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
切通理作(きりどおし・りさく)
批評家。東京都出身。新聞、雑誌など各種媒体に書評・時評、コラムを寄稿。映像作品の関係者等への取材原稿も執筆。ウルトラマン関連の著書では『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』『怪獣少年の<復讐> 70年代怪獣ブームの光と影』『地球はウルトラマンの星』(ティガ編、ダイナ&ガイア編)『少年宇宙人 平成ウルトラマン監督・原田昌樹と映像の職人たち』などがある。
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。
『ウルトラマン ニュージェネの証 『ギンガ』、『ギンガS』、『X』、『オーブ』、『ジード』&ゼロ』
(著者:切通理作/定価:3850円(税込)/ホビージャパン刊)
【内容】
総論 切通理作
●On-site staff 現場スタッフ
アベユーイチ(監督)/原口智生(監督)/石井良和(監督)/坂本浩一(監督)/田口清隆(監督)/小中和哉(監督)/髙橋創(撮影監督)/新井毅(撮影)&武山弘道(照明)&根岸泉(操演)
●Story 脚本家
長谷川圭一(脚本家)/小林弘利(脚本家)/黒沢久子(脚本家)/乙一(脚本家)&三浦有為子(脚本家)
●Actor 出演者
根岸拓哉(出演者)&宇治清高(出演者)&坂本浩一(監督)/最上もが(出演者)/高橋健介(出演者)&田口清隆(監督)/坂ノ上茜(出演者)/石黒英雄(出演者)/濱田龍臣(出演者)&坂本浩一(監督)/島田和正(キャスティング)
●Production 制作
渋谷浩康(企画協力・企画監修)/岡崎聖(制作統括ほか)/鶴田幸伸(プロデューサー)/大岡新一(監修)
●Technical 技術
後藤正行(デザイナー)/橋爪謙始(画コンテ)&酒井豊(画コンテ)&相馬宏充(画コンテ)&市川智茂(画コンテ)/西川伸司(画コンテ)/なかの★陽(画コンテ)/品田冬樹氏(造形)&潤淵隆文(造形)/木場太郎(美術)&倉田友衣子(美術)
●Suit actor スーツアクター
寺井大介(スーツアクターほか)/岩田栄慶(スーツアクター)
●テレビ放送、劇場版全話解説
●スタッフ&キャスト
【前編はこちら】
総勢40名の証言から現在のウルトラマンが戦う意味を検証!! 『ウルトラマン ニュージェネの証』著者・切通理作さんインタビュー(前編):特撮ばんざい!第41回