春なのに~、お別れですか?
春といえば卒業式シーズンなのだが文字どおり「惜別」なクルマがある。それはフランスのルノーからリリースされるハッチバックモデル、メガーヌR.S.だ。R.S.ことルノー・スポールは、永らくモータースポーツ部門として尽力してきたブランド。そのモータースポーツ部門がアルピーヌに全面的に移行するという。つまりそのパフォーマンスを持つクルマづくりがアルピーヌに引き継がれるってこと。
ところがですなアナログ古典主義思考の筆者はとあることを思い出したのだ。それはアルピーヌがEV専用のスポーツカーメーカーになると言っていたこと。そう、おそらく純ガソリンエンジンのルノー印がつくスポーツモデルの最後になるクルマがメガーヌR.S.なのだ。大磯で開催される日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会で僭越ながらそのシートをゲットできたのでご報告。
最終楽章の装いを持つホットハッチ
今回シートをゲットしたのはメガーヌR.S.の中でも最終も最終モデルの限定車、ウルティム。同車はルノー・スポールが設立された1976年にちなんで世界で1976台限定販売の希少車。限定車ということは何かしらのベース車両が存在するのだが、それはブランドの中でもホットモデルで知られるメガーヌR.S.トロフィー。ベース車が「チョッ速」で知られるクルマ、これ以上速くする余地があるの? それってもうレーシングカーやんと思っていたのだが、レーシングカーになってしまうとメガーヌR.S.ではなくなってしまうのかも。
何と言っても歴代モデルはFF「量産」世界最速の称号を欲しいままにした猛者。走りにフォーカスしたアピールをしなくては「限定」の名が廃る。そこでコーナリング性能を重視したシャシーの味付け、トルセンLSD、スリット入りブレーキディスクなど「おかわり装備」を持たせ、ルノー曰く「クローズドコースでのスポーツ性能を高めた」という。
エクステリアは派手な寿司屋さんのカウンターよろしくな巨大なウィングなどのエアロパーツを纏うとかせずベース車となんら変わりはないイデタチ。しかしブランドロゴがブラックアウトされたり、オリジナルデカールが貼られたりと好きモノ風。このデカールはウルティム専用装備で、ルノー印のひし形、ロザンジュをモチーフにしたモノ。この辺りはさすがシャレオツな国のクルマである。ホイールは専用の19インチ。タイヤはポテンザのランフラット構造を持つS001を履いていた。
思わずコーフンのインテリア
ドアを開ければメガーヌR.S.トロフィーとさほど変わらない9.3インチマルチメディアを設置したインパネまわり。しかし随所にカーボン調の加飾が施され見た目はレーシーな雰囲気。また赤色を各部のアクセントにしているのも特長。
もちろんステアリングマーカーもある。またドアのソフトパッド部分もカーボン風にするこだわりよう。シフトパネルの先端には限定モデルを表すプレート。そこには何やらサインが。調べてみたらサインの主はロラン・ウルゴンのモノ。彼はかつてニュルブルクリンクで量産市販FF車最速の7分54秒36を記録したR.S.の開発テストドライバーだ。
(編集部注:コロナ禍前の2019年4月には量産FF車最速の7分40秒100の新記録を樹立)
シートは機能美も併せ持つバケットタイプ。筆者のようなボンクラは「レカロのバケット」という響きだけでもクラッとしてしまう。このシートはハードなコーナリングでも体を保持できるよう滑りにくいアルカンターラで、この生地は後席にも採用されている。ドアを開けてバケットシートが迎えてくれるインテリアというだけでコーフンしてしまう。テンションは上げ上げのまま。
やはり筆者の気分はアロンソ?
コーフン冷めやらぬ筆者はエンジンをスタート。エンジンは300PSを誇る1.8リッターの直4ターボエンジン。このパワーユニットのターボチャージャーはF1譲りのセラミックボールベアリングシステムを採用する。このセラミック何チャラの何がすごいのか。それは従来品と比べて摩擦抵抗が3分の1になっている点だ。これによってレスポンスの向上も得られ、よりエンジンの旨味を引き出せる。
こだわりのエンジンに組み合わされるのは6MTと6ATから選択可能で、試乗車は6ATだった。なんだATかと思うなかれ。デュアルクラッチを持つモノであらゆる場面で効率よくエンジンパワーを引き出せるのだ。またミッションのトルク容量があるので、ジツはMTモデルの方が若干最大トルクが抑えられ、400Nmになっている(ATモデルは420Nm)。
走り出すとたった数mだけなのになんでもできるような錯覚になってしまう。気分はF1ドライバーなのだ。タウンスピードでも乗り心地は悪くない。アスリート的な固さはあるけれど昔のライバルメーカー的な即時帰宅願望、走る腰痛製造機ではない。むしろ楽しさが先に感じる。たった30km/hくらいの速度なのに。サーキットのラップタイムだけがクローズアップされがちだが歴代R.Sはサーキットが3割、一般公道7割で開発され続けたクルマで、あくまでも公道を走る市販車が大前提。真偽のほどは定かではないが、首都高でもテスト走行が行われたとか噂もある。そう考えると街中では極力快適志向なベクトルのはず。
最終究極奥義、幻の多角形コーナリングぅ!
そんなR.S.でクネッた道に入ったら叫びだしそうなほど楽しい。ステアリングフィールは当然クイックレスポンスだし、旋回中、路面の悪い道でも極力フラットな姿勢を維持する。自分の意思通りにクルマが動くこと以上に楽しいことがあろうか。
R.S.には4輪操舵システム「4コントロール」が筆者のような未熟な腕でも走らせやすいようにしてくれる。これは低速域では後輪を前輪と逆方向に切って旋回性能を高め、高速域では前輪と同方向に後輪をステアさせることで安定性を高めるモノ。このシステムがあるおかげでコーナリング性能を高めるために必要以上に足回りを固める(乗り心地を犠牲にする)必要がないのだ。
また乗り心地を支えてくれる4HCCダンパーも忘れてはイケナイ。これはダンパーの中にセカンダリーダンパーを内蔵させ、リバウンドや振動を抑制してくれしっかりと路面をトレースしてくれるモノでタウンスピードでは乗り心地にも貢献する、ラリーカーに由来する技術だ。
以上は知識面の話だが、センターコンソールのドライブモードをスポーツモード以上にすればエンジンサウンドを素敵なBGMに連続コーナーを抜けることが可能で、気分は風吹祐矢(編集部注:池沢さとし先生の名作漫画『サーキットの狼』の主人公です)なのだ。車名と相まってバイオレンスアクション風に「最終究極奥義、幻の多角形コーナリングぅ!」と叫びそうなほど。この雰囲気だけでも相当な破壊力があるような響きだ(担当:……)。
もちろん腕のあるドライバーはサーキットでも超絶楽しいはず。R.S.はトロフィーに比べ少しばかりダイエットをしている。例えばホイールはトロフィーに比べて1本あたり2kgの軽量化、前席シートは1脚わずか23.5kgしかない。ボクシングの減量かお肉屋さんの注文か、と言った具合にグラム単位にメーカーのこだわりがひかるクルマなのだ。
それにしてもここまで大人が後席に座れたり、使いやすい荷室があったりと実用的で超絶楽しいクルマが生産終了だなんて、惜しすぎる。存続の署名活動をしたくなる。
ルノー・メガーヌR.Sウルティム
価格 | 659万円〜 |
全長×全幅×全高 | 4410×1875×1465(mm) |
エンジン | 1798cc直列4気筒ターボ |
最高出力 | 300PS/6000rpm |
最大トルク | 420Nm/3200 |
WLTCモード燃費 | 11.3km/L |