長年活躍されているプロレスラー・雷神矢口さんが新たに立ち上げた団体『怪獣プロレス』。文字通り怪獣やUMAたちが激闘を繰り広げ、マット界でも独特の存在感を放つ。異形たちが生身でぶつかり合う様は、まさに怪獣映画さながらの大迫力! さらに彼らを使役する〈怪獣使い〉として昭和特撮のレジェンド俳優たちが登場。リング上の戦いに華麗な彩りを加えている。今回、試合映像の撮影・編集を担当している映像監督の秋武裕介さんに『怪獣プロレス』の魅力をお聴きした。
取材・文/今井あつし
●リング上で繰り広げられる大迫力の怪獣バトル
――秋武さんが『怪獣プロレス』の試合映像の撮影・編集に携わることになったキッカケから教えてください。
『怪獣プロレス』の主宰者である雷神矢口さんは、レスラーのみならずミュージシャンとしてもご活躍されている方なんですよ。矢口さんの音楽ライブに知人に誘われて、そこでお会いしたのがキッカケですね。それで矢口さんが僕の映像作品をいろいろとご覧くださって、特に堀内正美さんに出演していただいた自主製作のSF映画『アナログ・タイムス』(19年)の映像感覚が気に入られたようで、『怪獣プロレス』の映像担当としてオファーをいただきました。
――『怪獣プロレス』の第一印象はいかがだったでしょうか?
僕は今までプロレスに触れてこなかった人間なんですが、特撮は大好きなんです。オファーをいただいた時点で『怪獣プロレス』は水面下で動き始めたばかりでしたけど、特撮ファンとして怪獣同士のバトルは最も興奮するシーンじゃないですか。矢口さんとやり取りしている中で、「俺はヒーローよりも怪獣のほうが好きだ」と仰っていたのが印象的でしたね。
怪獣は異形と呼ばれる存在であり、プロレスラーも常人とはかけ離れた存在という意味で重なる部分がある。実際にどの怪獣も2m近く身長があって、初めて見た時はその迫力に圧倒されました。
●怪獣愛溢れる予告動画。シンボルはやはり王道の怪獣
――YouTubeにアップされている『怪獣プロレス』の予告動画も秋武さんが手掛けているとのことですが、動画の冒頭でブルゲーターという怪獣の各部位が次々と映し出されて、怪獣愛を強く感じました。
ブルゲーターはいわゆる王道タイプの怪獣なので、予告動画でも『怪獣プロレス』のシンボルとしてスポットを当てています。
僕は特撮の中でもウルトラマンシリーズが大好きで、特に『ウルトラマン』(66年)と『ウルトラセブン』(67年)は、直撃世代ではない僕にも強い影響を与えました。この2作品は巨大ヒーローのパイオニアとして既成の怪獣映画に引けを取らないように、登場する怪獣のいずれもが、今にもテレビ画面からはみ出しそうなぐらいの迫力を醸し出している。その魅力は今も決して損なわないですよね。だから、僕もブルゲーターの各部位をクローズアップさせていって、相手を踏み潰そうとする煽りカットも挿入して、怪獣の魅力が伝わるように工夫しました。
――試合中、秋武さんがカメラを片手にリング下で撮影されている姿が印象的ですが、秋武さんはおひとりでカメラを回しているんでしょうか?
そうです。『怪獣プロレス』全試合の撮影をひとりでこなしています。手持ちカメラ以外に、リング上にもカメラを設置していて、あとで編集するというスタイルです。試合中は何が起こるのか分からないので、常に神経を研ぎ澄まさなければならず、僕もレスラーと同じようにアドレナリンが過剰に分泌している状態です(笑)。
●怪獣のみならず、宇宙人やUMAたちも参戦!
――『怪獣プロレス』はブルゲーター以外にも様々な怪獣・怪人・宇宙人が登場しています。
本当にいろんなキャラクターがいて、それぞれ怪獣ならではの迫力を備えている。キラーゴロゴは怪獣の中でもひときわ巨漢で、ベアハッグという締め技を得意としているんですよ。相手を抱き込んで身体全体を締め上げている姿に説得力があって、その怪力ぶりに脅威を感じました。
そういった中で異彩を放っているのが甲府星人ですね。都市伝説で有名な甲府事件(1975年に山梨県甲府市で目撃された宇宙人)をモチーフしたキャラクターで、決して強くはない。非力なので逃げ回ることしかできないんですけど、そのコメディリリーフっぷりが素晴らしくて、会場をすごい盛り上げる。必ずしも強くてカッコ良い者だけが観客に受けるとは限らない。まさにプロレスの奥深さを体現したキャラクターだと言えます。
――UMA系のキャラクターが数多く登場するのも『怪獣プロレス』の特長ですね。
試合の実況・解説にUMA研究家の山口敏太郎さんと中沢健さんが携われていますから、自然とUMAたちも参戦するようになって独特のユニバースを形成しています。
その中でも雪男モチーフのヒバゴンは典型的なパワーファイターで、ヘビー級の矢口さんとの試合は重要感溢れる内容でした。特に矢口さんがヒバゴンの首元にラリアットを打ち込んで、その勢いでふたりともマットに倒れ込んだ際、リングそのものが波打つように大きく揺れたんですよ。リング上に仕込んでいたカメラもその衝撃で跳ね上がって、ラリアットの威力がダイレクトに伝わる迫力ある映像となりました。
●驚愕!? 必殺技として光線も発射!
――『怪獣プロレス』の試合映像を観ると、ウルトラロビンという覆面レスラーが怪獣相手にウルトラマンよろしく光線を放つシーンがあって驚きました。
ウルトラロビンさんはご存知の方もおられると思いますが、『SGP』というプロレス団体でヒーローとして活躍されているレスラーです。『怪獣プロレス』にスポット参戦された際に、矢口さんから「ウルトラロビンに光線を撃たせたいんだけど、光線のエフェクトを描ける?」と言われたんですよ。
実際の試合ではロビンさんはただ構えているだけですけど、僕が編集で合成を加えて、映像作品で初めて光線を発射しているように見えるという。ただ合成作業が大変なので、ロビンさんには「光線の発射中はなるべく動かないようにしてください」とお伝えしました。
――秋武さんが光線のエフェクトまで手掛けているんですね。
編集もひとりでこなしていますから。その大会ではロビンさんと同じ『SGP』に所属している覆面レスラーの宇宙銀河戦士アンドロスさんも試合中に光線を撃つことになったんですが、アンドロスさんはアクロバティックな動きを売りとしたレスラーなので、動き回りながら光線を撃ったんですよ。しかも6発も(笑)。
編集時にスピーディーな動きからズレないように細心の注意を払って光線を描いていきました。こちらの作業は大変なことになりましたが、矢口さんはその出来栄えに満足してくれて、おかげで怪獣と相対するヒーローならではのアクションが打ち出せたと思います。編集作業ではその他に怪獣が殴る時に効果音を付け足したりして、音響面でも工夫を加えています。
●昭和特撮ファン歓喜! リングを彩るレジェンド俳優たちのパフォーマンス
――怪獣を使役する悪役として、『ウルトラマン80』(80年)などでお馴染みの萩原佐代子さんが女王ラ・メルネイ役として登場してインパクトを放っています。
萩原さんは普段は柔らかいお人柄で、僕の自主映画『法華戦隊ミョウレンジャー』(20年)などにも出演していただいた時も、優し気な芝居を意識して演じてもらいました。ラ・メルネイに関しては僕が演出をつけているわけではないので、萩原さんの演技を受け止める側なんですけど、どこか気だるい感じを醸し出していて妖艶さを際立たせている。萩原さんは『超新星フラッシュマン』(86年)でもレー・ネフェルという悪役を演じられていましたが、ラ・メルネイは、僕の知る限り萩原さんの新境地だと思います。
――他にも『超人バロム・1』(72年)の高野浩幸さんや『仮面ライダー』(71年)の佐々木剛さんも〈怪獣使い〉として出演して、昭和特撮のレジェンド俳優の生パフォーマンスも『怪獣プロレス』の見どころのひとつですね。
高野さんは子役時代からご活躍されている、ベテラン中のベテランの方じゃないですか。『怪獣プロレス』では怪獣大使オグマという司令官キャラクターで、全キャストの中でも指折りのパフォーマンス能力の持ち主です。現場での対応力が突出していて、何か不測の事態が起きてもアドリブで魅せていくので、本当に唸らされます。
佐々木さんは地獄博士というマッドサイエンティスト役で映像のみの出演なんですけど、会場内に設置されたモニター越しでも観客を惹きつけるオーラが尋常ではない。昭和の俳優さんたちは今以上に選ばれたスターであって、その中でも伝説的な作品に出演された方々は今でも存在感を放っています。
――最後に興味を持たれた特撮ファンの方にメッセージをお願いします。
怪獣お好きな皆さん、ぜひ怪獣たちが生身でぶつかり合って戦ってるところを見てほしいです。実際のレスラーたちが戦っているので、ヒーローショーとはまた異なった迫力があります。映像も配信されていますが、実際に会場にお越しになられて『怪獣プロレス』を体験していただけたら、きっと楽しい時間を過ごしてもらえるんじゃないかなと思っています。
秋武裕介(あきたけ・ゆうすけ)
映画監督、TVCMディレクター、カメラマン。自ら撮影するスタイルで数々の映像作品を手掛ける。代表作に『法華戦隊ミョウレンジャー』(20年)など。短編映画『アナログ・タイムス』(19年)は、あわら湯けむり映画祭にてグランプリ・福井鋲螺賞W受賞。神戸インディペンデント映画祭にて観客賞を受賞。
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。
2024年4月7日(日)浅草花劇場
「怪獣プロレス×浅草プロレス」開催!
OPEN 17:00/START 18:00
ジャパニーズスタイルのプロレスと怪獣と音楽が融合した総合エンターテイメント。
選手:怪獣(大巨獣ギョロン、大怪獣ブルゲーター、宇宙怪獣キングマンドラ、マミトラー、宇宙人甲府星人、PO-K2、UMAヒバゴン、犬面人、雷神矢口他)
出演:地獄博士(佐々木剛)、ラ・メルネイ(萩原佐代子)、怪獣大使オグマ(高野浩幸)、ガルロスM.I.B(神威 杏次)、BLAS、蜂女ワスパイラ、蜘蛛女タンティーナ、プリンセスミナモト(髙橋茉里奈)他
解説:山口敏太郎、中沢健、若林健治アナウンサー
制作:怪獣プロレス株式会社/プロデューサー:矢口壹琅/撮影&編集:秋武裕介
特別リングサイド最前列(お土産付):10,000円
アリーナリングサイド、2階バルコニー席:5,500円
2階立見(当日券のみ):3,500円
(すべて別途ドリンク代500円必要)
浅草花やしき 花劇場(東京都台東区浅草2-28-1)
詳細は公式HPにて
4月7日(日)
『怪獣プロレス』in 浅草・花やしき!
早くも前売り券が完売! 当日立見席が若干発売されるとのこと。
リング狭しと暴れ回る怪獣たちの熱量を実際の試合会場で体感しよう。
後日「特撮ばんざい!」でもイベントレポートをお届けします。ラ・メルネイこと萩原佐代子さん、怪獣大使オグマこと高野浩幸さんたちのコメントも掲載予定。
【速報!】
特撮ファン注目!
モノ・マガジン5月16日号(5月2日木曜日発売)は、
『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(4月26日金曜日公開)&ゴジラ70周年特集号!
乞うご期待!