メルセデスの提案するEVらしさを体感! メルセデス・ベンツEQS450+は、まるで風林火山!?

ブランド哲学の違いが分かるからクルマはオモシロイ!

輸入車の魅力を広く伝える日本輸入車組合(JAIA)が主催する大試乗会。そこでシートを獲得できたのがメルセデス・ベンツの旗艦EV、EQS。メルセデスといえばその時代において最高の技術をクルマに投入し、安全で高品質なクルマづくり「最善か無か」をブランド哲学の根幹としたクルマを世に送り出している。今回のEQSはまさにメルセデスの新しい世界観を感じられる一台。EQシリーズはメルセデスの電動化サブブランドで、末尾のアルファベットが内燃機関での該当クラス。つまりEQSは電動ブランドのSクラスだ。

メルセデスの対抗馬と目されるBMWにもi7というEVのフラッグシップがある。こちらは内燃機関(といっても骨格だけど)ベースのEVということもあり、ボディシルエットはEQSの近未来的デザインに対してオーソドックスなセダンを踏襲。興味深いのはi7は純EV専用設計ではないのだがクルマそのモノはボタンでドアが開いたり、物理的なスイッチ類が少なかったりとBMWは電気仕掛けが多く、コレぞEV! と思うはず。このあたりはメーカーがクルマに対する考え方の違いが感じられるからオモシロイ。一昔前くらいまではBMWは3シリーズが基本、メルセデスはSクラスが基本と言われていたこともある。つまりEQSこそEV時代のメルセデスの一つの回答となっているはず。そんなEQSの世界へご招待なのだ!

コンセプトカーのような空力マシン

試乗車はノーティックブルーメタリックのボディカラーが落ち着いた雰囲気を醸し出す一台。モデル名はEQS 450+。このモデルの骨組みであるプラットフォームはブランド初のEV用を新開発。そう、何を隠そう(って隠してないけれど)今までのEQシリーズ、ジツは内燃機関のプラットフォームがベースなのだ。

しかしながらメルセデスで「S」を名乗る以上そうはいかず、フラッグシップに相応しいモデルになるようゼロから設計された。「最善か無か」の ゴットリープ・ダイムラーの哲学がそこにある。

スタイリングは一目見てもコンセプトカーのようなモノ。ワン・ボウと呼ばれる「弓」を彷彿させる曲線のルーフは全体的に近未来的なシルエットを印象付ける。そしてフロントグリルには最近のダイヤモンドグリルや伝統のパナメリカーナグリルではないブラックパネル。このパネルは当然空気を入れる穴はなく、超音波センサー、カメラ、レーダーセンサーなど運転支援システムの様々なデバイスを内蔵。ボンネットは左右のフェンダーまで回り込んでいる。これはデザインだけでなく高速巡航時にボンネットが浮く現象を抑える効果もあるという。その結果、空気抵抗係数Cd値は0.20と世界最高値を記録せり。

一般的にこの数値が低いほど抵抗が少ない目安でもあるが、空気抵抗を減らせばダウンフォースが犠牲になり、ダウンフォースを優先させれば空気抵抗は大きくなってしまう難しい問題。じゃあ、空力を味方にするF1はそうとうスゴイだろうと思うのだがジツは意外に高めの0.5。オープンホイールのレーシングカーは、この数値を低くすると揚力が大きく発生するため飛んでしまったり、ひっくり返ったりしてしまうためわざと数値を高くして、大きなウィングなどで車体を地面に押さえつけているため大きくなってしまうのだ。

ちなみに市販のスポーツカーは約0.3前後、バスやトラックはおおよそ0.5〜1.0。いかにも抵抗が少なそうに後輪をスパッツで覆い、燃費を最優先にした初代インサイトは0.25。そしてスポーツカー並みに寝たAピラーの現行型プリウスは0.27。これはルーフの頂を後方に持ってきているため先代プリウスの0.24より悪化している。

閑話休題。前方投影面積もあるので一概に言えないが、EQSは量産車としては世界最高のCd値を持つ。ブランドEVのフラッグシップらしくボディサイズは全長で5mオーバーなのだが、筆者はデカっ! と言うよりもメルセデスの最上位モデルなのに、いわゆる「オラオラ」的威圧を感じないデザインが新鮮だった。何が違うのか。そう、EQSはSクラスのイメージでもある純然たるセダンのイデタチをしていないのだ。ハッチバックスタイルと相まってより斬新に見える。

また開けられるところは開けたい筆者としてはボンネットは開閉しないことにびっくり。開かない訳ではないが基本的には点検などでサービス工場でしか開かないようになっている。ユニークだと思ったのは左フェンダーに設けられた開閉口。最初、充電口かと思ったら、なんとウィンドウォッシャーの補充用だった。

室内はカタカナがあふれる映画館!?

これまた空力に効果のありそうな格納式のドアハンドルを引っ張っると、そうそうメルセデスのドアノブのフィーリングってカタチが変わっても同じだようねぇ、と思う。

インテリアの最大の特長は左右のAピラー間のダッシュボードはほぼディスプレイになっていること。17.7インチのディスプレイを中心に左右に12.3インチのディスプレイの3つでインパネが構成されるのだ。しかもこれらを一枚の曲面ガラスで覆っている。シートに身を修めるとほぼ目線下はディスプレイといった感じに。まさにホームシアターではないかーい! しかしながら3つの画面を一つの画面として映像は映せないケド。

このMBUXハイパースクリーン(以下スクリーン)のスゴイところは表示される画像情報は目でわからないがわずかに反時計回りに回転させ、有機ELディスプレイの「焼き付き」を防止するなど細かい技術もウンチクとして知っておきたい。またこれだけの全面ガラスだと万が一の時に心配になるが、スクリーンはダッシュボード内部に直接ボルトで固定されるほか左右端のエアアウトレット奥にはあらかじめ破断点が設けられるなど安全面も抜かりはないのがさすがメルセデス。

後席はさすがに広々。EV専用のプラットフォームといえばそれまでかもしれないがショーファーユースにも使われるSクラスらしさ全開だ。試乗車にはリアエンターテイメントシステムがオプションされており、より「らしさ」を感じるモノに。またエネジャイジング・コンフォートと呼ばれる設定があって、波の音や雨の音を車内に流し(もちろん擬音)リラックス効果を高め、設定次第ではマッサージも開始される。エアコンもエナジャイジングエアコントロールプラスが初採用。ナンジャそりは? とカタカナが苦手な筆者は思うのだが、これは外気をモニタリングすることで、空調の外気導入と室内循環を自動で行う。この時に外気からの空気は特殊なフィルターで清浄化、消臭される。どうりでトラックの後ろでも排ガス臭くないわけだ。

疾る孫子の兵法

するりするりと動き出したEQS。EVだからと言ってもそこはメルセデス。アクセルもやや重めのセッティングはふんわりスタートをする時や強い加速が欲しい時など加減のしやすいモノ。動的なメカニズムは107.8kWhのバッテリー容量を持ち、最大航続距離は700kmを誇る。メルセデスの支持されるところは重要部品は自社開発が多く、このバッテリー本体だけでなくその管理をするソフトウェアもブランド謹製だ。そしてリアアクスルに電動パワートレインを搭載する後輪駆動で、その出力は245kW。馬力で申し上げるならば333PSになる。また日本仕様の特別な装備として非常時などにクルマを電源として使えるよう、V2H/V2Lに対応するのも特長。またこれだけの容量を持ちながらも50kW相当のCHAdeMO急速充電器を使って約110分で残量10%から80%まで充電できる。

バッテリーは当然床下に。EQSのホイールベースは3210mmで、内燃機関Sクラスロングとほぼ同じ。長いホイールベースは前出のバッテリーを多く載せるためにも後席の足元スペースの確保にも有用という訳だ。そして5mを超えるボディサイズ、かようなロングホイールベースを持っていてもメルセデスの美点としても知られる取り回しの良さは健在。後輪もステアリングの動きに合わせてステアするのだが、リアアクスルステアは通常で最大4.5度。メルセデスミー(スマホ用のアプリなどが主のサービス)でオプションのソフトウェアを購入することでさらに切れ角は増え、10度まで切れる。その場回頭ができそうな勢いだ。しかし唯一これに慣れが必要かもしれないと感じたのは極低速域、車庫入れなどでハンドルを切っていくと途中から小回り増し増しな印象になる時だ。

料金所からの加速や合流などでスロトルを全開にすると、力強く滑らかに速度を乗せていける。しかし「EVの」を期待するとそれは少し違う。EQSはあくまでもオトナである。絶叫するような体感加速はそこにはない(十分以上に速いケド)。もしそれを望むのならばAMGブランドで658PSを誇るEQS53というのが控えている。

それにしてもすこぶる乗り心地がいい。路面の段差は柔らかく通過しすぐその揺れが収束する。かといってレーンチェンジに気を使うか、というとそれは皆無。ある程度車重がある方が乗り心地がいいと言われるが、EVということを抜いてもエアサスと可変ダンパーの相性が絶妙だと思う。言うなれば蕎麦には長ネギ的といった絶対的「高」相性なのだ。このエアサスは120km/h以上で車高が10mmダウンする。日本ではサーキット以外では体感できないが160km/h以上でさらに10mm車高が下がる仕掛けもある。

また意地悪にキックダウン(キックバックではない)を何度か試してみたが、あからさまに残りの航続距離が一気に何十km単位で減ることはなかったのも実用的だ。筆者がもうひとつびっくりしたことがある。それは高速は電費が著しく落ちるEVだがメルセデスは違うことにカルチャーショック。ガソリンエンジン並みに電費が向上せり。これって空力ボディの恩恵かもしれぬ。EVならではの回生ブレーキはステアリングのパドルから、強、普通、回生なしの3段階から任意で選択できる。

EQSは武田信玄で有名な孫子(中国の春秋時代の思想家)の兵法、いわゆる「風林火山」のようなクルマ。風のように速い。林のように車内は静か(静粛性に加えて前出のエネジャイジング・コンフォートしかり)だし、加速すれば烈火のような加速が感じられる。その安定性は山のごとし。加えて内燃機関の消耗品といったパーツもないのでランニングコストも良さそう。EV本格普及時代は近いのかも?

メルセデス・ベンツEQS450+


価格1563万円から
全長×全幅×全高5225×1925×1520(mm)
システム最高出力333PS
システム最大トルク568Nm
一充電走行距離700km

メルセデス・ベンツ
EQS
問メルセデスコール 0120-190-610

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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