日本警察において、防犯活動、事件や事故の対処など、治安維持のために必要な様々な事案に対処するヴィークルがパトカーです。警察官の足として使われるだけでなく、街中を流すだけで、犯罪の抑止にも繋がります。まさにパトカーの存在そのものが警察官と同じ役割を果たしているのです。
日本は、自治体ごとに警察本部を置いています。首都警察である東京都は別格であり、「警視庁」と名乗っていますが、その他は「神奈川県警察」「大阪府警察」「北海道警察」……といった具合に自治体名を冠しています。
それぞれの警察本部にパトカーが配備されています。車体には、警察本部名がきっちりと記されています。
そのパトカーですが、大きく分けて3つの方法で調達されています。
まず「国費購入」です。これは警察庁がパトカーを調達し、全国の警察本部に配備する方法です。例えば全国どこでも見ることが出来るトヨタ・クラウンのパトカーは、国費購入の代表格です。
そしてもうひとつが「自治体費購入」です。これは各自治体の予算で購入します。そのため、警察本部ごとに運用方法を考慮し、それに見合ったパトカーを選ぶので、独自色が現れます。
最後が「寄贈」です。自動車メーカーなどが、警察活動への協力として、パトカーを寄贈する例があります。
この「寄贈」という方法で、変わり種パトカーを次々と配備している警察本部があります。それが栃木県警です。
2020年、栃木県警はあるパトカーを配備したことで話題となりました。
それが「レクサスLC500」です。標準販売価格1500万円もする高級車がパトカーとして登場したのですから、注目されないわけがありません。
車体の前と後ろにはレクサスのエンブレム。後部にはグレードを示すLC500も。
もちろん、警察庁がこの車種を選び、我々の税金を使って購入したわけではありません。さすがに、財務省も納得しないでしょう。当然ながら栃木県の予算で購入したわけでもありません。財政がいかに潤沢な自治体であろうと、県民を納得させるのは至難の業でしょう。
ということで、この車両は寄贈という方法が取られました。
2020年9月18日、栃木県庁前にて、「栃木県警察レクサスLCパトカー寄贈式」が執り行われました。ここで、福田富一県知事に大きなレプリカキーを手渡したのは、NPO法人に類する団体でも企業でもありません、なんと“個人”です。その方は、県内在住の中村和男さんです。警察マニアの間では非常に有名な方であり、もはや栃木県警には欠かせない人物となっております。
このように国産高級車をパトカーとして個人が寄贈するというのは、全国的に見ても非常に珍しい例です。同式典にて、原田義久栃木県警本部長(当時)より中村さんへと感謝状が手渡されました。
この日引き渡されたLC500は、その後交通部交通機動隊へと配備されました。さすがにパトカーだけあり、詳細なスペックは非公開です。市販車ベースに見ていくと、V型8気筒5.0リッターエンジンを搭載している2WDのガソリンエンジンモデルです。今では、交通安全イベントに引っぱりだこです。このLC500目当ての来場者も多く、栃木県警のシンボルとなりました。
実は中村さんが高級車をパトカーとして寄贈したのはこれが初めてではありません。
2018年には、驚きのGT-R(R35)を寄贈しました。こちらはなんと約1800万円もします。これまでもスカイライン時代のGT-Rを配備する警察本部はいくつかありましたが、R35を配備したのは栃木県警のみとなりました。この年、日産栃木工場が創業50周年を迎えました。日産側にとっても非常に名誉な事だったでしょう。
配備先は“高速隊”こと、交通部高速道路警察隊で、東北自動車道の鹿沼インターチェンジの横にある鹿沼分駐隊です。
さらにメーカーからの寄贈もありました。それもなかなかマニアックな車種です。
それが2007年に日産から寄贈されたフェアレディZ(Z33)と、1999年にホンダから寄贈されたNSX(NA2)です。いずれも現役です。なお、NSXにつきましては、2代目となります。初代NSX(NA1)は1992年に寄贈されましたが、取り締まり中に事故にあって廃車となりました。
日産から寄贈されたフェアレディZ(Z33)。車体後部からみるとnismoのロゴが輝く走り屋仕様がカッコイイ。
さらにさかのぼると、1973年にJA共済連栃木が、マスタング・マッハ1を寄贈しました。1984年まで現役でした。
改めて、栃木県警のパトカーラインナップには驚くばかり。それも高級車やスポーツカーが次々と寄贈される不思議な環境です。
これらは、県内で行われる交通安全イベント等に積極的に参加しており、目にする機会も多くあります。栃木県警のホームページにイベント予定がアップされていますので、皆様もこれらレア車種に直接触れてください。