特撮ばんざい!第48回:世界的大ヒット『ゴジラ×コング 新たなる帝国』から半世紀前のメガヒット大作をもう一度! 元東宝東和の宣伝マン・竹内康治が語る1976年版『キングコング』の熱狂!(前編)


かつて『キングコング』が公開された有楽座の跡地である日比谷シャンテに、宣伝マン竹内氏とキングコングが帰ってきた! 1976年12月、隣り合った日比谷映画の『カサンドラ・クロス』と激烈な映画宣伝合戦を繰り広げて新聞紙面を賑わせた、エンタメの古戦場がここだとは、今となっては誰も知るまい・・!

いつの時代も映画興行シーンにビッグな祭りを巻き起こす大スター・キングコング! 4月26日から公開中の『ゴジラxコング 新たなる帝国』も話題沸騰の今、1976年の日本に雄叫びを響かせた、ジョン・ギラーミン版『キングコング』に、改めてスポットを当てる。永遠なるキングコングの魅力に迫る!

写真/鶴田智昭(WPP)、モノ・マガジン編集部 取材・文/須藤統三

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⚫︎ジョーズを倒すのはキングコング!

――1933年の『キングコング』以降、数々のキングコング映画が作られましたが、日本で大ヒットした76年の『キングコング』に愛着がある人も多いと思います。『ジョーズ』が特大ヒットを飛ばし、『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)や『タワーリング・インフェルノ』(74年)などパニック大作が人気を博す流れの中で出現したのが『キングコング』! まさにあの熱い時代に、東宝東和で映画宣伝をされていたのが竹内さんですね!

竹内 あの頃は東宝東和に入った7年目で、『キングコング』のことは、よく覚えてますね。当時『ジョーズ』(75年)がアメリカの歴代興行記録の1位だったので、「『キングコング』が『ジョーズ』に挑戦するんだ!」ということでアメリカでもぶち上げていましたし、東宝東和も全力でこれにかけようと盛り上がっていました。

――そもそもどのような経緯で『キングコング』を東宝東和が配給することになったのでしょうか。

竹内 プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティス(イタリアの映画プロデューサー。『天地創造』(66年)『フラッシュ・ゴードン』(80年)など大作で有名)に直接交渉したんです。元々ラウレンティスと東和は付き合いがあったんですが、『キングコング』のときは「今後ラウレンティスの映画は全部東和が買う」という条件でした。この後の『オルカ』(77年)もそうですし、小さい映画も全部東宝東和で配給するという。金額も東和史上最高の買い付け金額で、100万ドル+αだと聞きました。

――1ドルが約300円の時代だから3億円以上で買い付けですか。それだけで大作映画が一本作れる金額ですね。ちょうど東宝グループとなり、社名が東和から東宝東和になって意気軒高だった時代でしょうね。

竹内 東宝に東和の株の70%をほとんど持ってもらって、東和の新しい時代が『キングコング』から始まったという感じですね。東和と東宝グループで総力を結集して取ってきた作品、という感じじゃないかな。

――総力を結集! 東宝はゴジラシリーズの本多猪四郎監督と円谷英二特技監督のキングコング映画『キングコング対ゴジラ』(62年)、『キングコングの逆襲』(67年)を製作していましたが、キングコングにこだわりはあったんでしょうか。

竹内 それは多少なりともあったんじゃないでしょうか。メジャー系のパラマウントやユニバーサルが配給する場合、日本の配給はどこになるかわからない。松竹系の方が拡大公開しやすいこともあり、『エクソシスト』(73年)や『ジョーズ』(75年)は結局松竹系に行っちゃった。東宝としては当然「キングコングは東宝系で」と思っていたでしょう。

――竹内さんに持ってきていただいた、この壁新聞でも「キングコングはポスト『ジョーズ』だ!」と煽ってますね。やはり『ジョーズ』はかなり意識されていましたか。

竹内 それはもう。「ポスト・ジョーズ」というのはアメリカでも言われてました。

ブームは起こるものではなく作るものという力技がギンギンの壁新聞。「ロッキードもひとつかみ!」ロッキード事件で田中角栄元総理が逮捕された時代の風刺が効いてる! 新聞各紙もコングブームを煽る!

――『キングコング』の配給権を取った後、どのように宣伝を進めていきましたか。

竹内 まずは76年の2月に記者会見をして、東宝東和が買い付けたということを発表しました。今みたいにアメリカのニュースがそんなしょっちゅう入ってこない時代ですから、小刻みにいろんなキングコングの話題をマスコミに取り上げてもらって、公開初日が12月18日と決まってからは、劇場に向けての打ち出し。あとはポスターですね。

――デザインやビジュアル面はどのように進めていたんでしょうか。

竹内 デザインは東宝アドセンターが担当します。ポスターは何種類も作りましたが、コングが掴んでるジェット機や背景を描き換えたのは檜垣紀六さん(ひがき・きろく 『燃えよドラゴン』(73年)『ランボー』(82年)『ブレードランナー』(82年)など600作以上の映画ポスターを手掛けた映画図案士)じゃないかな。中身のキャッチコピーや文字を考えるのは、東宝東和宣伝部のアドチーム。壁新聞なんかはアドチームで作ってると思います。

――宣伝の参考もやはり『ジョーズ』ですか?

竹内 そうですね。『ジョーズ』はシンプルに水面に向かってくるサメの正面顔のインパクトで推していましたが、『キングコング』は世界貿易センタービルで戦うコングや、大蛇に巻き付かれた姿など、4種類の絵柄で、映画の見どころをアピールするポスターでした。絵柄はアメリカ本国から来たもので、当時アメリカ映画のビジュアルを勝手に日本で変えることはできなかった。ちょっと描き足した程度です。ヨーロッパ映画だと、ビジュアルもある程度自由に作れるんですが。

⚫︎甲子園に現れたキングコング

――『キングコング』は全国でさまざまな宣伝をしたかと思います。

竹内 東宝東和の関西支社のアイデアだったと思いますが、甲子園球場でキングコングのぬいぐるみを着てうちわを配ったりしましたね。キングコングTシャツを着た女性たちも一緒に配って、それがあとで「キングコング・ガールズ」なんて呼ばれました(笑)。

――まさにこのTシャツを着てたわけですか。当時は人が集まる場所といえば野球場は代表的だったでしょうね。

竹内 そうです。コングガールズは20人くらいいたと思います。あとは九州で「博多どんたく」にコングを出したいという意見もあったけど、間に合わなかったんじゃなかったかな。

――縫いぐるみのキングコングを使った宣伝はされたんですか?

竹内 ぬいぐるみは、甲子園と、劇場の初日ぐらいしか使わなかったんですよ。やっぱり見た人に「小さいな」って思われるしね。それより巨大な看板をあちこちに設置するということで、大きいことをアピールしました。「

――怪獣映画宣伝の常套手段であるぬいぐるみは、あえて使わない方針だった。

竹内 「大きさを前面に出す」というのはこの映画の宣伝テーマですから。海水浴場に移動板という2、3メートルくらいの看板を置いたり、日劇の屋上に巨大看板を出したりだとか、そういう宣伝が主力でした。宣伝費のほとんどは看板と新聞広告に使ってますよ。

――破格の宣伝費だったようですが、おいくらほどかけたんですか?

竹内 3億6千万円ぐらいかな。

――3億6千万!買い付けに3億、宣伝にも3億5千! 当時の宣伝資料を見ても、大量の宣材が計画されていますね。

竹内 ポスターも種類とものすごい枚数を作ったし、うちわ、缶バッチ、Tシャツ、ジズソーバズル、大型マッチ。とにかくあらゆる宣材を作りましたね。

――資料にあるパンチキックは、あの頃に流行った風船タイプのおもちゃですね。

竹内 そうそう、2メーターぐらいある起き上がりこぼしですね。並べて宣伝して、ぬいぐるみよりこっちのほうが良かった。それから劇場に録音テープで、キングコングの鳴き声を流したり。物量に関しては、東和史上最大ですよ。

――漫画やレコードも出していますね。

竹内 子門真人の「ガオー!はキングコングの合い言葉」とかね。当時はテレビスポットよりラジオでの宣伝がメインだったので、音楽が重要だったんです。

所蔵のドーナツ盤を持つ竹内さん。

――監督のジョン・ギラーミンとヒロインのジェシカ・ラングの来日も話題になりました。

竹内 マスコミの数がすごかったですよ。パブリシティのスタッフが担当するから、僕らはちょっとガードして、記者会見を手伝っただけですけど。ジェシカ・ラングはキレイでしたね。

――『キングコング』のパンフレットで、ジェシカ・ラングの胸が、いわゆる「ポロリ」か? という際どい写真が載ってますが、あれは狙って載せたんでしょうか。

竹内 パンフレットは東宝東和が作ったプレスシートをもとに、東宝事業部で作ってますが……もちろんわざとでしょう。セクシーな話題で『プレイボーイ』とかの男性誌にとりあげてもらうことで注目される。映画によってはコマ抜きしたりもしましたが、ジェシカ・ラングのあの写真は元からあったんじゃないかな。だからもちろん使っていい写真です。昔はあれくらい普通でしたからね。

――ヘラルドが同日に、大陸横断特急が細菌兵器に冒されるサスペンスパニック大作『カサンドラ・クロス』を公開することも話題となりましたが、意識はされていましたか。

竹内 「仕掛けてきたな」と思ってました。ヘラルドさんは『バラキ』のときに、「『ゴッドファーザー』は偉大なる予告編に過ぎなかった」っていうコピーを打って、A級映画に噛みつく宣伝を得意技にしてましたから。

――『カサンドラ・クロス』は『キングコング』を宣伝に利用していましたね。

竹内 そうなんです。「カサンドラツアー」と銘打って、マスコミ100人ぐらいをヨーロッパの完成試写会に連れていって、そこで「キングコングに挑戦するんだ!」みたいなことを言って煽ってましたよ。

⚫︎公開初日の銀座事変

――12月18日に初日を迎え、遂に雌雄を決する時が!

竹内 初日は本当に大変でした。『キングコング』はキングコング・ガールズが有楽座でキャンペーンをやって、『カサンドラ・クロス』は隣の日比谷映画で白い防疫服を着た男たちがズラリと並んで宣伝してたんです。そうしたらその防疫服の男たちが有楽座にジープでバーっと乗り込んできて。

――打ち合わせなしでですか?

竹内 ヘラルド側が勝手にやったんですよ(笑)。こっちに寄るってことは聞いてたけど、ジープから降りて機関銃でバババっと撃つ真似するもんだから、キングコング・ガールズもびっくりしてね。僕はたまたま写真を撮ろうとして脚立の上にいたんで、驚いて落ちそうになったところを、マスコミに写真に撮られちゃって。次の日のスポーツ新聞かなんかに「コング落ちる」なんて書かれて、参りましたよ(笑)。

――それだけ『キングコング』対『カサンドラ・クロス』は注目の対決だったんですね。

竹内 注目を集めましたね。対決といっても現場同士は仲良くて、今でも当時のヘラルドの宣伝マンたちとの付き合いが続いてます。

――『キングコング』は30億円、『カサンドラ・クロス』は15億円という記録が残っています。どっちも大当たりの成績ですね。

竹内 ただ、『キングコング』は初日は思ったより伸びなくて、新聞に追い告(追加広告)を打ったりしました。最初は老若男女すべての客層がターゲットだったけど、実際始まったらファミリー層が強かったんです。怪獣映画で売るつもりはなかったんですけど、「ゴジラ」も子供向きのファミリーでしたしね。同じような客層でヒットした。ただ、当時は吹き替え版がないですからね。吹き替え版があれば、さらに子供を引き付けて、数字が伸びたと思います。

――公開直後は、客層が大人に絞られていたんですね。

竹内 だから新聞で「『キングコング』が『カサンドラ・クロス』にやられた」なんて書かれてね。初動は、有楽座の『コング』より日比谷映画の『カサンドラ』の方が、数字が良かったんですが、こっちは銀座で3館上映していて向こうは1館ですから、当然なんですよ。

――なるほど、『キングコング』の方が、公開規模が大きかった。それで銀座地区の観客が3つの劇場に分散して、単館で比べた場合は『カサンドラ・クロス』のほうが上になったと。

竹内 ええ、でも宣伝部長は、初日の『キングコング』の出だしが悪くて、その後に過労で倒れちゃって。

――え! そんなにショックを受けるほどの数字だったんですか?

竹内 最終的に30億円の大ヒットですが、初動は、とてもそんなにいくような数字ではなかったんです。「絶対当てなきゃいけない」って思いがあったから、そうとうショックだったみたいで。1〜2ヶ月ぐらい休んでました。

――ヘラルドの古川勝巳社長は取材で「キングコングの片足くらいには噛みついてやれ!」と言っていたそうですが。

竹内 いやぁ、片足以上にきましたね。当時で配給収入15億までいったわけですから。『カサンドラ・クロス』は『キングコング』にぶつけてなければ、こんなにヒットしなかった。世界で当たったのは日本だけでしょう。これは本当にうまい宣伝だったと思います。

――初速の不安はあったものの、結果『キングコング』は77年の配給収入一位となります。

竹内 冬休みに入ってグーンと伸びた。12月25日から親子連れがいっぱい来て、正月がものすごかったんです。配給収入30億で、翌年の『スターウォーズ』までは東宝系の最高記録でした。

――それだけの大ヒットなら、お給料があがったりしたんでしょうか?

竹内 東宝東和になったので東宝より給料高くはできないけど、ボーナスは多かった(笑)。あのとき、2月の決算期には3回目のボーナスが出たんじゃないかな。

⚫︎『ゴジラ×コング 新たなる帝国』の原点

――当時は「ゴジラ」シリーズが途切れていましたが、この映画が「怪獣映画は大人も見られる」という空気を作り、しかも大ヒットしたことが、8年後の『ゴジラ』(1984)の復活に繋がったという見方もできますが、いかがですか。

竹内 それはあったんじゃないですかね。東宝は、『キングコング』が当たるか動向を気にしていたと思いますよ。今後『ゴジラ』をどうするか参考になりますからね。世界的に怪獣映画ブームみたいな流れもあったし、『キングコング』がヒットした後、「またゴジラも出てくるんじゃないか」と思ってました。

――その縁深いコングとゴジラが今もスクリーンで活躍中ですが、その後のキングコング映画はご覧になっていますか?

竹内 全部見てますよ。どれも面白いですが、最近のコングはちょっと強すぎますよね(笑)。今回はどうなってるのか、楽しみです。

後編へ続く

<特別付録!>

竹内氏所蔵の貴重な資料「今世紀最大の映画『キングコング』宣伝プラン」を一挙公開! テーマ、宣伝戦略、スケジュール、宣材一覧など≪映画界のお祭り≫にするためのプランが書かれている。

<後編はこちら

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