海外発祥の最恐の都市伝説×日本古来の呪術!? 新感覚ホラー映画『THIS MAN』天野友二朗監督&主演・出口亜梨沙さんインタビュー!


2006年頃、ニューヨークの精神科で女性患者が「夢の中で眉が繋がった奇妙な風貌の男と出会った」と訴えた。その後、世界各地で「自分も夢で同じ男を見た」という証言が多発。この「THIS MAN」と呼ばれる世界的規模の都市伝説を日本独自の解釈で再構築した映画が6月7日に公開される。

監督は『幸福な囚人』や『わたしの魔境』などの社会派作品を手掛けてきた天野友二朗さんで、本作も呪術という日本ならではの要素を加えながら、混迷を極める現代社会を鋭く風刺した内容となる。主演は舞台やグラビアなど幅広いジャンルで活躍し、本作が映画初主演となる出口亜梨沙さん。今回、おふたりに話題作『THIS MAN』についてお話を伺った。

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取材・文/今井あつし、写真/モノ・マガジン編集部

<あらすじ>
とある地方都市で変死事件が連続して発生した。刑事たちの捜査により、被害者たちはいずれも死ぬ前に夢の中で眉の繋がった不気味な男を見たことが判明。この男と夢の関係はメディアに取り上げられ、人々を恐怖に陥れた。夫の義男(木ノ本嶺浩)と娘の愛と共に幸せに暮らす八坂華(出口亜梨沙)の周囲も次々と異変が起き、職場の上司や友人たちが謎の死を遂げる。そして、遂に華の夢の中にも不気味な男が現れてしまい……。果たして華が取った行動とは?

『THIS MAN』公式HP

●海外発祥の都市伝説を映画化するにあたって

――本作は「THIS MAN」という海外発祥の都市伝説を日本独自に解釈した内容で、しかも出口さんは初めての主演作とのことですが、なぜ「THIS MAN」を映画にしようと思われたのでしょうか?

天野 数年前にインフルエンザで寝込んだ時に、何気なく観たYouTubeの動画で初めて「THIS MAN」を知りました。人々の夢に現れる謎の男という都市伝説は国や世代を越えた面白さがあり、マーケティングの面から見ても話題になると判断して、映画化の企画を立ち上げました。それで主演に応募してきてくれたのが出口さんだったんですよね。

出口 はい。初めての主演作で嬉しかったんですけど、実は都市伝説やホラー映画が苦手で、初めて台本を読んだ時はピンと来なかったんです。私が演じる華というキャラクターにしても、自分とは正反対の性格で、現実にいたら友達にならないと思いました。

天野 そうだったんだ。最初はこの映画に入り込むのが難しかった?

出口 ええ。だけど、撮影前に監督がホン読みにかなりの時間を割いて丁寧に説明してくれたおかげで、華の役柄を掴めました。映像作品の監督さんでここまでホン読みを大切にされる方は珍しいと思います。ただ、「参考のためにアリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』という映画を観てください」と言われたんですけど、怖くてなかなか観れずにいて(笑)。

天野 そうそう。「観た?」「まだ観てません」というやり取りが2、3回続いて、ようやく観てくれたんだっけ(笑)。

出口 とても怖かったです。

――『ヘレディタリー/継承』は海外の映画祭で「21世紀最高のホラー映画」と評された作品ですから。

出口 「監督が描きたい世界観は、これか!」と納得しました。良い意味でプレッシャーが出ましたね。

天野 アリ・アスター監督のような新しい感覚に溢れた作品にしたくて、そのイメージを共有してほしかったんです。クリエイティブな現場は、準備段階で勝負が決まると思っているので。

出口亜梨沙さん演じる主人公の八坂華(右)。頼りなげながらも芯を持った女性。
華の目の前で急に息を引き取る店長(演じるはアキラ100%)。何気ない会話シーンから不測の事態へと急展開する。夢の中で不気味な男を見た者はこのような末路を迎えてしまうという世界観を提示。

●不穏な空気を醸し出すテンポの良さと巧みな編集術

――本作はどのシーンも細かくカット割りされていて、そのテンポの良さが逆に不穏さを醸し出しているように感じました。スタッフ・キャスト共に大変な現場だったと思われますが。

天野 編集にはかなりこだわりました。海外でも評価を得ている日本の監督の作品はどれもテンポが良いんですよね。洋画にしても、クリストファー・ノーラン監督は重たい画に見えて、テンポよくカット割りしているので観ていて心地良いんです。

出口 でも、天野監督は現場ではシーンの頭から最後まで長回しで撮っていましたよね。

天野 僕は長回しでシーンの最後まで撮ったら、また別のアングルで同じシーンを撮って、より良いカットを選ぶスタイルなんです。俳優さんたちは気持ちを込めて演技しているのに、カットごとの撮影だと、テンションがブツ切りになってしまう。

出口 確かに私は舞台のほうが経験豊富なんですけど、映像作品ではカットごとに撮影することが多くて、そこで戸惑ってしまうんですよね。そういった意味では、天野監督の現場は負担を感じることなく、芝居に集中できました。

天野 今の10代・20代の若者はTikTokなどで短い動画に慣れ親しんでいるから、映画の表現方法も刷新していかないと。

出口 天野監督は撮影が終わると、すぐに仮編集して、私たちに映像のイメージを細かく伝えてくれました。本当に余念がなかったです。

天野 それまで僕は幾つか映画を手掛けてきましたが、どれも映像のスキルに関しては納得していないんです。だから、この映画のために徹底的にカラーグレーディングを勉強して、編集も勉強し直しました。

●主人公に優しく寄り添う夫役に木ノ本嶺浩

義男を演じるのは『仮面ライダーW』の仮面ライダーアクセルこと照井竜役で知られる木ノ本嶺浩さん。

――出口さん演じる華の夫である義男役に木ノ本嶺浩さんが配役されています。常に優しく華に寄り添う姿が印象的でした。

天野 義男は当初ワイルドなイメージでしたが、気弱な華に寄り添うとしたら優しい人物だろうと方向転換しました。それでこの映画で刑事役を務める津田寛治さんの事務所から、津田さんの相棒の刑事役として木ノ本さんを勧められたんですよ。木ノ本さんのプロフィールを見てみると、刑事よりも繊細な義男役のほうが合っているんじゃないかと思ってキャスティングしました。

出口 津田さんの事務所からも信頼されているように、木ノ本さんは芝居に入る前に気持ちをしっかりと作り込んでいる、非常に真面目できめ細やかな方でした。

天野 木ノ本さんは根っからの役者ですね。例えば、物語の中盤で悲しみに打ちひしがれる華と義男のシーンで、木ノ本さんがアドリブで涙を流したんですよ。そのおかげで出口さんの虚無的な表情がより際立ちました。

出口 私、いまだに映像の現場に不慣れなところがあって、この映画でも「このシーンでは、どういった芝居をすれば正解なのか?」と考え込んでしまったことが何度かあるんですよ。木ノ本さんは正解を分かっていらっしゃるのでしょうか?

天野 芝居に関して絶対的な正解なんてないでしょう。特に映像作品はどんなに気持ちを作り込んでいても、それがキチンと映し出されていないと意味がない。木ノ本さんが内面から作って表に出していくタイプだとすれば、出口さんはそれを受け取ってアウトプットするタイプだと思います。

一人娘を囲んで幸せに包まれる華と義男。しかし、「THIS MAN」の毒牙が容赦なく2人に襲い掛かる……。

●現場でも抜群の存在感でまとめ上げた津田寛治。必死に役に取り組んだ鈴木美羽

連続変死事件の謎を追う刑事役に津田寛治さん。抜群の存在感で、もうひとりの主人公というべき活躍を見せる。

――津田寛治さんが「THIS MAN」による連続変死事件を追う刑事役で出演して、主人公の華とは異なる立場からストーリーを牽引します。

出口 この映画で華と津田さん演じる刑事が対面するのはワンシーンのみで、物語上それほど接点がないんですよね。

天野 そうそう。津田さんは「THIS MAN」の恐怖を俯瞰して観客に伝える、狂言回しとも言える存在なんです。いずれにしても、いろんなタイプの俳優がいる中で、津田さんは監督の視点にも立てる稀有な方ですね。

出口 本当に映画の現場が好きな方だと思います。私たち若手を上手くまとめてくださいました。津田さんにお会いしたことで、「ちゃんとしないといけない」と気持ちが新たになりましたね。

天野 非常に頼もしかった。こちらの意図を汲み取って、完成形を頭の中に思い浮かべながら演じている。映画を作り上げるという、創作そのものが好きな感じを受けました。

事件を捜査していく中で、被害者の共通点として夢の中に謎の男が現れたことを突き止めるが……。

――華には女子高生の妹・小田玲がいて、彼女と接する際に華が妻や母親ではない一面を覗かせるのも興味深かったです。

天野 主人公とは違う世代の女性の視点もあったほうが良いだろうと思って、女子高生の妹を登場させました。出口さんと鈴木さんは撮影に入る前にかなり読み合わせしたんじゃないかな。

出口 そうですね。木ノ本さんの次に鈴木さんと読み合わせしていきました。聞き役に回ることが多かった華に対して、玲は10代の女の子らしく日常の些細なことも面白おかしく話す役柄なので、鈴木さんは大変だったと思います。

天野 華は落ち着いた大人なので、反対に玲はカロリーの高い芝居をしてほしいという狙いがあったね。読み合わせの際に、僕が「こうしてほしい」と指示すると、鈴木さんのマネージャーさんが細かくメモを取るんです。それで次の読み合わせになると、ちゃんと指示通りに鈴木さんは仕上げてきてくれて、非常に感動しました。

出口 かなり難しい指示もあったと思うんですけど、鈴木さんは熱意を持って玲に取り組んでいました。玲とのシーンは私もやりやすかったです。鈴木さんのおかげで華のキャラクターにも幅が出たと思います。

華の妹である玲。演者は現在放送中の『爆上戦隊ブンブンジャー』でブンピンクこと志布戸未来役の鈴木美羽さん。等身大の女子高生を瑞々しく演じた。

●物語は日本ならではの展開に! 実際に撮影現場で異変も発生!?

呪術師の雲水に救いを求めた華と義男。雲水から思わぬ真実が明かされる……。呪術師の雲水を演じるのはベテラン俳優の渡辺哲さんで、貫禄ある演技により呪術師という設定に説得力を与えている。

――物語中盤で華自身も夢の中で「THIS MAN」に出会ってしまいます。そこで渡辺哲さん演じる呪術師の雲水が現れて、物語は思わぬ展開を迎えますが。

天野 海外の都市伝説とは言え、日本映画ですから土着的なものに落とし込む必要があっった。人によってはいきなり呪術が出てくるので戸惑うかもしれませんが。

出口 私自身、この展開はすんなりと受け入れられました。それまで職場の上司が目の前で息絶えたり、友人が不審者に殺されたりして、恐怖に追い込まれる描写が丁寧でしたから。追い詰められた華が呪術師にすがりたくなる気持ちも理解できました。

天野 主演俳優がそう言ってくれると心強い(笑)。雲水は泥だらけになりながら必死に祈祷を捧げるので、渡辺哲さんがピッタリだと思いました。渡辺さんは強面と同時に愛嬌もあって、浮世離れした呪術師に人間的な深みをもたらしている。

出口 現場で渡辺さんが「このシーンの撮影は、いつ始まるの?」と気さくに話しかけてくれたのが印象的でした。華と雲水が祈祷を上げるシーンは、伊豆大島のロケだったんですけど、撮影後に部屋に戻ると、キャリーバッグの鍵が壊われて暗証番号が「222」に変わっていました。ちょっと不気味じゃないですか。

天野 誰かの悪戯なんじゃないの?

出口 誰も部屋に入った形跡がないんですよ。不安になっていると、雲水の弟子役で出演されているお笑い芸人の中山功太さんが、「222は恋愛に関する数字だから、その方面で良いことか悪いことがあるかもしれないよ」と言ってきて、一体どっちなんだろうと(笑)。今もかなり気にしてます。

●過酷な現実を照射しながらも、描くべきテーマは人と人との繋がり

――本作で「THIS MAN」の恐怖が広がっていく様は、コロナ禍のメタファーとして受け取れます。天野監督は『幸福な囚人』や『わたしの魔境』など、現代社会を風刺した作品が多いですが。

天野 映画は現実の過酷さを訴える必要があると思っています。ただ、今まで僕が手掛けてきた作品は現実を超えていなかったんですよね。やっぱり現実を乗り越えるものを描いてこそ映画だと改めて思いました。

出口 そうですよね。この映画はショッキングなシーンもありますが、天野監督はそれ以上に人間ドラマを大切に作り上げていきました。普遍的なテーマを持つ作品になったと思います。

――最後にこれから本作を鑑賞するファンの方にメッセージをお願いします。

天野 今回の映画はホラーの体裁をとっていますけど、絶対に失ってはいけない人の絆を描いたつもりです。観終わったあとに「身近な人をもっと大事にしなくては」と思う人が増えてくれたら嬉しいですね。

出口 私が演じる華は「THIS MAN」によって様々な不幸に翻弄されますが、困難な状況の中で大切なものに気づかせてくれる内容になっています。映画として純粋に楽しんでいただければと思います。

天野友二朗(あまの・ともじろう)
映画監督。1990年生まれ。医学系研究分野出身。現在は広告代理店「Union Inc.」マーケティング事業部に所属。カナザワ映画祭2017に自主製作映画『自由を手にするその日まで』が審査員特別賞受賞。2019年12月に『幸福な囚人』が公開。オウム真理教事件を元にした『わたしの魔境』(23年)は世界11カ国で国際映画祭を受賞。YouTube映画『復讐代行人』も話題に。

出口亜梨沙(でぐち・ありさ)
1992年生まれ、大阪府出身。テレビ情報番組でのリポーターとして活動を開始し、2017年よりグラビアアイドルとしても活動を開始。2019年には週刊ヤングジャンプ創刊40周年を記念した「SS ELEVEN」に選抜。グラビア活動と合わせて女優としてもドラマ、映画、舞台で活動。近年の主な出演作として映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』(21年)、TVドラマ『ブラックポストマン』(22年)、舞台『宇宙戦艦ティラミス』(22~23年)など多数。

今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。

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