日本で一番リーズナブルなガイシャ? BYDドルフィンに乗ってきた。「イルカに乗った中年」は快適楽チンドライブ!

EV戦国時代の駆逐艦かフリゲート艦が上陸

EV列強国、中国。BYDは日本へ上陸した真新しいブランドになるけれど、海外では300万台以上を販売し世界の自動車販売台数トップ10にランクインする新興自動車メーカーだ。一昨年は日本での主力モデル、ATTO3(以下アット3)を導入し話題になった。そのアット3は驚異的なコスパを誇り、日本市場への切り込み隊長として存在感をアピールする。

今回日本自動車輸入組合の試乗会でステアリングを握れたのはその弟分でもあるコンパクトEV、ドルフィン。アット3が日本市場への主力艦とするならば、ドルフィンはその主力艦を護る駆逐艦かフリゲート艦といったポジションになる。艦船の話だと艦自体にそれぞれ役割があるように小さいから装備を省いているとかはまったくなく、それぞれ任務用途に応じた装備を持つ。まさにドルフィンもそうだった。ドルフィン級EV、いざ出港! なのだ。

ガイシャといっても価格の敷居は低いゾ

ドルフィンは2023年9月に発売されたBYD日本導入の第2弾になる。クルマ自体は中国本国で2021年に発売されており、今回満を持しての日本上陸。ボディサイズは日産のキックスとほぼ同じ。海外マーケットでは1557mmの全高なのだが、日本仕様はあえて低くし1550mmに。そう、何を隠そうこの数値は立体式駐車場にも対応できるサイズに変更されており、マーケットファーストなクルマに仕上がっている。

価格もびっくりで通常モデルが363万円、ロングレンジは407万円。どちらも政府の補助金対象で通常モデルならば、その補助金を使うと300万円を下回るバーゲンプライス。さらに自治体で異なるけれど補助金がある自治体ならばもっとお安く買えてしまう。クルマが高いと言われる昨今、純粋にこの価格だけでも魅力度は高いと思う。加えて重量税の免除など税金が優遇されるのもEVならでは。

オジサンには抵抗のある(?)インテリア

試乗車はドルフィンの通常モデル。ボディカラーはコーラルピンクで内装色もグレー&ピンクに合わされている。車内も同様で若人はいいかもしれないが、筆者のように加齢臭対策を講じるようなオジサンは娘のクルマを借りてきたな、と思われないかしらと、いらぬ心配をしてしまった。

が、しかし。チョイ悪系も流行ったことだしチョイかわ系でヤングのハートを頂くのも悪くないかも(編集部注:……)。なお駐車場には別の色のドルフィンもあったが、クルマのキャラクターにはパステルカラーの方が似合うと感じたのも事実。

シートは一見するとレザーのようだが、ジツはビーガンレザーの人工皮革シート。インパネセンターのディスプレイはスイッチひとつで回転し縦位置にも横位置になるのはアット3同様。そしてドライバー前のメーターはシンプルそのモノ。室内空間はボディサイズから受ける印象よりも余裕があり、後席は十分以上に実用的だった。

トランクスペースは通常で345Lの容量。後席を倒せば1310Lとなかなか。数値だとピンとこないので、例えるなら機内持ち込み可能な60Lクラスのスーツケースが最大8個載る計算だ。

イルカに乗った「中」年

センターディスプレイ下には各種スイッチが並ぶ。その一番右側がシフトセレクターになる。Dレンジを選択してスタート。まさに海を泳ぐイルカのごとく滑らかに動き出した。ウィンカーレバーは国産車同様ドア側、すなわち右側にある。筆者は何度か右左折のたびにワイパーを動かす失態をしてしまい、己の学習能力の無さを披露してしまった。自己弁護するとガイシャという思い込みがいらないほどスムースなクルマだったから。100km/hまでしか体験していないが、アクセルを入れてもモーターのトルク感抜群! というような強力な加速ではないけれど必要十分。ペダルの遊びも適度で筆者が会場に乗り付けたガソリンエンジン車と変わらないフィーリング。かといって安っぽいかと聞かれればそれはノーだし、ちょうどいいコンパクトカーが言い得て妙だと思う。つまり日本の道路事情によくマッチした移動手段なのだ。

減速の操作もまったく違和感がない。回生ブレーキを強めに効かせるモードを選んでも同乗者やノーブレーキランプで後続車もビビるくらいツンのめるような盛大な効きではなく、あくまでもナチュラル。そのあたりはガソリン車から自然に乗り換えられるクルマ作りをポリシーにするBYDらしいモノ。

海岸線沿いの自動車専用道路では直進安定性にあふれ、城みちるのヒット曲「イルカに乗った少年」ではないけれど「イルカに乗った中年」は快適楽チンドライブだったのだ。ただしお節介すぎるセンサーの警告音はちょっと、なのであらかじめオフにした方が運転に集中できるのかも。メーカーもこのあたりは把握済みで今後は何らかのアップデートが行われると思う。

細かい違いは好みの範疇で

ドルフィンには試乗車の航続距離約400kmの通常モデルと約476kmを誇るロングレンジの2モデルが用意される。その価格差は約50万円だが先進安全装備や運転支援システムはどちらも標準装備。ユニークなのは車内にもミリ波レーダーを使い生体を検知した場合にライトやホーンで車外に知らせる「幼児置き去り検知システム」や「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」は兄貴分のアット3にはない専用のモノも。早い話が予防安全装備は充実どころか満載なのだ。

通常モデルとロングレンジの違いはパワーユニットとサスペンションの形状が大きい。通常モデルのモータースペックは70kW(95PS)、180Nmだがロングレンジはよりパワフル。そのスペックは150kW(204PS)、310Nmと約2倍。興味深いのはスペックの違いもそうだが、その発生回転域。通常モデルは3714-14000rpmとレーシングカー並の高回転ユニット。対してロングレンジのそれは5000-9000rpmとなっている。確かに試乗車はシートにめり込むような強力パワーではなかったが、合流などでは息の長い加速に感じた。ロングレンジは体験していないが、手っ取り早い加速を実現するパワフルさなのかもしれない。

また乗り心地を左右する重要なファクターであるサスペンション形状は両モデルともフロントはマクファーソンストラットだが、リアは異なる。通常モデルはトーションビーム方式。ロングレンジはマルチリンク方式を採用。マルチリンクの方が豪勢な印象だが、実際に乗った通常モデルの乗り心地は硬くもなく柔らかくもなく悪くはなかったし、車線変更時でも不必要にアタマが揺られたりフラフラしたりもない。

タミヤもびっくり(?)なバッテリー

BYDはもともとバッテリーメーカーで、つまりEVのカナメを深く作っている。ドルフィンには同ブランドが誇るブレードバッテリーが搭載。これはバッテリーを薄く長い形状にすることでパックの装填密度を高くできるメリットがあり、そのため単位容積あたりの蓄電容量が大幅にアップする。根が文系の筆者にはナンノコッチャ? だが、乱暴な表現をすると、星のマークでお馴染みのタミヤ模型がリリースする電動RCカーの12Vバッテリーのような形状のモノが敷き詰められていると考えて大きな間違いはない。それも昔のコブのあるタイプでないスマートなイデタチの方だ。

ブレードバッテリーはLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)採用。これは安全性とリサイクル寿命の高さが特長。対してEVバッテリーの主流のNMC電池(ニッケル、マンガン、コバルトを主成分としてコストが高い)はLFP電池よりもエネルギー容量が多いのが一般的だが、ブレードバッテリーは高い密度にすることでエネルギーを高めている。

話が脱線してしまったが、ドルフィンはV2H、V2Lに対応する。V2Hは満充電の状態ならば使い方にもよるが約4日間の電力供給ができるという。アウトドアはもちろん、災害時などの非常電源としても頼りになるヤツなのだ。

実際使うとなったら気になるのが充電時間。急速充電、普通充電の2通りに対応しており、6kW出力の普通充電ならば約7.5時間で満充電に。急速充電では30%状態から約30分の充電で80%まで回復する。ドルフィンはクルマを移動手段として、道具として考えるならば驚異的なコスパを誇る。

BYD ドルフィン


価格363万円から
全長×全幅×全高4290×1770×1550(mm)
モーター最高出力70kW/3714-14000rpm
モーター最大トルク180Nm/0-3714rpm
一充電走行距離400km

BYD
ドルフィン
問BYD 0120-807-551

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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