数字が裏付けるディフェンディングチャンピオン
日本で一番売れている軽自動車、N-BOX。売れているってことは市場が「推し」ているクルマでもある。どのくらい「推し」かというと、昨年は22万台近くを販売し、2023年度の登録車を含む新車販売台数1位に輝いている。それだけではない。年度別の新車販売台数では3年連続、軽四輪車カテゴリーではなんと9年連続の首位を獲得しているほど。ちなみに初代のデビューは2011年。そして今は2024年。つまりN-BOXというクルマが存在してからほぼほぼ首位なのだ。昨年にはフルモデルチェンジし魅力をより高めたという。人気モノには目がない本誌。コトのシンソーを確かめねばならぬ。というわけでN-BOXの人気の秘密を探るため、400km近くを走ってきたゾ。
“アレ”もキチンと変わっているのよ!
さて3代目N-BOX。そのエクステリアデザインはよーく見るとさすがに変わっているのだが、シルエット含めたそれはキープコンセプトすぎるモノ。デザインに変化なしと感じるのは、歴代モデルが受け継いできたボディとガラス面積の比率を現行モデルも踏襲し、かつ一目でN-BOXとわかるようなデザインアクセントを採用しているから。いずれにせよミニバンと同じようにどっしりと構えたボディに感じるのはN-BOX流。
フロントガラスやドアガラスは2代目と共通ということもあるけれど、キープコンセプトのデザインでここまでやるか! というのが現行モデルなのだ。そして四角に見えても若干の丸みを帯びたボディはカッコ可愛いアクセント。カッコ可愛いといえばクルマに「N」やシルエットが内外に何カ所か隠し入れられているのでオーナーはぜひ探したい。
今回の相棒はN-BOXの販売比率でもダントツを誇るカスタム系モデル。グレードはカスタムターボ。現行モデルではカスタム以外にターボユニットの設定はなく、誤解されがちだがカスタムでもNAエンジンは選択可能。
カスタム系といえばシンプルなN-BOXに対して、いわゆるオラオラ系なデザインが特長だった。現行モデルは「昔はヤンチャしてました」的雰囲気になったオラオラ系といえばいいだろうか。いずれにしても販売の主力モデルなのだ。カスタム系はアイポイントとして全方位にワイド&ローを印象付ける専用のエアロパーツを着こなす。余談だがフロントバンパーは通常モデルと同一のモノだがメッキなどで差異化をはかっている。ライトは全グレードLED方式採用と贅沢。また試乗車はスレートグレー・パールとブラックのボディカラーのコーディネートスタイル 2トーンというシャレオツな装い。
ミヤビでやんごとなき室内!?
胴長短足の筆者が座ると低く構えるダッシュボードといいN-BOXの魅力は視覚だけでなく圧倒的に広い室内空間。なんでも先代よりも前席の肩側周りが5mm、後席肩側周りは55mm(!)頭上スペースは5mm広くなっている。制限のある軽自動車枠で空間を広げられるのか、と思うところだが現行モデルは未来の万能ネコ型ロボットの道具のように空間が広くなっている。
もともと軽スーパーハイトワゴンの車内は広く感じるし先代も十分広かったから差を感じるのは乗り継いできたオーナーだけかもしれないが、筆者のようなにわか乗りでも驚異的に広く感じる。どのくらい広いかというと、ご当地のゆるキャラが普通に座れるくらい。この様子はN-BOXの公式HPにもあるから要チェック!
話は戻るけれど特に天井の高さはさすが。その頭上空間は書院造にあるような天井を一段持ち上げた折上格天井みたいで軽自動車の空間というよりも、もはや部屋。その部屋のデザインのコンセプトは「囲炉裏」という。要所の角をおおらかに丸めることで優しく包み込むイメージを追求。なるほど室内空間を広くするためにシートのショルダー部分を少し小さくしているというが、こういうことなのかと納得。これは後席からの視界も広くなり、またこの数mmの差は後席の空調の効きも違うという。
そしてお・も・て・な・しも充実。前席のシートヒーターはカスタム系には標準装備だし、ご婦人いや貴婦人方がお喜びあそばされるようなUV・IRカットガラスに加えて優雅に日差しを遮る御簾のようなローラーサンシェードも全モデルに採用されている。
“いとをかし”な使い勝手!
N-BOXの人気の秘密は使い勝手にもある。デジタルメーターはホンダの軽としては初の7インチTFT液晶メーターを採用して視認性がいいし、ステアリングのスイッチで多くの情報を表示可能。筆者が便利だなぁ、と加山雄三のごとく鼻のアタマを掻きながら思ったのはステアリングの切り角がわかるようになっていたところ。これは車庫入れではかなり有用と思う。
後席を倒してしまえば27インチサイズの自転車を乗せることだってできるのだ。しかも微妙な膨らみが自転車を固定するのにも役に立つ。大人2人乗車の前提ならばMTBのトランポとしても使える。そして自転車が乗ればもちろんアイデア次第では車中泊も可能。ただし筆者が試みたのは前席を倒す方法。段差をうまく処理すれば身長175cmの筆者でも屈葬のようなスタイルをせずとも横になれたが、大柄な殿方ならば1人用と割り切るべきかもしれない。
先代で好評だったベビーカーを畳まず載せられるリアシートのチップアップ機能は受け継がれた(写真は片側だけ跳ね上げた状態)。
そして今や軽自動車でもスマホアプリで空調等を操作できてしまうのだ。それを可能にする次世代コネクテッド技術ホンダコネクトをNシリーズで初めて搭載、スマホでクルマの施錠や開錠はもちろんエンジンをかけてあらかじめ空調を効かせておくことも可能。
韋駄天の660cc
走り出すとエコモードでも想像以上にパワフル。流れている都内の幹線道路で信号青、前車同様の流れに乗ろうとするとノンターボの軽ならばクルマにもよるけれど3000rpmは回さないと、気の早い後ろのクルマがやたらと迫ってきそうだが、カスタムターボは回しても2500rpmくらいで十分。この500rpmの差はかなり大きい。感覚的にはリッターカーとほぼ同じ。搭載されるターボユニットは自主規制値いっぱいの64PSを誇り、トルクもNAよりも2000rpm近く低い2600rpmから106Nmを発生させる。しかも軽自動車唯一の電動ウェイストゲート(ターボに送り込まれる余分な排ガスを一時的に逃すためのバルブ)搭載するこだわり。このあたりはさすがF1のホンダ! と思ってしまう。
ちなみにNAエンジンも先代のキャリーオーバー、S07型と呼ばれるモノ。NAながらも58PS、65Nmのスペックを持ち加えて軽初のVTEC採用となれば穏やかではいられない響きだ。NAで58PSという数値はさすがでライバルよりも高く、この辺りも人気のひとつと思う。
ターボのパワーとトルクは高速道路でも余裕の巡行を可能にしてくれる。80km/hで約2000rpm。10km/h速度をあげると約500rpm増える計算になる。キックダウン時などにエンジンはヴォンと吠えるけれど、加速は一瞬後から付いてくるCVTあるあるを極力減らしているのも特長。これはアクセルオン時のエンジンを抑えることでドライバーの感覚に近づけたモノに。
乗り心地も素敵。フィットと同じサイズのダンパーピストンを使っているというし、また現行車では前後のダンパーの減衰力リセッティング。ターボモデルにはタイヤサイズを1インチ大きくしダンパーの減衰力も変更されているという。
それにしても試乗車の静粛性能は高い。カスタム系だけの装備としてターボエンジン以外にはルーフ内側に防音材が使われているが、かなり効果があると思う。そして意外にスピーカーからの音の良さにびっくり。
試乗日はこの手のクルマが不得手とする横風が強い日。高速では気を使うのだが、ACCをオンにするとそれが軽減された、気がする。感覚的なモノかもしれないが、この渋滞追従機能が付いたACCはそんな天気でも頼りになった。乗り心地優先な足回りだが思いの外スポーティな味付け。これだけスポーティだとひとりの時はイケイケで走っても楽しいかも、とヨコシマな考えを持ってしまったが、なんと無限から禁断のスポーツサスがリリースされているではないか!
セカンドカーとしてもファーストカーとしても支持される理由は狭い道から遠出を含めたマルチムーバーとしても使える万能性だったのだ。今回の400kmは高速5割、街中3割、渋滞1割、山道1割。クルマのモタモタ感は感じることはまったくなく、動的な疲れは皆無だった。筆者の好みだと後席の背もたれの角度が起こせる(リクライニングは可能)といいかもと思ったくらい。燃費はトータルで17.3km/L。高速巡行では18.6km/Lまで上がった。カタログ燃費には届かなかったけれど大人4人乗車を考えると十分すぎる燃費だと思う。
N-BOXをベースにアウトドア風を全面に押し出すJOYも年内には登場する噂がある。販売台数の牙城を崩さんと欲するライバルメーカーにあってホンダがラインナップに加えていないのがそのベクトルのクルマ。それが登場予定となるとN-BOXの首位の座はより安泰となるのかも。
N-BOXカスタムターボ
コーディネートスタイル2トーン(FF)
価格 | 222万9700円から |
全長×全幅×全高 | 3395×1475×1790(mm) |
エンジン | 658cc直列3気筒ターボ |
最高出力 | 64PS/6000rpm |
最大トルク | 104Nm/2600rpm |
WLTCモード燃費 | 20.3km/L |