2024年ヒロインの挑戦。傑作『ウルトラQ』『ウルトラマン』のヒロイン・桜井浩子さんが、記憶のすべてを語る書籍作りに挑んだ。気になる内容の一端が、共著者・青山通氏との対談で明らかに。あなたの目はあなたの体を離れ、58年前の撮影現場へタイムスリップするのです――。本誌6月14日発売号に掲載の対談を、「モノ・マガジンweb」の全長版でお楽しみください!
写真/熊谷義久 文/秋田英夫、モノ・マガジン編集部
本書企画の経緯
――特撮テレビドラマの金字塔というべき名作『ウルトラQ』『ウルトラマン』の撮影秘話をまとめられた本書の企画が、いかにして立ち上げられたのか、まずは、その経緯を桜井さんと青山さんにお伺いしたいと思います。
青山 もともとは『ウルトラマン』のイデ隊員役・二瓶正也さんがお亡くなりになった2021年8月に、桜井さんがTwitter(現:X)を始められたことがきっかけになります。
桜井 二瓶ちゃんを偲ぶ意味で、『ウルトラマン』撮影当時の思い出をつぶやいたら、ものすごい反響があったんです。そのころ、体調を崩されて入院中だった飯島敏宏監督からも「貴女なら、何を出していいか悪いかもちゃんとわかっているから、ぜひやりたまえ」と背中を押されたので、その後も『ウルトラQ』や『ウルトラマン』での思い出話をいくつかつぶやくことにしたんです。
青山 桜井さんの思い出話、撮影秘話がとても面白くて、これ『ウルトラQ』で全28話分のお話をうかがって、残しておきたいなという思いが強くなり、「こういう本はどうでしょう」と、出版企画を出したのです。
桜井 飯島監督からも「活字で残したほうがいい」と言われていましたから、タイミング的にもよかったです。本当は飯島監督も私に続いてTwitterをやるはずだったのですが、2021年10月に帰らぬ人になられて……とても残念でした。『ウルトラQ』『ウルトラマン』について、私にしか書けない当時の体験、経験を活字として残すのは、飯島監督、円谷一監督、実相寺昭雄監督、そして脚本の金城哲夫さん、上原正三さん、視覚効果の中野稔さんといった、今や地球を遠く離れた「ウルトラの担い手」の方々から受けた「指令」のようなものなんです。
『ウルトラQ』
毎日新報カメラマン 江戸川由利子
新聞社・毎日新報の社会部勤務のカメラマン兼記者。ニックネームは「由利ちゃん」。持ち前の旺盛な好奇心で怪事件にも怯まず挑む。星川航空のパイロット万城目淳と見習いパイロットの戸川一平と親しく、行動を共にすることが多い。
――企画成立から本書の完成まで、実に2年以上もの歳月がかかったそうですね。実際の作業はどのような形で進んでいたのでしょう。
青山 最初は桜井さんに『ウルトラQ』全28話、『ウルトラマン』全39話を観ていただいて、僕が原稿にまとめていくインタビュー形式でした。『ウルトラQ』第1話から『ウルトラマン』最終回(第39話)まで取材するのに、全部で8日間、時間にして22時間くらいかかりました。桜井さんのお話があまりにも面白くて、インタビュー中はずっと笑いっぱなしでしたね(笑)。しかし、桜井さんご自身でないとわからない現場のニュアンスが、今ひとつ伝わらない。そこで、僕の原稿を桜井さんにリライトしていただくことになったんです。
桜井 青山さんの着眼点はすごいんですよ。最初の「青山版」原稿もよくできていたので、数年後に出して売りましょう(笑)。ですが、飯島監督たち作り手の方々が伝えたかったことと、ファンの方たちが知りたいことって少しズレがあるというか、重ならないところがあるんです。両者のちょうど中間を書くことができるのは、私なんだろうなという思いがありました。たとえば「2020年の挑戦」(『ウルトラQ』第19話)で、壊れた公衆電話から10円玉が何枚も出てきて、私が口笛を吹いてとぼけるシーンとか、なんでそんなところに興味あるの? って疑問に思うんですけど、みなさんが面白いっていうし、じゃあ書いておこうかな、と(笑)。あと、人間を消去・転送する気味の悪い液体(消去エネルギー源)が出てくるでしょう。あのときは「うわあ、みんなまたあんなドロドロしたもの作ってるよ」と思って、見てはいましたがそんなに興味がなかった(笑)。上からドロ~って垂らしてみて、うまく動かないからもうちょっと柔らかい液体にしてみるかとか、スタッフのお兄さんやおじさんたちが一生懸命やっている姿はしっかり覚えているので、そういうところを残そうと意識しました。
青山 『ウルトラマン』のフジ・アキコ隊員になると、出番の少ない回が『ウルトラQ』より増えてくるので、そのような回や出番がない回には全話にまたがる共通の話題を入れるなど、各話のバランスを取ってみました。『ウルトラQ』の江戸川由利子のほうが全編にわたって出番が多いですから、どちらかというと『ウルトラマン』のページ構成に苦労しました。
桜井 『ウルトラQ』は出演者もスタッフも初めての経験ばかりだったから、覚えていることが多いんです。
青山 あと『ウルトラQ』って、放送順と制作順がぜんぜん違っているでしょう。制作第1回(放送第4話)の「マンモスフラワー」がクランクインしたのが64年。そこから始まってゆっくり作っていき、トータルで1年以上もかけている。スケジュールを訊くと、後半のエピソードになるにつれ、じっくりと作るわけにはいかず、忙しくなっていく。制作の進み具合などがつかみやすいのは制作順なので、そういう構成もあるかなと最初は思いました。しかし、現在配信や映像メディアで観られる「放送順」のほうが馴染み深い人もいるでしょうし、本書を読みながら再度視聴するという際には放送順のほうが便利だし、面白いだろうなと思いました。それで放送順に並べたのですが、桜井さんが時系列を意識してお話されているところもきちんと伝わるよう、文章や構成にこだわってみました。
色褪せぬウルトラの思い出
『ウルトラマン』
科学特捜隊隊員 フジ・アキコ
年齢21歳。本部で連絡や通信を担当する一方、事件の渦中に飛び込んで怪獣や宇宙人と戦う勇気ある隊員。入隊以来一度も休暇を取らないほど仕事熱心。美しい真珠に魅せられたり和服で野点をするなど女性的な面も持つ。弟の名はサトル。
――本書は桜井さんの体験による『ウルトラQ』『ウルトラマン』のメイキング要素がふんだんに盛り込まれているということですが、撮影当時、印象的だった出来事をいくつか教えていただけますか。
桜井 詳しくは本書を読んでいただくとしまして(笑)。例を挙げると『ウルトラマン』第31話「来たのは誰だ」で、クローゼットの中から人間大のケロニアが出てくるシーン。あれ、事前に何も知らされていなかったものですから、私はほんとうに驚いているんです。芝居じゃありません。樋口祐三監督はあえて、事前にケロニアの姿を私に見せないようにして、リアルな驚きの表情が見たかったんだと思います。監督をはじめ、スタッフの策略ですよね(笑)。ケロニアの目から出た光線を私が浴びて、倒れ込むシーンでは、どんなリアクションをとればいいのか、いろいろテイクを重ねて、最終的に「これでいこう」と決まったのがあの芝居なんです。本書では、撮影したけれど編集で落とされたシーンや、数秒間の映像を撮るための準備やテストなど、フィルムとして残っていなくても私の心の中に存在している光景を、活字にして残したいと思ったんです。
青山 逆に、僕たちファンからしたらすごくインパクトの強い「怪獣」たちについて、桜井さんに聞いても「気持ち悪いわね」って、バッサリ一言で終わることもありましたね(笑)。
桜井 私、怪獣には興味ないですから(笑)。ピグモンはかわいいなと思いますけど、他はかわいくないなあって。でも、興味がないからこそ、今回作品を見直して、とても冷静に怪獣たちの魅力を分析することができたと思いますよ。
青山 バルンガ は汚かったね 以上。とか(笑)。
桜井 バルンガがそのへんに置いてあるのを見て、汚いなあ、こんなものがバルンガになるのかな。コールタールの塊みたいじゃない……と思っていたんです。足でどけようとしたら周りから「踏んじゃダメ!」って怒られた(笑)。後で映像を観ると、あんなに汚いなあと思っていたバルンガが、見事に不気味で巨大な風船怪獣として表現されていて、やっぱり円谷プロのスタッフはすごい! と思ったんです。
青山 『ウルトラQ』って、M1号やラゴン、ケムール人など等身大の怪獣が出て来て、由利ちゃんも接する機会がけっこうあったから、そちらのほうが強く印象に残っているのかもしれませんね。
桜井 でも、撮影しているときは古谷(敏)ちゃんがケムール人を演じていたなんて、ぜんぜん気づかなかったなあ。思えば、私のすぐ近くにいたんですね~。『ウルトラマン』では古谷ちゃんがウルトラマンを全話分演じていたのは知っていたんですけど、『ウルトラQ』のケムール人やラゴンが古谷ちゃんだったとは……。ケムール人はそれほど怖いとは思いませんでした。「2020年の挑戦」でいちばん怖かったのは、淳ちゃんを演じる佐原(健二)さんが耳を「ピクピク」動かすシーンでしたよ(笑)。
(※万城目淳役の佐原健二氏は自分の耳を動かせる特技がある。「2020年の挑戦」で、ニセの万城目が正体を現してケムール人に変わるシーンは、それを生かして撮影された)
青山 『ウルトラQ』では毎回、奇想天外な怪獣や怪事件に遭遇して仰天する演技が多かったですよね。
桜井 でもね、最初のころは真面目に驚いてたんですけど、回数を重ねるごとにだんだん慣れてきちゃって、そのうち「あ、どうも~」みたいな雰囲気にはなりましたね。怪獣も仲間みたいな感じ(笑)。ラゴンなんて、ロケ地の漁港に馴染んでいて、すごく自然な感覚で現場に入っていましたね。どちらかというと、ラゴンの赤ちゃんのほうが気持ち悪かったな。
青山 ウルトラ怪獣ファン的には、全怪獣の中でも別格扱いにカッコいいと思っているゼットン(第39話「さらばウルトラマン」)も桜井さん「嫌い」っておっしゃって、びっくりしました。
桜井 科学特捜隊の隊員なら当然です! ぜんぶ壊しちゃって、ウルトラマンも倒してしまって、憎らしいじゃないですか(笑)。最終回では、平田昭彦さん演じる岩本博士(のニセ者)にフジ隊員が首を絞められるシーンが印象的でした。平田さん、手が冷たいなあって……そのときの感触もはっきり覚えています。後半で、岩本博士に化けていた宇宙人が正体を明かして逃げていきますけど、あのスーツには、もしかしたら平田さんご本人が入っていたのかもしれませんね。怪獣や宇宙人が出るときは、現場に専門のスーツアクターさんがいらっしゃるのに、あのときは見当たらなかったですから。また、平田さんはクレバーですから、どんなことでも面白がる方なんです。俺がこれ被って走ったら面白いかな、と思っていたのかも……(笑)(後編に続く)
WRITER PROFILE 秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』など特撮書籍・ムックの執筆・編集に携わる。CD『必殺シリーズオリジナルサウンドトラック全集』(1&9)『ザ・ハングマン燃える音楽簿』の構成・解説も担当。
モノ・マガジン 7-2号(6月14日発売)大好評発売中‼
ウルトラマンアーク – 円谷ステーション
ウルトラマンアーク テレビ東京アニメ公式
Ultraman: Rising(ウルトラマン: ライジング) – 円谷ステーション
Ultraman: Rising | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
Ⓒ円谷プロ
後編はコチラ