砂漠のロールスロイス、モノWebに見参!
モノをこよなく愛するモノマガ人のみなさま、良いモノは良いだけの理由があって安価な商品よりも持ちが良いのは自然の摂理。今回もいいモノ揃ってますぜ、旦那。という通販番組のような始まりだが今回は英国王室御用達、ロイヤルワラントのブランド、レンジローバーをご紹介。
レンジローバーといえばランドローバーの上級ブランド。似通った名前でローバーが多くてややこしくなりそうだけれど、トヨタにおけるレクサスのような感じだろうか。いやいや車名なので、クラウンやGT-Rという方が正解なのだが、ランドローバー社のレンジローバー、とにかく一流のクルマづくりを身上とするメーカーのモデルと思えば間違いはない。
ランドローバー社は1948年よりオフロードモデルを製造する老舗。BMW、フォードと紆余曲折を経て今は同胞の名門ジャガーと合併し、かつて英国領でもあったインドのタタモーターズ傘下になっている。嗚呼、歴史はめぐる、である。
さて、レンジローバーの歴史は1970年に始まる。それまではSUV、クロカン系のクルマはどのメーカーも軍用車かトラックがベース。もちろんランドローバーも例外ではなく、同社のディフェンダーは貴族が領内を見回る時など高い走破性が人気のモデル。しかし王侯貴族が領内を見廻る時にふだん使いのロールスロイスのような乗り心地や快適性を持つモデルの需要があり、それがレンジローバーの始まりだ。普段乗っているセダン同様の乗り心地や快適性を持つクロカン、車名のR.R(レンジローバー)と相まって砂漠のロールスロイスの異名を持つ理由だろう。そして砂漠のイメージが強くついたのはランドローバーのシリーズ1があったからだと思う。
受験生泣かせの車名
レンジローバーと一言で言ってしまうけれど、ジツはたくさんのモデルがある。1970年のデビュー当初はレンジローバーで良かったけれど、今ではレンジローバーでもレンジローバー、スポーツ、ヴェラール、イヴォークと4種もある。これにランドローバーの他のモデルも加えれば、受験生泣かせになることは間違いない。しかしレンジローバーとそれだけで名乗るのはひとつだけ。
試乗車はオートバイオグラフィーD300(以下D300)。レンジローバーの中でも上級モデルになり、Dはディーゼルエンジン搭載車を表す。クルマはそのニーズに合わせてスタンダードホイールベースのSWB、ロングホイールベースのLWBの2つが用意され7人乗りもある。LWBは4.4リッターのガソリンエンジン車だけが選択できたが、2025モデルからはPHEVモデル以外ならば選択できるようになった。
気品に満ちた乗りモノ
撮影車両は2024モデルゆえSWB。しかしながら全長は5mを超え、全幅も2mを超える。早い話がデカイのだ。ちなみにLWBになると20cmは長くなる。LWBは普通の駐車場だとフロントがはみ出るのはほぼ必至のサイズだ。
さてD300だ。ボディの凸凹は皆無でドアの隙間も驚異的に少ない。まるでコンセプトカーみたい。
存在感はあるけれど威圧感はなく、ダークにキメてるオプションのシャドーエクステリアパックを装備していても上品な雰囲気がさすがだ。クルマを一回りすると、静かにドアノブと床下からステップがせり出してくる。その所作がまた「いとをかし」なのだ。
あざと可愛いクルマ!?
車内はシンプル。いやダイヤルなどの物理的スイッチが2024モデルから廃止され、よりシンプルさが際立っている。
レンジローバーのシンプルな美しさを感じさせるデザイン哲学「リダクショニズム」も感じ方によってはロールスロイスの「脱・贅沢」と同じベクトルなのかもしれぬ。シンプルにすることで内装や使われている素材を引き立たせる効果も期待できる。今風の言葉なら自分の武器を知っている「あざと可愛い」系といえるのかも。
高級車がディーゼル! とか言わないように
「超」高級SUVなんだから、振動や音に分の悪いディーゼルはちょっと、とお思いの皆さま。D300は別です! エンジンをかけると、ディーゼルユニットを載せていると思い込みがあってもその静粛性には絶対驚くはず。前からのV8っすよ、と軽く言われたら信じてしまいそうなくらい。
マイルドハイブリッド搭載だからでしょ、と言われるが確かに13kW/42Nmのモーターを搭載するが、モーターのみの走行はできないから、徹底的な防音が効いているのだ。
そしてD300の馬力はぬわんとたったの(?)300PSしかない。しかしながら650Nmという豊富なトルクが1500rpmからあるうえ、モーターが組合わされているので、街乗りなら2000rpmも回す必要が皆無だった。
メーターを見るとレッドゾーンは4000rpmから。なんだ、と思うなかれ。高速道路を100km/h巡行時でさえ1500rpmに届くか、というところ。120km/hに速度を上げても1500rpmを少し超える程度なのだ。ちなみにこの速度で巡行していると燃費は13km/Lを超える。3t近いクルマが、である。しかも頑張れば15km/Lに迫るとか。
もちろんその速度で走行していても車内はヒソヒソ話ができないくらい静か。エンジンルームの遮音、合わせガラスに加えて、スピーカーを通じてノイズを打ち消すアクティブノイズキャンセレーションの3身一体の効果がある。
なおエンジンだが、2024年4月26日から受注開始された2025モデルではこのユニットの最高出力がなんと50PSもアップした350PSに。合わせてトルクも700Nmへと増大。車名も出力に合わせてD350になっている。
巨体でも俊敏!?
乗り心地は柔らかいモノ。それは街乗りでも高速でも基本的には一緒。硬いと感じる場面は一瞬たりもなかった。目線も安定しているから道路の数cm上を浮いている印象。快適とはレンジローバーのためにある言葉と思えるくらい。しかも試乗車は23インチという巨大なオールシーズンタイヤだったから恐れ入る。
転しているとSUV特有のステアリングの曖昧なフィーリングも皆無。クネッた道では道幅に対してクルマのデカさは感じるけれど、ダイレクトにコーナーをヒラリと駆けていける。トルクのあるディーゼルエンジンと8ATの相性も良かった。よりスポーツカー的要素を望むなら4.4リッターのV8ターボを載せ635PS、750Nmのスペックを持つスポーツのSVというモデルも控えているのもレンジの奥深い魅力。ちなみにソレは0-100km/hは3.8秒と3t近いクルマとは思えない俊足ぶり。
気になる取り回し性はオールホイールステアリング(後輪操舵システム)を搭載しているのでカタログ値で最小回転半径は5.3mと見た目以上に取り回しはいいのだけれど、物理的サイズは気にしたい。
巡洋艦じゃないの、超豪華客船なの!
ドライバーズカーでもあるけれど特等席は後席だ。リクライニング機能に加えシートヒーター、クーラーはもちろん4席独立のオートエアコンもある。ボタンを押せば左右どちらの席の窓やブラインドも操作可能。後席中央のアームレストになる背もたれも電動で開閉。アームレストになったそれには後席専用のスイッチパネルが。ビックリするのはそこに設けられたリアカップホルダーの開閉も電動。筆者、幼少のみぎりに流行ったギミック満載の筆箱を思い出してしまった。
試乗車にはオプションの11.4インチのリアエンターテインメントシステムが装着されており、陸上のファーストクラス的雰囲気満点。極上のシートに収まっていると癒しの世界。ああ、故エリザベス女王もこの空間この雰囲気に癒されたのね、と思ってしまう。同じベクトルのSUVでもレンジローバーは巡洋艦ではなくまぎれもない豪華客船なのだ。
リアエンターテイメントシステムのヘッドホンも秀逸だけれど、クルマには34個(!)ものスピーカーを備えるメリディアンのオーディオシステムがあるのでどちらでも音楽を楽しめる。このスピーカーは高級クルーザーにあるスミングタラップのようにベンチとしても使えるテールゲートイベントスイート(オプション)を使った時でも楽しめるようリアゲートの裏側にもある。
いかなる時も涼しい顔で
レンジローバーはSUV趣味人の一つの頂点に位置する。悪路走破性はランドローバー譲り。筆者にはできっこないが、このクルマで泥道といった未舗装路をすずしい顔して走れる人こそ本当のオーナー像なのかもしれない。軽量化のためとはいえアルミボディは岩などにヒットして凹んでしまったら板金はできない。むしろ心の方が凹みそうだ。筆者の小市民っぷりを露出してしまった。
また、資料を漁っていたら1998年、まだローバージャパンだった時のレンジローバーのエントリーグレードはインド人もビックリな525万円! それが今やSEで1895万円から。かなりお高くなりました。いや、砂漠のロールスロイスは安い。本家のロールスロイスは倍以上する。レンジローバーは激安なのだ。
本モノを知らないとモノの良さがわからないと、昔から言われる言葉だけれど、なるほどなぁと納得した次第。
レンジローバー
オートバイオグラフィー D300
価格 | 2204万円〜(試乗車2024モデルの価格。25モデルは2264万円〜) |
全長×全幅×全高 | 5065×2005×1870(mm) |
エンジン | 2993cc直6ディーゼルターボ |
最高出力 | 300PS/4000rpm |
最大トルク | 650Nm/1500-2500rpm |
WLTCモード燃費 | 10.5km/L |