お酒博士・橋口孝司の酒千夜Vol.32  “スペイサイドの隠れた宝石”シングルエステートシングルモルトスコッチウイスキー「バリンダロッホ」とは?


スコットランドスペイサイドに2014年創業したバリンダロッホ蒸溜所。最近の新設ウイスキー蒸溜所にしては珍しく、ニューメイクやノンエイジでは一切リリースされることがなかった新しい蒸溜所のウイスキーが、今年日本で初めて発売されることとなったというニュースが発表されました。「スペイサイド最小の蒸溜所」「シングルエステートウイスキー」「スペイサイドの隠れた宝石」など、興味深いキャッチフレーズが並んでいるのが気になっていました。

そんなバリンダロッホ蒸溜所とウイスキーについて、2024年6月14日(金)にホテルモントレ銀座にて開催された「バリンダロッホ蒸溜所セミナー」のレポートと共にご紹介します。

■マクファーソン・グラント家とは?

2014年にスコットランドスペイサイドで創業したバリンダロッホ蒸溜所は家族経営のウイスキー蒸溜所です。創業者のガイ・マクファーソン・グラント氏はこの地に長く居を構えるマクファーソン・グラント家の一族で、現在はバリンダロッホ城の23代当主を務めています。マクファーソン・グラント家は、城だけではなく周辺の広大な土地を所有しており、ゴルフ場や農場、アバディーン・アンガス種の育種、ウイスキー造りなどを行っており、釣りやハンティングができる場所もあります。

マクファーソン・グラント家は、15世紀から続く家柄で、ウイスキーとの関わりは、1869年ジョン・スミス氏に土地を貸し出し、敷地内にクラガンモア蒸溜所が建てられたことから始まります。

マクファーソン・グラント家は長い間クラガンモア蒸溜所に関わっていましたが、最終的に1965年に蒸溜所の株式をDCL(現、ディアジオ社)に売却しウイスキーの世界から離れてしまいました。それから59年後の2014年にバリンダロッホ蒸溜所を建設し、再びウイスキーの世界に戻ってきたのです。

ガイ・マクファーソン・グラント氏はかねてより自らが生まれ育った地で地元の原料を使ったウイスキーを造りたいと考えていました。そして地域に溶け込み、自身の目が行き届くような小規模な蒸溜所を設立しました。

2015年4月に行われた開所式の主賓はチャールズ・カミラ皇太子夫妻(当時)でした。そして開所式でプレゼントした樽は、チャールズ国王75歳の誕生日にチャリティとして販売され全額が王家基金に寄付されたそうです。このエピソードからもマクファーソン・グラントの家柄が分かります。

■シングルエステートウイスキーとは?

バリンダロッホ蒸溜所では、伝統的なウイスキー造りにこだわっています。「シングルエステートウイスキー」としてできるだけ自分の敷地の中でまかなっています。

自家農園で栽培した大麦を使い、仕込み水は敷地内を流れる川の水、敷地内で蒸溜・貯蔵しています。ウイスキー造りの過程で発生する発酵粕は牧場の牛に与え、その他の副産物は肥料として畑に還元しています。蒸溜所の運営は、地元出身のスタッフが経験と技で行い、コンピューターは使用しないという徹底ぶりです。

■バリンダロッホ蒸溜所4つのこだわり

ウイスキー造りについては、4つのこだわりを詳しく紹介してくれました。

①1トンの麦芽で、シェリーバット1本分の麦汁を作っています。フルーティーさを強く出すために、できるだけ澄んだ麦汁(ウルトラクリアウォート)をとることにこだわっています。

②オレゴンパインの発酵槽4つで週5日間稼働しています。92時間〜140時間という長時間発酵させることでフルーティーに。

③蒸溜工程では「プレヒーティング」という珍しい方法を行っています。

④伝統的な木製桶のワームタブを採用。冷却用の水は、冷たいまま使用せずにクーリングタワーで温度を一定に保っています。急速に冷却するのではなく、徐々に冷やすことで胴との接触を増やしゆっくり液化することでライトな原酒に。

■バリンダロッホ蒸溜所セミナーレポート

セミナーでは、バリンダロッホ蒸溜所の創業者のガイ・マクファーソン・グランド氏から直接お話しを聞くことができました。さらに、サプライズの特別ゲストとしてサントリー名誉チーフブレンダー輿水氏も参加した豪華な顔ぶれのセミナーでした。

セミナーでは、創業者のガイ・マクファーソン・グランド氏自らが、マクファーソン・グランド家の歴史や蒸溜所のこだわり、商品の紹介まで話をしてくださいました。

試飲させていただいたウイスキーは4種類。

日本では手に入らないものばかりで、とても貴重な体験でした。

●バリンダロッホ ニューメイク 63.5%(サンプル)※写真一番右
ニューメイクは商品化されていない、超貴重なアイテム。

●バリンダロッホ ヴィンテージリリース2015 50% ※写真右から2番目
今年6月に発売された日本市場向け限定ボトリング商品。バーボンバレル原酒50%とリフィルバーボンバレル原酒を50%で構成されています。
>商品詳細はこちら

●バリンダロッホ バーボンバレル2016シングルカスク 61.5%(サンプル)※写真右から3番目
UK市場限定リリース商品。

●バリンダロッホ シェリーバット2015シングルカスク 60.8%(サンプル)※写真一番左
UK市場限定リリース商品。

特別ゲストのサントリー名誉チーフブレンダー輿水氏からは、バリンダロッホ蒸溜所を訪れた時の話や、セミナーでテイスティングした4つのアイテムについてもコメントを聞くことができました。

また、バリンダロッホはスコットランドのウイスキーの伝統を感じるウイスキーであり、創業者自らがこのように語ってくれることが素晴らしいというコメントもありました。さらにウイスキー造りについては、コストや効率にこだわらず、ゆっくり丁寧に造っているのが羨ましいとも。

これから楽しみな蒸溜所です。

輿水氏と。山崎蒸溜所に伺ってから久しぶりにお会いできて嬉しかったです。

<バリンダロッホ蒸溜所>

創業2014年
所有者バリンダロッホ・ディスティラリー社
発酵槽オレゴンパイン4槽
蒸溜器初溜×1基、再溜×1基
仕込み水敷地内7ヶ所の湧き水
年間生産量75,000リットル

バリンダロッホ公式サイト(英語)
輸入販売 株式会社ウイスク・イー

  • 株式会社ホスピタリティバンク代表取締役 ホテルバーテンダーから料飲支配人、新規ホテル開業準備室長、運営などをてがけ26年間ホテルに勤務。2008年より株式会社ホスピタリティバンク代表取締役に就任。バー開業コンサルティングなどを手がけ酒類関連団体の顧問、理事を歴任し国内外で講演、セミナーを行っている。ウイスキーバープロデュース・運営(2017-2019)を行う。 シャンパーニュ騎士団「シュバリエ」、ベルギービールプロフェッサー、日本伝統濁酒学博士などの称号を持つ。 2015年からは「橋口孝司 燻製料理とお酒の教室」にてセミナーの開催や、ウイスキーを愉しむイベント「ザ・シークレットバー」も銀座と西麻布にて定期的に開催している。 「ディスティラリーパッケージ1992」を皮切りに、「ウイスキーの教科書」「カクテル&スピリッツの教科書」「本格焼酎名酒事典」「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」などを執筆、「世界のウイスキー図鑑」「世界のベストウイスキー」「ハリウッドカクテル日本語版」などを監修。ウイスキー、カクテル、スピリッツを中心に酒類に関する執筆・監修は26冊以上。 Webでは、「たべぷろ」にて執筆(https://tabepro.jp/author/hashiguchi) 「江崎グリコ お酒の話」を監修(https://jp.glico.com/osake/index.html)
  • https://www.hospitality-bank.com/

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