ヤマトを語るうえで音楽は欠かせない。物語の素晴らしさを、戦艦の造形美を、キャラクターの魅力をより引き出してくれる心に響く主題歌とBGM。そして、『ヤマトよ永遠に REBEL3199』も例に漏れず、音楽だってスゴかった!
写真/鶴田智昭(WPP) 文/小林良介
新たな若き才能とともに父の音楽を再構築する
数あるアニメ作品のなかでも『宇宙戦艦ヤマト』の音楽は別格だ。あの胸躍る主題歌も川島和子の美声が響くスキャットも戦闘シーンのBGMも、つくったのはすべて宮川 泰氏。古くはザ・ピーナッツ「恋のバカンス」の作曲で知られるが、数々のヒット曲やテレビ番組のテーマ曲をつくると同時に、リメイク以前のヤマト作品の音楽すべてに携わってきた。
2006年に75歳で惜しまれつつ亡くなるが、2012年に始まった『宇宙戦艦ヤマト2199』でのリメイクにあたり、その音楽を担当したのが息子の宮川彬良氏である。
「僕は中学2年の時に、最初のヤマトと言われるイスカンダルシリーズ、あれをリアルタイムで家の2階の白黒テレビで見たんですよ。それで心を奪われて、〝お父さん本当にスゴいのつくったな〞って誇らしく思ったりし始めてね」
ヤマトは彬良氏にとっても大切な作品である。安易なリメイクはしたくない……と当初は依頼を断るつもりでいたという。しかし、最初にリメイクを担当した出渕 裕総監督は、制作にあたり彬良氏の元を訪ねて「自分もまったく同じ思いです」として、こう言った。
「最初の26本を現代の技術や解釈で演出し直して再現したい。当時の音楽だけでやりたいくらいだけど、新しい音楽が必要になるから、ぜひ力を貸してください」
こうして、彬良氏は父が残した音楽をもとに、リメイク作品に携わることとなったのだ。
「とにかく、すごい大変なんですよ、ヤマトの音楽って。宮川 泰が残したものを再現するだけでも大変なのね。昔のテープを聞きながら その譜面をつくったり」
自分以外の人物には任せられないとイスカンダル編だけに関わるつもりで始めたが、気づけば以降すべてのリメイク作品を手がけることになった。
「そのままだとリメイクする意味がないから、僕のフィルターをちょっと通してね。自分ならこういうふうに書き直すなとか、編成もトロンボーン4人ではなく、3人でいいんじゃないかとか、いろいろなことを考えながら、でもそっくりな音が出るように工夫したり、逆にちょっとだけ新しくしてみようかなとか、いろいろ微調整しながらね」
そして、シリーズ4作目に当たる今作の制作にあたって、彬良氏は新たに音楽家の兼松 衆氏に声をかけた。
「これはね、もう直感です。もちろん兼松さんの音楽を聞いたうえでの〝勘〞なんだけどね」
兼松氏が作曲した、2019年のテレビドラマ『白い巨塔』のBGMを聞き、「これ何? 誰が書いたの?」と魅かれたことが最初のきっかけだったと彬良氏は語る。
その兼松氏は1988年生まれ。リメイク前のヤマト作品は大半が生まれる前の作品となる。
「僕はヤマトに対して、何よりも先に音楽から入ったという感じです。はっきり覚えているのは、小学生のときに音楽の授業で宇宙戦艦ヤマトの主題歌をみんなで歌ったことですね。大人になってから、そういうアニメ作品があったことを知って、ちゃんと真面目に見たのは、おそらく大学ぐらいのころだと思います」
こうして、兼松氏は彬良氏とともにリメイクと新曲制作の両方を手がけることとなった。
メロディが常にあることがヤマトのBGM最大の特長
兼松氏はあらためて過去のヤマト作品を観られるだけ観て臨んだ。そこで感じたことは、劇伴に〝メロディが常にある〞ことだった。
「メロディがない曲がひとつもない。新鮮だし、驚きました」
アニメに限らず、近年の映像作品におけるBGMはメロディが少ないという。兼松氏自身、10年前に比べて直近の5年ほどは「いいメロディをください」との依頼が減少傾向にあると分析する。彬良氏も「より効果音に近い音楽が多い」と同意し、次のように語った。
「地鳴りみたいな音楽くれ、みたいな人が今は多いんじゃないかな。違いがあるとすれば、それは年代。つまり、ヤマトだけがなぜこんなにメロディが豊富なのかっていうと、宮川 泰が洋画に影響を受けている可能性はないでしょうかね」
70〜80年代にかけての洋画のBGMはとてもメロディアスだったと彬良氏。当時の映像は黒が滲むなど全体的にぼやけており、そのぶん、「メロディによって想像力が発揮され、ぼやけた部分を想像で補えるからくりだった」と語る。
「それが今はクリアになって、アニメもCGを使ったりしながらはっきりしているじゃない。そんななかでメロディをあんまり歌われると、多分邪魔なんだろうなって」
はっきり感が強い現代の映像作品にはメロディが似合わないため、注文自体もドライになったと両氏。その点でヤマトは、「メロディに優れた録音だったので気持ちいいな、と思った」と兼松氏は振り返る。リメイクによって画質は現代風になったが、メロディアスな部分は脈々と受け継がれているのだ。
「歴代の監督や音響監督の吉田知弘さんももちろんそうなんだけど、ヤマトのなかの音楽の位置づけを熟知している人たちなんだよね。そう、何が貴重なことか全部わかっている人たちだからね」
音楽優先。それは初代プロデューサーで原作者である故・西﨑義展氏から続く伝統だと彬良氏は語る。
「西﨑さんがとにかく音楽が好きだったから〝音楽からつくるんだ〞って言って、使われない音楽も込みで予定よりだいぶ多く録っちゃうんだって。周りの人はそのおかげで大変だったとか聞きますけど、文化的には良き習慣なの。芸術的にはよくぞやってくれましたっていうふうにつくっちゃったから、一度敷かれたそのレールに乗らないとヤマトの映画にはならないですよね」
もともと音楽制作プロデューサーであった西﨑氏は音楽にこだわった。ヤマト制作に際しても作詞に阿久 悠を起用したり、映画の主題歌を大野克夫の作曲で沢田研二が歌った。さらには布施 明や岩崎宏美を起用するなど、当時のアニメ作品の常識を覆す豪華さだ。
敵軍のメインテーマはもともと彬良氏の作品
インタビューの冒頭では、彬良氏がこんな話も披露してくれた。
「さっき判明したんですけど、僕はもとの作品にも携わっていたんですよ。当時、東京芸大の作曲科に入るため浪人していたときに父親が映画の劇伴をつくっていて、〝おまえも一曲書くか〞って運びになったんですね。それが、この『ヤマトよ永遠に』だったんです」
今回のリメイクにあたってアレンジをしている際に、「このメロディ、なんか記憶があるな」と思ったのが、暗黒星団帝国=デザリアム軍のメインテーマだった。
「鉛筆を舐め舐めしながら、何日間か父親の仕事場の片隅でヘッドホンをつけて書いていたのが思い出されたというかね」
自ら声をかけた兼松氏とともに、父がつくった原曲をアレンジし、新曲をつくり、苦心の末に最新作の音楽は完成した。
「とにかく、元のネタがこってりあるから、逆に自分が全部イチからつくるほうが意外と楽だったりすると思うんだけど、マストな要件があまりにも多くてね。〝あ、うちのお父さん、こんなに書いたのね〞とか言いながら(笑)」
そんな父親に対し、いつしか彬良氏にはこんな思いが湧いたという。
「よくやったね。ホント、褒めてあげるよ」
新作を鑑賞する際にはぜひ、珠玉のBGMにも耳を傾けていただきたい。
「大変なんですよ、ヤマトの音楽って」
「銀河の中心にあって宇宙を凍てつかせる魔女の吐息」とボラーの将校が恐れる存在が今作の敵。地球に迫りくる脅威を不安げに見守る地球の人々。強大な敵の登場に合わせて、まがまがしくも壮大なBGMが重なる。両氏が大変な思いで製作したというBGMも劇場でぜひ堪能いただきたい。
作品情報/上映情報
『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第一章 黒の侵略』
●上映開始日/2024 年7 月19日(金)
●公式サイト/https://starblazers-yamato.net
●公式Xアカウント/@new_yamato_2199
●メインスタッフ
原作:西﨑義展 製作総指揮:西﨑彰司 総監督:福井晴敏 監督:ヤマトナオミチ シリーズ構成・脚本:福井晴敏 脚本:岡 秀樹 キャラクターデザイン:結城信輝 メカニカルデザイン:玉盛順一朗・石津泰志・明貴美加 CGプロデューサー:後藤浩幸 CGディレクター:上地正祐 音楽:宮川彬良・兼松 衆/宮川 泰 音響監督:吉田知弘 アニメーション制作:studio MOTHER アニメーション制作協力:サテライト・YANCHESTER 配給:松竹ODS事業室 製作:宇宙戦艦ヤマト3199製作委員会
Ⓒ東北新社/著作総監修 西﨑彰司
Ⓒ西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト3199製作委員会
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