メカデザインのすばらしさも評価が高い『宇宙戦艦ヤマト』。そのカッコよさに魅了され、心酔した少年は数知れず。そんな当時の思いを胸に、デザイナーを生涯の生業として選んだ人物がいる。日産のカーデザイナー、谷 泰浩さんに話を聞いた。
写真/青木健格(WPP) 文/小林良介
日産自動車 グローバルデザイン本部 アドバンスドデザイン部
谷 泰浩さん
1969年生まれ、宮崎県出身。1992年の入社後にC34ローレルや初代ステージアを担当。日産チェリー千葉で営業職を経験後、 F50シーマやY50フーガのエクステリアデザインに携わる。その後、先行開発モデルを担当し、2020年からはNISMOとアクセサリーの担当となり、NISSAN GT-R NISMO、Fairlady Z customized proto、スカイラインNISMO(上写真)を担当するなど、その業務は多岐にわたる。
ヤマトが大好きな少年が描いたオリジナル戦艦
日産のスポーツブランドとしておなじみ、『NISMO』のデザイナーとしても活躍する谷 泰浩さん。子どものころはヤマトが好きで、登場する戦艦を模写するだけにとどまらず、オリジナルの戦艦もデザインしていたのだという。
「今回の取材にあたり、20年以上ぶりにフリーハンドでヤマトを描いてみましたが、何も見ないでここまで描けることに驚きました」と谷さん。それがこちらのヤマトだ。
さらに、当時描いていたオリジナルデザインの戦艦も再現。
「白色彗星のゴーランドというミサイル艦が好きで、縦2列のミサイル配置とアンドロメダを合体させたらどうなるかなと思って」
谷少年のヤマト愛が伝わるオリジナルの作品に取材班もびっくり。一方でクルマも好きだったことから、谷さんはカーデザイナーの道に進む。そして今、ヤマトのメカデザインは自分のなかで大きな影響を及ぼしているとも語る。
「ヤマトのメカデザインを模写したり、自分で考えていたときの記憶は、自分のなかに絶対残っているんです。自分の“形の引き出し”のなかにヤマトやアンドロメダがあって、それが無意識のうちに出てくるような気がしてなりません。とくに、GT-R NISMO(2024年モデル)のフロントまわりは、ほぼアンドロメダ(笑)。最近のデザインを見返していたら、“これは!”と思いましたね」
ボディの下部が赤く、上部はグレー。デザインした当時は意識していたわけではなかったが、「あらためて見るとヤマトだ」と笑う谷さん。また、「フロントバンパー開口部の中を赤く塗るとカッコいいというアイデアは、アンドロメダの波動砲口からインスピレーションを受けているのかも」とも。まさか、GT-R NISMOに“ヤマトイズム”が宿っていたとは……驚くばかりだ。
NISMOの象徴である赤いラインにステルスグレーというボディカラーを組み合わせたGT-R NISMO。ステルスグレーは“サーキットの路面と空との中間色”がコンセプトだが、「赤色とステルスグレーを合わせたらカッコいいという感覚は、ヤマトの刷り込みがあるような気がしてならない」と語る谷さん。しかし、それは谷さんに限った話ではないのだそうだ。
「同僚とも話していたのですが、僕たち世代のデザイナーはたいていヤマトかガンダムに影響を受けています。あとはスター・ウォーズ。これらの洗礼を絶対に受けている。いや、受けていないわけがない」
では、逆にプロのデザイナーとなった現在、谷さんにヤマトのメカデザインはどのように映るのか?
「たとえば、アンドロメダ。全体の形のカッコよさは語り尽くされていると思いますが、よく見るとボディサイドの面が平面から後ろにいくにつれて丸く変化していくんです。そういう複雑な曲面のデザインをこの時代に完成させていたのは、エポックメイキングな出来事だったのではないかと思います」
そして、谷少年が描いたオリジナル戦艦もアンドロメダと同様に曲面の変化が描かれている。
「ヤマトもそうですが、艦首付近で凹んでいるサイド面が艦尾のほうにいくと凸になっていきます。デザイナー目線で見ると、断面線だけでこの立体感が出せるのもスゴいと思います。こうした面変化のようなものは、ヤマトの絵を描いているときに教えられましたね」
デザイナーだからわかるリメイクの難しさ
当時の作品だけでなく、リメイク作品も観ていると語る谷さん。なかでも当時の作品にはなかったデザインの艦が多く登場したガミラス軍の戦艦に感銘を受けたと語る。
「地球側の戦艦に比べて、ガミラス側はモダンになっていました。白色彗星もそうで、僕が好きなゴーランドもリデザインされていてミサイル艦系も新しい設定になっていましたが、“白色彗星としてのデザインの文法”はちゃんと踏襲しながらも、大きな振り幅でリデザインされていて興味深かったですね。
「リメイクといえば……ヤマトって日産でいえばスカイラインやフェアレディZのような超スーパーコンテンツだと思いますが、昔のファン層を裏切らずに新しいものをつくるところにも、自分としてはすごくシンパシーを感じます」
フェアレディZも歴史のある人気車種。ファンの愛がハンパないだけに、デザインを担当する際のプレッシャーも大きい。「ファンを裏切らずに温故知新を実行するのは難しい」と、谷さんはリメイクの難しさを語るとともに、リメイク版ヤマトの製作スタッフにはシンパシーを感じるのだとか。
昨年8月に発表したスカイラインNISMOではハコスカのグリル形状をロワグリルに取り入れたり、スカイラインの象徴であるサーフィンラインを連想させるサイドステップを採用したりと歴代モデルをオマージュしつつモダナイズする作業も担当した谷さん。
「このさじ加減がすごく難しくて……。だから、ヤマトのデザインチームの方々も期待を裏切らずにどうするかっていう部分は相当苦労されたんだろうなと思います」
そう考えると……デザインという観点で、あらためてヤマトを見直してみるのも楽しいかもしれない。
Ⓒ東北新社/著作総監修 西﨑彰司