【書評】『あの素晴らしい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』加藤和彦・前田祥丈・著/牧村憲一・監修

『あの素晴らしい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』
加藤和彦・前田祥丈・著/牧村憲一・監修/百年舎・刊/3000円+税

昨年、創業60周年を迎えたパナソニックホームズ(以下PH)が、1973年からTVCMに起用している楽曲「家をつくるなら」をリニューアル。持田香織さんとPH住宅オーナー60名による新しい「家をつくるなら」のミュージックビデオ/TVCMを公開している(同社YouTubeにて)。TVCMであること、曲と歌詞の好相性からCM用の楽曲だと思われがちだが、作曲者によれば「CMソングじゃなくて本当に作った曲なのよ」。その作曲者とは加藤和彦。収録アルバムは彼のソロ第二作『スーパー・ガス』だ。1971年10月に発売されたアルバム1曲目「家をつくるなら」は、後にナショナル住宅建材(現在のPH)CMソングに採用され人気を博したことから1973年3月にシングルカット。アルバム発売から一年半後のシングル化というタイムラグも手伝ってか、CM用との印象が広まったのだろう。

前置きが長くなった。本稿の主役は、今年没後15年となる加藤和彦、その人である。彼と同世代のベビーブーマーにおいては「帰ってきたよっぱらい」、ロック/シティポップ愛好家には「サディスティック・ミカ・バンド」(SMB)や「ヨーロッパ三部作」を生み出した先駆者、アニメファンなら「愛・覚えていますか」の作曲者、歌舞伎好きなら猿之助スーパーカブキの音楽など、全体像がつかみ難い代表選手のようなアーティストである。その多才さが評価を難しくしている側面もあるが、とりわけモノマガ世代に印象深いのがSMBでの加藤和彦だろう(ミカ、桐島かれん、木村カエラ、いずれも魅力的!)。そう、プロデューサーにクリス・トーマスを迎えての傑作『黒船』を完成させ、ロキシーミュージックとの英国ツアーでは大好評を博した伝説的バンドの首謀者としてだ。「同じ事は2度しない」彼だから(再結成はお祭りだ!)、軌道に乗ったかにみえたSMBが空中分解しても「しょうがないよね」とどこ吹く風。その時々の関心〜音楽のみならず、クルマや料理、文筆やファッションなど多岐〜に従って極めんとするその〝軽やかな性癖〞こそが加藤和彦の真骨頂。だから2007年に軽井沢で自死したことすら、無論それ自体は悲劇だけれど「興味あったことはやっちゃったから、みんなお先に」というネクストステップ表現だったのでは、はたまた、幕引きまで手を抜かない全身演出家宣言だったかと感受できたなら、貴方も立派な「加藤和彦道」の黒船、ならぬ黒帯だ。

本書は元々1993年のセルフカバーアルバム発売に合わせて出版すべく進められた〝加藤和彦音楽年代記〞とでもいうべきインタビューだったが、当アルバムの制作延期〜中止に伴いお蔵入り。その後、東日本大震災をきっかけに「この貴重なインタビューテープを死蔵させてはいけない」と奮い立ったインタビュアー前田祥丈が関係各所調整の末、2013年に出版した単行本『エゴ〜加藤和彦、「加藤和彦」を語る』を底本とする改題・再出版だ。同時代を生きたアーティストとインタビュアーのトークと分析が心地よいウェーブとなって読み手をつかむ。その心地よさに浸っているうちに、加藤和彦の音楽目線を二重写しに見ている自分に気づく。曰く〝読む音楽〞。結論、必読。四六判。312ページ。

  • モノ・マガジン&モノ・マガジンWEB編集長。 1970年生まれ。日本おもちゃ大賞審査員。バイク遍歴とかオーディオ遍歴とか書いてくと大変なことになるので割愛。昭和の団地好き。好きなバンドはイエローマジックオーケストラとグラスバレー。好きな映画は『1999年の夏休み』。WEB同様、モノ・マガジン編集部が日々更新しているFacebook記事も、シェア、いいね!をお願いします。@monomagazine1982 でみつけてね!

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