■最新のスピリッツブランドランキングとは?
出典:ドリンクス・インターナショナルWeb
昨年もご紹介した世界のスピリッツ(蒸溜酒)とウイスキーに関するランキング最新情報をお届けます。
今回も、イギリスの酒類専門誌「ドリンクス・インターナショナル」が毎年6月に発表している「The Millionaires’ Club(ザ ミリオネアズ クラブ)」を参考にしてまとめた情報です。
今年で23回目となる「ザ ミリオネアズ クラブ」は、年間販売量100万ケース(9リットル/ケース)を超える世界中のスピリッツのブランドのランキング等を発表しています。最新情報(2023年の情報)が2024年6月に発表されました。
発表しているドリンクス・インターナショナルは、酒類の世界三大品評会の1つといわれるISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)を主催しています。
※2022年の情報を書いた記事はこちら「世界のスピリッツ・ウイスキーブランドランキング2022年」
■低迷する世界のスピリッツ
2023年、スピリッツ全体のボリュームは前年に比べてマイナス2%、2022年はマイナス1%だったことから減少傾向が続いていることがわかります。また、スピリッツを種類別に見た場合も、全てのカテゴリーで昨年の増減率よりも悪化しており、2022年には好調だったアガベスピリッツ、ジン、ウイスキーも2023年の伸び率はかなり減少しました。
著者作成(データ出典:ザ ミリオネアズ クラブ)
ザ ミリオネアズ クラブによると、世界的な不況とインフレの影響で、世界の主要な蒸溜酒メーカーの 44% が 2023 年に生産量を減少させたという事です。
今回ザ ミリオネアズ クラブで対象となった155ブランドの内、対前年の販売量が増加したブランドが37%、減少したブランドが48%と、販売量が減少したブランドの方が多くなりました。2022年には販売量が増加したブランドが65%、減少したブランド18%でしたので、ここからもマーケットの縮小傾向を見ることができます。
毎年ブランドランキングトップを保持している韓国の焼酎ブランド「JINRO(真露)」が、今回初めて対前年販売量が減少したこともそれを物語っているでしょう。
ちなみに、スピリッツ全体のブランドランキング1位は「Jinro」(9740万ケース/ソジュ)、2位「Ginebra San Miguel」(3670万ケース/ジン)3位「McDowell’s Whisky」(3140万ケース/ウイスキー)となっています。このトップ3は、ここ数年変わっていません。
■ウイスキーブランドランキング
著者作成(データ出典:ザ ミリオネアズ クラブ)
さて、ここからはウイスキー部門について詳しく見ていきましょう。
まず、ウイスキートップ30ブランドについては、2022年と同じく、インドウイスキーブランドがトップ4までを占め、第5位がスコッチウイスキー「ジョニーウォーカー」、第6位がアメリカンウイスキー「ジャックダニエル」となりました。2016年から続いているこの順位は今年も変わることはありませんでした。前回未発表だった「ジムビーム」が7位に入っています。
国別の販売長のシェアも2022年と変わらず、インドウイスキーが50%以上のシェアを占めました。国別販売総量は、唯一インドウイスキーのみが増加、その他の国は全て減少しています。スコッチウイスキーはほぼ全てのブランドで減少し、全体では7.5%減、アイリッシュウイスキー、カナディアンウイスキーも減少、アメリカンウイスキー、ジャパニーズウイスキーはほぼ変わらず、という結果でした。インドウイスキーの強さが目立つ結果でした。
■世界5大ウイスキーのブランドランキング
ザ ミリオネアズ クラブのランキングを『世界5大ウイスキー』に限定してランキングしてみました。
前回、未発表のためランク外だった「ジムビーム」がランクインしている以外には、順位に変動はありませんでした。
順位は変わらないものの、販売量は全ブランドでマイナスとなっています。
著者作成(データ出典:ザ ミリオネアズ クラブ)
その中でも唯一販売量を増やしているのが、スコットランドで数少ない家族経営を続ける「ウィリアムグランツ&サンズ社」のブランドです。
世界5大ウイスキーのブランドランキングでは、第8位の「グランツ」が対前年+4.8%、シングルモルトスコッチウイスキーNo.1に返り咲いた「グレンフィディック」は対前年+6.2%という実績を残しました。ウイスキー業界の2大グループであるディアジオ社とペルノリカール社が持つブランドが軒並み販売量を減らす中で、また全体的に販売量が減少傾向になる中での大健闘でした。
◼️ウイスキーブームの行方
今回のザ ミリオネアズ クラブの発表を見ると、2010年頃から言われてきたいわゆる世界的なウイスキーブームには、そろそろ陰りが出てきたように見えます。
日本をはじめ世界中でウイスキーブームといわれる中、ウイスキーを造る蒸溜所の数は増え続けてきました。
スコットランドには現在130カ所を超える蒸溜所がありますが、私が初めて蒸溜所データベースの本を出版した1992年には97カ所でした。他の国でも蒸溜所の数は増えていて、例えばアイルランドには約49ヶ所(1992年には2ヶ所)、日本には100ヶ所を超える(1992年には7ヶ所)蒸溜所があるのです。さらに現在建設中の新しい蒸溜所が世界中にいくつもあります。
「ディスティラリーパッケージ」(1992年/橋口孝司著)
さらに既存蒸溜所では、第2蒸溜所新設や蒸溜器の増設などで生産量を拡大してきました。スコッチシングルモルトのトップ3(グレンフィディック、グレンリベット、マッカラン)の蒸溜所ではここ10年で生産量が約2倍にまで増えています。
また、ウイスキー市場では、希少価値の高いウイスキーがオークションにおいて超高額で落札されたニュースが増えたり、投機目的でウイスキーが売買される事も増えました。昨年11月には、「ザ・マッカラン1926」60年熟成が4億円強で落札されたニュースがあり、そういった現象も一部では続いています。
ウイスキー全体でも価格上昇が進む中で、特に日本のウイスキーの価格の高騰は激しく、スコッチウイスキーの同等の商品と比べてその価格差が大きい(大きすぎる)ことは否めません。
例えば、シングルモルト12年:世界ナンバーワンシングルモルトスコッチウイスキー「グレンフィディック12年」は、日本の希望小売価格5,060円(税別)であるのに対して、シングルモルトジャパニーズウイスキー「山崎12年」は希望小売価格15,000円(税別) ※2024年3月までは10,000円(税別) と、約3倍になっています。さらに「山崎12年」は希望小売価格だけでなく、現在の実勢価格で26,000円前後と跳ね上がってしまっているのです。
しかし歴史を遡ってみると、ウイスキーに限らず「ブーム」は繰り返すものです。頂点を越えれば下落していくタイミングがあるものなのです。ウイスキー蒸溜所の歴史も、閉鎖や休業、廃業、合併といった歴史が繰り返されています。
今回のザ ミリオネアズ クラブの発表を見ていると「ブームの頂点は越えたのかも?」という印象を強く持ちました。
といっても、ウイスキーにとっては悲観することばかりではありません。長い時間をかけて熟成し造り上げていくのがウイスキーです。最近高値で取引されているウイスキーの多くは長期熟成されているものです。それらの商品はいつ造られたのか?と考えてみれば、ウイスキーブームが来る前の低迷期だったことがわかります。低迷期だったからこそ、一生懸命、大切に、研究を重ねて造ったウイスキーが、時を経て新たな価値を生み出す、それがウイスキーの魅力でもあります。
加熱したブームが落ち着くことで、希少性だけではない、本当の意味での価値や魅力が見直されていくことを期待しています。